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間抜けなリーダー


 『魔獣の森』に突入してからモンスターの襲撃は何度もあった。それぞれのパーティーは仲間同士で連携して次々と対処をしていく。しかし【異種族の集い】だけは少し違った。彼等は《弓使い》であるウルフにかなり負担を強いているとしか思えなかったのだ。

 勿論アーカー達も全ての戦闘を任せっきりではない。しかし彼等が動くのは自分の身近に迫っているモンスターだけを相手にし、自分からモンスターには向かっていかないのだ。ほとんどのモンスターはウルフが撃ち抜いているので彼等は僅かな討ち漏らしを軽く処理するだけでいい。


 当然だが負担を一人に集中させれば比例してその人物に降りかかる危険性も大きくなる。


 「はあ…はあ…」


 「大丈夫かウルフ? 少し休んでいていいぞ」


 ムゲン達を喰らおうと今もなお次から次へと襲い掛かって来るモンスターの襲撃にウルフの体力は限界が近づいていた。それに《弓使い》が頑強なモンスターを一撃で射抜けるのは放つ矢の1本1本に魔力を注いでいるからだ。彼女の魔力総量がどの程度のものかは知らないがあれだけの本数に魔力を注いでいるのならそろそろ限界だろう。

 

 「だ、大丈夫です。回復のポーションがありますので…」


 そう言いながら彼女は魔道具である収納袋からポーションを1本取るとソレを飲み干して魔力を回復させる。

 確かに魔力はポーションで回復するのかもしれない。しかし精神的な疲労は拭いきれないはずだ。

 

 チラリとアーカー達の方を見てみるがウルフを心配する素振りすらない。それどころか彼女に不満を漏らす始末だ。


 「何やってるんだお前は! 奴隷である《弓使い》のお前は俺達に襲い掛かるモンスターを出来る限り撃ち抜いて処理しろよ! ポーションもタダじゃないんだぞ本当に使えない狼だな!!」


 ほとんどの戦闘をウルフに任せておきながらこの言いようにはムゲンも思わず怒鳴りそうになってしまう。他の皆も襲い来るモンスターを退治しながらアーカーへ冷めた目を向ける。だが当の本人はそんな視線など気にもせずウルフへと偉そうに命令を出し続ける。


 「ほらポーションを飲んで魔力は復活しただろ! なら早く次々とモンスターを狩れよ。お前がしっかり働かないと俺達が疲れるだろうが」


 もうこんなもの、パーティーなどとはとても言えなかった。

 リーダーであるアーカーは偉ぶるだけでほとんどの戦いをウルフに任せている。他の二人のメンバーであるキャントとケーンも同様だ。


 この光景はかつての自分のパーティーを嫌でも連想させてしまう。

 仲間達のフォローに何度も手を焼かされ、そして碌に活躍もしていないメンバーに手柄を取られ挙句は『無能』と蔑まされる。

 

