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変貌


 「本当に闇ギルドの一員になっていたんだなメグ…」


 ギルドマスターから事前に話は聞いていた。それにもし敵として現れた時の覚悟だって決めていたはずだ。だがそれでもこんな形で再会したくないと言うのも事実だ。仮にも同じパーティーの仲間だった人間が闇に落ちた姿は見ていていい気分な訳がない。

 そんなムゲンのやるせない思いとは裏腹にメグはかなり有頂天気味に話し掛けて来る。


 「どうだった無能君。今の魔法凄くなかった? 【真紅の剣】時代では扱えない上級魔法なのよ」


 「随分と嬉しそうだな。大きな力と引き換えにお前は底の底に堕ちたんだぞ」


 「……はあ?」


 確かに以前の彼女はあれだけ広範囲の攻撃魔法を扱えなかったはずだ。恐らくは【ディアブロ】に所属している《魔法使い》にでも教わったのだろう。だが強大な力と引き換えに彼女は人として大事なものを捨てたのだ。それを裏付けるかのように彼女の瞳はどす黒くヘドロの様に濁っている。


 この状況でも叱責じみたセリフを言われメグの額に青筋が1本浮かぶ。


 「はん、マジでアンタのそういうところって大っ嫌いだったのよ。魔力も碌にないカスの分際でさぁ!!」


 そう言うとメグは前面に魔法陣を形成して次の魔法をムゲン目掛けて放とうとする。だがそれよりも先にハルが動いた。


 「好きにはさせません!」


 Sランク《魔法使い》であるハルの魔法の発動速度は先に魔法陣を描こうとしていたメグを上回っていた。彼女の魔法を置き去りにしてすでにハルの魔法は発動していた。


 「<アイススピア>!」


 ハルの放った氷の槍は風を切り裂きながらメグの肩を貫いていく。


 「いがああ!? このクソ女ぁ!!」


 肩を抉られた痛みで魔法を中断してしまうメグ。

 再度魔法の発動準備に入った時にはもうすでにソルが間合いに入っており拳を固めていた。


 「お前には色々と訊きたい事があるからな。今は気絶で勘弁してやる」


 そう言いながらソルの強化された拳はメグの腹部へと突き刺さろうとする――だがその直前でソルが背後に剣を一閃させる。

 彼女が突然目の前のメグでなく何もない背後の空間に剣を振るいムゲン以外の者が不思議に思っているとその理由が明らかになる。なんと彼女が剣を一閃させた空間からいきなり人が現れたのだ。


 「な、なんだコイツ? いきなり何もない場所から現れたぞ…」


 「いえ違います。恐らくは《アサシン》の力で透明化していたんでしょう。以前にも姿を消す《アサシン》と戦った過去があります」


 驚いているダストに対してハルが解説を挟む。

 

 背後から不意打ちをしようとしていた敵を見事に倒したソルであるが前で肩を押さえながらフリーとなったメグが至近距離で魔法を放とうとする。

 だがそのフォローのようにすでにムゲンが彼女の背後に回り込んでおりそのまま組み伏せていた。


 「離せ! 離せこのクズ、無能、無駄飯ぐらい!!」


 自分の真下でじたばたと抵抗しながら唾を飛ばして罵りの言葉を投げ続ける往生際の悪さにソルが呆れた様に溜息を吐き出した。


 「これがかつてはAランクパーティーと言われた《魔法使い》か……」


 「もうおとなしくしていろメグ。これ以上罪を重ねるな」


 そう言いながら彼女を拘束しようとするがここで新たなお客さん達がやって来た。


 「いたぞいたぞ! メグ様が捕まっている!」


 「生ぬるい表ギルドの冒険者風情が! 全員ぶっ殺せ!!」


 アジトの入り口から大量の怒号と共に大勢の武装した人間が出て来たのだ。どうやらこの支部内の兵隊と言ったところだろう。

 こちらへとなだれ込んでくる大量の敵を前にメグを押え込んでいるムゲン以外の全員がそれぞれ構えて対応に出る。

 

 「ぐっ、離せ! いつまで掴んでんだ変態野郎!!」


 自分のパーティーメンバーであるソルとハルに続こうと思いメグをすぐに拘束してしまおうとする。だが体に触れられた彼女は憎々しげそうに睨みつけて来る。

 過去に一緒に何度も戦ってきた人間、決して良好な間柄ではなかったがそれでも知っている顔の人間のここまで徹底的な堕落ぶりにムゲンの顔は悲しそうに眉を寄せてしわを作る。


 「なに…憐れんでんだぁぁぁぁ!!」


 自分が見下しいていた相手の悲しそうな顔を見るとメグの怒りは頂点へと達した。


 何でお前がそんな顔をして自分を見ている? 私はお前と違って【真紅の剣】の有能枠であるメグ・リーリスだぞ? そんな私が押さえつけられて無力化されている? そんな現実なんてあってはならない!!


 「無能の分際でこの私を下に見るなぁぁぁぁぁぁ!!」


 顔だけ振り向けながらメグは血走った目を向けて奥歯をガチッと力強く噛み締めた。


 「……おいお前何を噛み砕いた!?」


 彼女がひと際強く歯を噛んですぐに奥歯に何かを仕込んでいる事を察したムゲンであるが時すでに遅し。突如として彼女の全身から凄まじい魔力が吹き出始めたのだ。


 「な、これは…!?」


 まるでメグの肉体から暴風でも発生したかのような魔力の放出に体が弾き飛ばされてしまう。

 空中で体制を整え着地して暴風の中心地を見るとメグの肉体には目に見えた変化が起きつつあった。


 「あ…あ…アア…!」


 「に、肉体が変形していってる?」


 メグの体が何やら膨れ上がっているのだ。それはまるで風船のように徐々に大きく膨れ上がり破裂寸前まで肥大化する。だがそこまで大きくなるとまるで穴でも開いたかのようにその肉の塊は一気に萎んでいく。


 「縮んでいく…」


 空気の抜けていくような音と共にどんどんと萎む肉塊はやがて人の形へと変形し、そして遂にその姿が定着する。


 「はあ…さっぱりしたわ…」


 「お前…その体は……」


 ムゲンが驚くのも無理はないだろう。女性としてはどちらかと言えば小柄な体格だったメグだが今はまるで逆だ。身長は自分よりも僅かに高くなり、それに肉体の方はかなり成長している。どう見ても今の彼女は二十台の半ばくらいの容姿をしているのだ。


 だがそれ以上に驚くのは彼女の体から吹き出ている魔力だ。


 「(今までのメグとは別物だ。見た目以上にこの圧力…不味いぞ…)」


 「何ぼーっとしてるのよ? もしかしてグラマラスに成長したメグ様に見とれてる?」


 先ほどまでとは違い余裕の笑みを浮かべて挑発してくるメグはおもむろに指をパチンと鳴らす。


 「この変態野郎が。さっさと死ね」


 彼女の発言の次の瞬間――その場でムゲンの体が大爆発を引き起こした。



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