奴隷
この世界には〝亜人〟と呼ばれる種族が存在する。彼ら、また彼女らは〝人間〟とは違い様々な肉体面の違いが見られる。そしてそれに伴って呼び方も変わって来る。
例えば耳が長くそれ以外は人間とほぼ変わらぬ容姿のエルフ、例えば一見すれば凶悪なモンスターに見えるが意思疎通が可能なリザードマンと言う種族、その他にも亜人の種類は様々と膨大だ。
そして噂によれば【ハンティラ】のギルドには少数ながら亜人が人と混じり冒険者として活動をしていると噂も聞いたことがある。
今回【ハンティラ】のギルドから派遣されたパーティー【異種族の集い】は全員が別々の種族で構成されていると事前に聞かされてはいた。だから亜人がこの場に居る事は何も不思議ではない。
だがその中で明らかに不遇な扱いを受けている事を一目でわかる少女が居た。
その少女からはイヌ科を連想させる銀色の耳、そして尻尾が生えている。恐らくは狼女の類なのだろう。見たところ武器の類は持っておらず大きな荷物袋だけしかない。
その中でも一際目立つのは彼女の首に着けられている首輪だ。もし自分の記憶が正しければあの首輪は……。
明らかに異彩を放つその少女を放っておいて【異種族の集い】のリーダーが何食わぬ顔で自己紹介を始めてきた。
「僕は《魔法剣士》のアーカー・デュランです。一緒に力を合わせて戦いましょう。言うまでもなく人間です」
「私は【猫族】のキャントだにゃん。《魔法使い》やってますにゃん」
「俺は【犬族】のケーンだ。見ての通り職業は《戦士》だ」
キャントと名乗った少女は見た目で言えば猫の耳と尻尾が生えている以外は普通の人間と変わらぬ容姿をしている。だがケーンは動物の特徴が強く出ており強面の猛犬が服を着ている感じだ。体格もこのメンバーの中で一番大きく、背中に背負っている斧がさらに威圧感を増している。
そして三人の自己紹介を終えると最後に残った狼女の少女が自己紹介をしようとする。
「あの、私は……」
「ああはいはい、お前は名乗らなくていいだろ。ほとんど荷物持ちなんだから」
少女が名乗ろうとするがそれをリーダーのアーカーが必要ないと切り捨てる。
おざなりに扱われているにもかかわらず少女は暗い顔で俯いて黙り込んでしまう。その表情は悲しみだけでなく諦めの色も漂っていた。
「すいませんね。コイツはただの荷物持ちなんで空気として扱ってください」
自分の仲間を信じられないほどに雑に扱うその態度にムゲンは怒りを抑えきれる訳もなかった。
「どうして自分のパーティーメンバーをそんな風に扱っているんだ? 彼女だって大事な仲間なんだろう?」
「あー…まあ多少は動けるので全く戦力にならないわけではないんですけどね、まあ所詮は数合わせですよ。奴隷商から『購入』した狼女です」
アーカーの口から出てきた『購入』と言うワードにムゲンはやはりとしかめっ面になる。
悲しい話だが奴隷商は一部の国では禁止にされている職業だが大抵の国では珍しくもない仕事だ。親や貧しい村に売られた子供や、中には借金の返済の為に自らの身を売りに出す女性だっているくらいだ。
どうやらあの狼少女はこのアーカーに買われたらしいのだ。その理由と言うのが彼女がそこそこ戦え、そして何より『亜人』だからだそうだ。
「俺のパーティーは全てが別種族で構成すると言う拘りがあるんですよ。とは言えギルドに所属している亜人は少ないんですよ。だからこの狼女を買ってウチのパーティーに入れたんです。それに見た目は美少女ですから俺のペットとして置いているんです。俺が金を出して購入した訳ですからね」
確かに奴隷商は国が正式に認めているビジネスなのだろう。しかしこの男は完全にあの狼少女を『モノ』として認識している。ハッキリ言って聞いているだけで胸糞が悪い。
特に奴隷の少女が自分と同じ女と言う事でソルは後先のことなど考えずアーカーに掴みかかろうとする。
だがソルが前に出ようとするとダストが行く手を遮って、わざと大きな声を出して話を強引に終わらせようとする。
「よしこれで互いの自己紹介は終了したな! それじゃあ早速出発しよう!」
ダストはそう言って【異種族の集い】の面々を先に歩かせる。
当然納得のいかない彼の対応にソルは噛みついた。
「おいどういうつもりだ? あんな酷い扱いを受けている娘を何で無視する?」
「俺達が口を挟んでも仕方がない事だからだ」
ソルの言葉に対してダストはバッサリと切り捨てるように言い切った。
「俺だって彼女の境遇には同情する。だがな、俺達が何かを言ったところで何が変わる?」
その言葉は残酷だが的を射ていた。彼等【異種族の集い】は他のギルドの冒険者パーティーだ。それにあの狼少女はアーカーに正式に買い取られている。ここで自分達が何を言おうが何の力も無いだろう。
「それにこれから一緒に背中を預けて戦うんだ。この任務が終わるまではいざこざは無い方がいいだろう?」
確かにダストの言い分も理解できる。しかしそう簡単に割り切れないのも人間なのだ。
かつての自分の様に同じパーティーメンバーに仲間として見られていない少女は過去の自分と瓜二つではないか。
だが自分がここで吠えてもどうしようもない。その現実にムゲンは暗い表情の狼少女を見ながら拳を握り震えることしかできなかった……。
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