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最初の犠牲者


 「くっ、ムゲンさん!」


 「邪魔するなこの雑兵どもがぁ!!」


 「「ムゲン(さん)の元に行かせろぉぉぉぉ!!」」


 またしてもメグの魔法でムゲンに危害を加えられていた光景が二人の瞳に入った。一度ならず二度までも大事な恋人を傷つけられた事に対して我慢の限界を超えたハルとソルの空気がガラリと一変した。

 ここまでの戦闘では二人は魔力を節約していたが怒りでキレた二人はここで惜しみなく消費して大技を次々と使い始めた。見た目は美しい少女だが戦っているその様子はまさに鬼神、思わず【戦鬼】のメンバーですら少し相手に同情するくらいだ。


 「ぐああああああ!」


 「た、助け…!」


 情けの無い悲鳴と共にまるで子供の様に次々と蹴散らされる兵隊ども。現役のSランク冒険者の逆鱗に触れてしまった代償は大きく次々と戦闘不能に陥っていく。その光景を見てダスト達も思わず敵が闇ギルドの人間と分かりつつもいい気味だと言えなくなる。


 「凄いわねハルちゃん。いつの間にここまで……」


 上級魔法をまるで息をするかのように凄いスピードで次々と放っている彼女を見てマホジョは初めて彼女と出会った時の事を思い返していた。それはまだ彼女が駆け出し冒険者だった頃に自分に頭を下げていた初々しい初心者《魔法使い》だった時。


 『あ、あの有名な【戦鬼】の《魔法使い》のマホジョ・フレウラさんですよね。わ、私に魔法の基礎をどうか教えてくれないでしょうか!!』


 『悪いんだけど他を当たってくれないかしら? 私は人にものを教えるのは苦手だから』


 初めてのマホジョとハルの接触は決して良好な関係でも何でもなかった。マホジョと言う人間にとっては他人との繋がりなどどうでもいいものでありハルの頼みは取り付く島もなく無く断られた。

 だがハルはめげずに度々訪れては頭を下げて来た。そしてずっと無下に突っぱねていたマホジョもとうとう根負けして気が付けば彼女に魔法の知識を色々と教えてあげていた。

 虫も殺せないような顔をしている割にハルは強くなることにかなり貪欲であった。なぜそこまでして大きな力を求めるのか思わず質問をしていた。


 『ハルちゃんはどうしてそこまで強くなりたいのかしら?』


 『……憧れている人がいるんです。その人に追いつきたくて…そしていつか一緒に同じパーティーに入って冒険したいんです。だから今は弱い自分を必死に鍛えたくて…』


 『ふふ…青春ねぇ。その人のこと好きなの? もしかして一目ぼれとか?』


 『ふえええ! そ、そのぉ…あのぉ…』


 『あらら分かりやすい反応ねぇ♪』


 自分が冒険者を続ける理由はハッキリ言ってこの稼業が自分はとっては一番金銭を稼げる道だったからだった。幼いころから貧しい家庭で育ったマホジョは貧困から苦労が絶えず、いつしか人よりも金にがめつい性格だったのでハルのような純粋な冒険者の存在は少し眩しかった。そして同時に彼女の恋路を応援するようにもなっていた。もしかしたら自分は彼女の生き様に憧れていたのかもしれない。


 今まで人との繋がりを大したものではないと、所詮はただの仕事仲間だと軽く見ていたマホジョだったがハルとの時間はいつしか自分にとって楽しみな時間となっていた。

 こんな自分にも笑顔で向き合う彼女と居る間は自分はいつもより笑えた気がする。

 

 やがて教え子だった彼女は自分を追い抜いてSランク冒険者になっていた。普通だったら自分の教え子に追い抜かれたらショックや妬みなど感じるのだろうか? だがマホジョはまるで自分の事のように嬉しかった。


 「……本当に立派になったわねハルちゃん」


 自分の目の前で当時のたどたどしさなど一切感じさせないほどに成長した《魔法使い》の戦いぶりにマホジョは小さく笑っていた。


 「随分と嬉しそうだなマホジョ。報酬を受け取るとき以外にもそんな顔ができたんだな」


 「あら女の顔をそんなじろじろと見るものじゃないわよ?」


 仲間のダストに指摘されて自分が笑っている事にようやく気が付いた。

 師弟関係と言う訳ではなかったが弟子の成長を喜ぶ師とはきっとこんな感じなんだと思う。だが自分だってまだまだ現役だ。このまま指をくわえて見ているだけで終わるつもりはない。


 「やるじゃないハルちゃん。でも私だってまだまだ負けてないわよ!」


 そう言いながらマホジョは残りの兵達の足元に超巨大な魔法陣を展開する。

 

 「くらいないさい! 上級魔法<インフェルノタワー>!」


 かつてハルが使った炎による大魔法。魔法陣から天へと目掛けて紅蓮の業火が燃え上がり残りの兵達は一瞬でその炎に炙られてしまう。

 この兵達もまだハルにやられていた方が幸せだっただろう。何しろ彼女は一見容赦なかったが命までは奪わずに生かしているのだから。だがマホジョは生憎と彼女ほど慈愛に満ちてはいない。少なくとも外道相手に慈悲をかける事はせず残りの立っていた兵達は哀れにも全員が黒焦げの塊となってしまった。


 「相変わらず味方ながら恐ろしい魔法ですね」


 最後の1人の兵を斬り捨てながらギーンが冷や汗をかく。


 こうして全ての兵隊をなぎ倒したハル達はムゲンやアーカー達の方へと援護に向かおうとする。だがそんな彼女達の背後から拍手音が鳴り響く。


 「いやいや見事なお手前で。全滅した兵の中にはそれなりに腕の立つ者も居たんだがな」


 軽い口調でアジトから遅れて出て来たのは1人の男性であった。

 ぱっと見た感じでは特に覇気を感じるほどではない。だが歴戦の《魔法使い》であるハルとマホジョは一目見ただけで本能的に悟った。


 コイツは……かなり不味い……!


 ハルとマホジョの表情が強張ると相手はおどけた口調で馴れ馴れしく話し掛けて来る。


 「そんな怖い顔をするなよ。ウチはこう見えて恥ずかしがり屋だから照れるだろう」


 「ふん、随分と余裕だな。しかし兵隊が全滅してから現れるなんて意外と頭が悪いな。この人数差でまさか勝ち目があると思ってるのか?」


 この戦力差でも未だに余裕をこいている男の態度が気に入らずギーンが剣を構えて一気に突っ込む。

 

 「だ、駄目よギーン! それは迂闊すぎるわ!!」


 仲間の不用意な先行行動にマホジョは静止の声を掛けるがギーンは止まらず剣を振りかぶり勢いよく男の首元に一閃させる。だが彼の一撃が届く前に男の手の甲に魔法陣が浮かび上がり小さく光る。


 「勝ち目があると思っているのかだと? 思っているぞ。だからこうして堂々と出て来たんだろう間抜けが」


 彼の手の甲の魔法陣がひと際強く光ると彼の手の先からは光の剣が伸びる。その剣はギーンの剣をあっさりと切断して逆に彼の首をスパッと通り抜けていく。


 光の筋が通り過ぎた2秒後――ギーンの首がその場に転がった。



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[一言] マホジョが死ぬんじゃないかって思ったからギーンで良かったぁ
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