パーティー結成
二人からの勧誘を受けチームを組んだムゲン、ハル、ソルの三人が真っ先に訪れたのは冒険者ギルドであった。チームを組むことは決定したので正式にパーティ―名をギルドに登録する為だ。
ギルド内に入れば周囲の目はやはりこのギルドで最高ランクであるハルとソルの二人へと向く。
「おお【双神】の二人だぞ」
「くぅ~相変わらず二人ともイイ女だよなぁ。酒に付き合って欲しいぜ」
冒険者としての実力もそうだがハッキリ言ってこの二人は超が付くほどの美少女だ。それだけでも周りの男の目を引くには十分であった。
周囲の男達の下卑た目線にソルは露骨に舌打ちをかましてやる。
「チッ、いつもじろじろ見やがって」
まだ駆け出しの頃は二人ともこのような視線に慣れずにいたが今や歴戦の冒険者、この程度の視線には動じない程に逞しく育っていた。
だがそんな成熟した精神の二人であったが今回は我慢できない事があった。
「おいアイツって確か【真紅の剣】のお荷物じゃねぇか」
「何であんなヘボが【双神】の二人と一緒に居るんだよ?」
「だよな、身の程知らずにも程があるだろ」
「どうせ荷物持ちかなんかだろ。じゃなきゃありえねー」
まあ…おおよそ周囲のこの反応は予想していた。
ギルド内でも自分はお荷物と言う認識が強い。そんな悪い意味で有名な人間がSランク様と一緒に居れば顰蹙を買うだろう。
ムゲン本人としてはもうこのような扱いに慣れているので無視を決め込もうとした。だが彼を尊敬し、そして恋心を抱いている二人の乙女はこの発言を聞き流すことは不可能であった。
「おいそこのお前…」
「おっ、もしかして一緒に呑んでくれるのか?」
近くの席で酒をあおっている中年冒険者に近づいて行き声を掛けるソル。
男の方はもしかして自分と一緒に呑んでくれるのかと盛大に思い上がり気安く彼女の腰へと手を伸ばして来た。
だがそんな男の手を避けると彼女は男の胸倉を掴むとそのまま頭から彼の体をテーブルへと叩きつけたのだ。テーブル上の酒やつまみが散乱し男は顔面を打ち付け鼻血を垂らす。
いきなりの事態に混乱している男の頭を鷲掴みにしてソルは恐ろしいほどに冷え切った声でこう言った。
「ムゲンは私達の大事な仲間だ。次ふざけた事を言ったらお前の頭蓋を卵みたいに割ってやる」
「いがっ、いででででで!?」
頭部を掴んでいる彼女の手の中からは何やらギチギチと嫌な音が響く。
このギルド内の最強格の人間にそう言われてしまえば他の連中も黙るしかなくギルド内のムゲンへの野次はピタッと止まった。
「お、おいソル少しやり過ぎじゃ……」
「いえ全然やり過ぎじゃありませんよムゲンさん」
「え、いやでも…」
「むしろソルはあれでもかなり容赦していますよ。私だってムゲンさんを悪く言う人達に本当なら魔法を叩きこみたいところを必死に堪えていますから」
そう笑顔で額に青筋を浮かべながら口にするハルは自分を仲間に勧誘した時とはまるで別人、笑顔だからこそぶっちゃけた話感情を赤裸々に出すソルよりも怖かった。
それにしても自分の為にここまで怒ってくれた人間なんて何時ぶりだろう。嘲笑われ、貶される事は多々あったがこんな風に自分の尊厳を守ってくれる人間なんて本当に久しぶりだ。
こんな事ならもっと早くこの二人とパーティ―を組むべきだったかなと彼は【真紅の剣】で過ごして来た時間を軽く後悔するのだった。
「ほら早く登録するぞムゲン」
いつの間にか隣までやって来ていたソルに腕を引かれて受付まで誘導される。
少し強引な振る舞いではあるがムゲンはどこか嬉しそうに小さく笑っていたのだった。
それからの話をするが特に問題は無かった。受付嬢が自分なんかの無能と【双神】の二人がパーティ―を組むことに驚いてはいたがそれだけだ。パーティ―は問題なく結成できた。その際にソルとハルはチーム名の変更も自分がよそ見をしている隙に行っていたのだ。
いや、まあ確かにチーム人数が3人になったから【双神】はおかしいかもしれないが何故新たなチームが【黒の救世主】なんだよ。これって二人に聞けば過去に二人を救ったオレに憧れと尊敬の意味を持って付けたらしいじゃん。ちなみに黒の英雄は黒髪とそこは安直だった。
まあチーム名にツッコミどころもあるし恥ずかしいがそれもいいだろう。
でもさすがにこれは色々とアウトじゃないか?
「おいハルもうちょっと左に寄ってくれよ。私のスペースがほとんどないぞ」
「そう言うソルこそもっと詰めてください」
「いや…お前たち何でオレのベッドで一緒に寝てるんだよ?」
パーティー登録が済んだその後、ムゲンは二人が宿泊している宿へと足を運んだ。元々利用していた宿屋は【真紅の剣】の連中から追い出されたのでこれからは彼女達が利用しているここで腰を落ち着ける事にした。
自分が元々居た宿と同じ、いやそれ以上に快適な空間だった。と言うのも元の宿屋は【真紅の剣】が居るという事で従業員からも自分はAランク様の無駄飯ぐらいと陰で言われていた。だがこの宿の人間はとても心優しく良い人ばかりだ。
そして明日から三人で依頼を受けようと決まった訳だがここで一つ問題が発生した。
何とムゲンの部屋にハルとソルの二人がやって来て半ば強引にベッドに入り込んで来たのだ。寝間着姿の女性二人に挟まれ、女性特有の甘い香りと柔らかな感触に中央で挟まれているムゲンはとてもじゃないが緊張して眠れない。
「な、何で俺のベッドに入って来るんだよ? と言うよりもいくら仲間とは言え寝る時まで三人仲良くはやり過ぎだろう」
自分のことを信頼してくれるのは大変嬉しいがこれはやり過ぎだ。
だがムゲンがそう言うと二人の乙女はぷくっと可愛らしく頬を膨らませる。
「仲間だからと言う理由だけで一緒のベッドで寝る訳ないだろ」
「そうです。私もソルもそこまで誰彼構わずこんな事はしません」
「じゃあどうして俺にはここまで大胆にするんだよ」
ムゲンが目のやり場に困りながら訊くと二人は少し照れ臭そうにしながら同時にその理由を言った。
「「そんなのあなたが好きだからに決まってます(るだろ)」」
全く隠す事もないドストレートな告白にますます少年は顔を赤らめる。
「私もソルもずっとあの日、あなたに助けられた日からあなたをお慕いしてました」
「そうじゃなきゃここまでサービスしないぞ」
そう言うと甘えるように二人は彼へとより一層密着する。
二人はずっと待ち望んでいた。この人と共に対等な仲間になりたいと。そして…この人に長年抱き続けていた愛をぶつけたいと。
「私もソルもムゲンさんに救われたから今があります」
「だから私達の命はお前の物でもあるんだよ」
そう言うと二人はそっと同時に彼の頬へと口づけをした。
「「ずっと……あなた(おまえ)とこうして触れ合いたかった……」」
その言葉でムゲンは完全に脳内がショートしたのか顔から湯気を出し気絶してしまった。
「ありゃ、気ぃ失ったぞ?」
「さすがに段階が早すぎましたね。でも…いつかは……」
少し物足りなさを感じつつも二人はムゲンの腕に抱き着くとそのまま幸せな寝顔を浮かべて眠りにつくのだった。
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