 もういよいよと我慢の限界が訪れたムゲンは気付けばアーカー達に物言いをしていた。


 「黙って聞いていれば好き勝手ばかり言っているなアーカー。そこまで言うからにはお前はウルフよりも活躍してくれるんだろうな?」


 「な、なんですか急に怖い顔して…」


 今まで自分が何を言っても堪えていたムゲンが急に敵意にも似た視線を向けてきたので少し戸惑うアーカーだが、すぐに調子を取り戻すと胸を張ってこう答える。


 「当たり前ですよ。そんなパーティーに途中加入した奴隷と違って俺はこのパーティーをずっと支え続けてきた大黒柱ですよ。その証拠を見せてやりますよ!」


 自分が口先だけでないと見せつけるために今まで自分に近づく敵だけを対処していた彼は一気に飛び出すと前方の魔獣の群れへと突っ込んでいき次々と獣達を斬り捨てていく。

 仮にもAランクパーティーを纏めてきた冒険者と言うだけあって低レベルのモンスターは楽々と狩っていく。


 「どうですかムゲンさん? これが俺の実力ですよ。そこの狼女よりも俺の方が優秀だって理解しましたか?」


 あからさまなドヤ顔で低級モンスターを切り裂いていくアーカーだが、その直後に彼の快進撃は止められる事となる。


 「あ、危ないです! そこから離れてください!」


 「ああん、いきなり何だ奴隷? 俺に指図するなんて何様のつもりだよ?」


 何かに気付きいきなり大声でその場から離れるように叫ぶウルフに舌打ちをしながらアーカーが睨みつける。奴隷ごときが自分に命令するなと睨む。だがその直後に何者かによって彼の身は強い衝撃と共に弾き飛ばされた。


 「うがあ!? な、なんだぁ!?」


 吹き飛ばされながらもアーカーは周囲を見渡すが自分を襲ったと思われるモンスターは見当たらない。近くに転がっているのは自分が今しがた斬り殺した魔獣の亡骸しか存在しないはずだ。

 だが混乱するアーカーの体に一瞬で何かが巻き付いて彼は空中に吊るされてしまう。


 「な、植物のツタ? こ、これはまさか…」


 まるで意志でもあるかのように自分の体に巻き付いている植物のツタ、そのツタが伸びている方に目を向けるとそこには巨大な樹木が大地から生えている。しかしアーカーはすぐにこの樹木の正体を理解して叫ぶ。


 「モ、〝モンスターツリー〟じゃないか!」


 彼が口にしたモンスターツリーとは植物型のモンスターである。周囲の木々に隠れ、擬態して油断している獲物を捕らえる習性を持つ怪物だ。

 そしてモンスターツリーの恐ろしさは相手の養分、つまりは魔力を吸い取る能力を保持している点だ。


 「ち、力が抜けて……」


 自分に纏わりついているツタを手に持っている剣で切断しようとするアーカーだがモンスターツリーの魔力吸引スピードは一般人ならば10秒も持たず干からびてしまう。Aランク冒険者である彼もみるみると顔は青ざめ頬はコケていきその命はデッドゾーンに突入する。


 「ヤバいぞ! 急いであのツタを斬ってアーカーを救い出せ!」


 このままではアーカーが死ぬと焦りケーンは斧を持って一気にモンスターツリーへと駆け出し、キャントは魔法を発動してツタを燃やそうと試みる。

 だが二人が動くよりも先にすでにムゲンは動いていた。肉体強化を施した彼はケーンを一瞬で追い抜き魔力を一点に溜めた右拳をモンスターツリーへと叩きつける。

 その一撃は強大でモンスターツリーの胴体に当たる幹は割れて後ろにへし折れ倒れる。


 「な…あの巨大な樹木のモンスターを拳の一撃で……」


 斧を握りしめながら駆け出したが結局は出番無く終わったケーンはムゲンに戦慄した。離れた場所で魔法を発動しようとしていたキャントも同様に口を開けて間抜けに固まっている。

 そんな二人の視線など気にせずムゲンはアーカーを救い出すと小さな声で呟いた。


 「何が俺の方が優秀だよ。ウルフはちゃんとあの擬態モンスターの存在に気が付いてお前に警告していたぞ。それに比べてお前はこのざまだ。少しは反省したらどうだ?」


 ムゲンの呆れを含んだその言葉を薄れている意識の中で聞いたアーカーの中に怒りが沸きあがる。そしてウルフの事を理不尽に睨みつけるとそのまま気を失った。

 気を失う直前に恨みがましくウルフを睨んでいた事に気付いていたムゲンは内心で大きく溜息を吐く。


 「(自業自得だと言うのに今コイツはウルフを睨んでいた。たくっ…完全な逆恨み、まるで昔の誰かさんを見ているみたいだ)」

 

 この時にムゲンの頭の中には【真紅の剣】時代に口先だけの間抜けなリーダーの姿が浮かんでいた。


 こうして約一名死にかけつつもムゲン達は『魔獣の森』を無事に突破したのだった。



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