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魔女となった少女


 巨大闇ギルド【ディアブロ】、そのギルド名は冒険者稼業をしばらく続ければ耳にする機会はある。しかし名前こそはよく耳にするがそれ以外は謎の部分があまりにも多すぎるギルドだ。仮に【ディアブロ】に所属している者と遭遇してもその情報は決して表の世界には出回らない。何故なら接触した者はそのギルドに所属している手練れの猛者に殺されてしまうからだ。つまりは死人に口なし、それが基本だ。


 だが中には【ディアブロ】の人間と接触しても例外的に生き残る者も存在する。


 現在ムゲン達が向かっている【ディアブロ】の第3支部では一人の少女が残虐な行為を働いていた。


 「ほらほら凡人ども、もっとこの私の成長に協力しなさいよ」


 「うわぁ、やめてくれぇ!?」


 「いやああ助けてぇ!!」


 一人の《魔法使い》の少女が第3支部近くの開けた外に人を集めて遠距離から魔法で逃げ惑う人々を攻撃していた。

 この集められた人間と言うのはこの支部の兵隊に攫われてきた本当のただの一般人だ。彼らはこの【ディアブロ】に何一つとして仇成すような行為をしていない。ただこの『魔女』の魔法の被験者として弄ばれるために連れてこられたのだ。


 上空から降り注ぐ様々な種類の攻撃魔法、周囲には隠れる場所もなく、ましてそれを力なき一般人には防ぐすべもなく次々と無残に死んでいく。

 しかもこの場に集められた人達は初めから生き残る為の退路を断たれていた。


 「だ、だめだ。この〝見えない壁〟のせいで外に逃げられない!」


 一見開けている野外ではあるが実はこの周辺には簡易的な結界が張り巡らされているのだ。それなりに腕の立つ冒険者なら力づくで結界を破壊して外に脱出できるだろう。しかし戦う力を持たない者にとっては堅牢すぎた。


 「あらら、ついにアンタ一人になってしまったわね」


 「ひっ、な、何で……何でこんな事を……」


 気が付けば大勢いた自分と同じここに連れてこられた人間は皆死に、自分だけがこの地獄に取り残されている状況だった。

 ある者は炎で焼かれ、ある者は雷に打たれ、ある者は氷漬けにされ悲惨な死体と変わり果てていた。

 

 結界をこじ開けようと何度も手で押したり引っ掻いたりしている男性の手は爪が割れ血が滴っている。だがそこまでしても逃げられない無力な彼に少女はケラケラと嗤う。


 「無様じゃん。力がない奴ってのは必死になっても死ぬときは死ぬ。哀れねぇ…」


 「な、何で俺達がこんな目に合わなきゃならないんだよ? ただ毎日を平穏に生きたいだけだったのに……」


 そう、別に自分達は冒険者の様な危険な世界とは無縁の世界に居たはずなのだ。決して裕福ではないがただ安定した平和な世界で生活していただけだ。それがどうしてこんな目に合わなければならない?


 そんな悲痛な表情で訴えると少女は邪悪な顔でこう言った。


 「私が最強の《魔法使い》となるための糧になってもらうためよ。ただモンスターを倒すだけじゃいつまでも私は先の領域に進化できない。この【ディアブロ】と言う闇ギルドで成り上がる為には精神的な甘い部分を取り払わなきゃならないのよ。だからあんた達〝人間〟を理不尽に殺しているのよ」


 「そ、そんな理由の為に何の罪もない人を何人もこうして殺しているのか!?」


 「分かってないわね。その〝何の罪もない〟からこそ意味があるの」


 そう言うと少女は炎の魔法で最後の一人を容赦なく火あぶりにした。


 「あぎゃああああ!? 熱い!! あついいいいいい!!」


 全身が火だるまになり苦悶の表情で転げまわる男性。

 しかしまるで粘液の様にこべりついている業火は転げまわっても消火されず、やがて力尽きた男はそのまま仰向けに倒れ動かなくなる。


 「ふふ…もうこれで何人殺したかしら? この容赦のなさこそが私を更に凶悪に成長させる」


 かつて自分は表側の正規ギルドで名をはせていた。しかし仲間が一人減っただけで自分のパーティーは落ちに落ちぶれた。本当に無能なリーダーに任せきりで生きていたからこそ自分はいざとなったら役立たずとなり果ててしまったのだ。

 パーティーの持ち金を全て盗んで当てもなく彷徨っている時に偶然にもこの【ディアブロ】の《魔法使い》と遭遇した。


 その人物は別の国の騎士達を強大な魔法で一方的に蹂躙していた。さながら地獄の様な光景だったが自分はその強さに同じ《魔法使い》として畏怖以上に憧れを抱いた。


 『なんだ小娘? ウチの前に堂々と現れて何か用か?』


 『お願い! 私を…私をあなたの弟子にして! 私はもっと強い《魔法使い》になりたいの!!』


 気が付けば自分はその男性の足元で土下座をしていた。

 もうあんな落ちぶれた自分を晒したくなかった。たとえ相手が〝善〟でなくともこのレベルの力を手にしてまた成り上がれるのなら〝悪〟にだって魂を売ってやる。


 目の前で土下座をしながら懇願する少女を見て男は小さく笑う。


 『ならまずは覚悟を見せてみろ。そこにまだ一人生き残っている騎士が居るだろ。それをお前が止めを刺せ』


 少女が地面に擦り付けていた頭を上げて背後を見るとまだ微かに息のある騎士が確かにいた。もう両足はズタズタで動くこともできない瀕死状態だ。

 

 『お前が本気でウチに教えを授けてほしいなら『非情』になれ。魔法使いはあらゆる犠牲を払い魔を追求すると言うのがウチの考えだ。その為に善悪と言う概念は捨てろ。人の命を虫と同じように奪ってみろ』


 『や、やめ……』


 少女は何のためらいもなくその騎士に魔法を放ち命を断った。

 この瞬間に彼女は悪魔に魂を差し出したのだ。


 『一切の躊躇なくか…いいぞ、気に入った。お前の名前は?』


 『……メグ。私の名前はメグ・リーリスです』


 かつて【真紅の剣】の所属していた《魔法使い》の少女はこの日より冷酷な魔女へと変わり果てたのだった。



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[一言] 落ちるところまで落ちたなぁ
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