それぞれの冒険者パーティー
闇ギルドの支部壊滅の為に3つの冒険者パーティーが集結する事となった。
予定していた集合場所へとムゲン達が最後に到着すると早速2つの内の片方のパーティーから挨拶をされた。
「おおこれで全員到着だな。これからよろしく頼むぜ【黒の救世主】の面々よ」
気さくに声をかけてきた人物は【戦鬼】のリーダーを務めている三十代ほどの冒険者ダストだった。
この場所に集まる前にムゲン達は今回ともに戦う【戦鬼】のメンバーについてそれなりの情報は仕入れている。同じギルドに所属し最高ランク一歩手前のAランクと言う事もあって有名なパーティーだ。
【戦鬼】は攻撃力に特化したパーティーだ。リーダーである《戦士》のダスト、《魔法使い》のマホジョ、《剣士》のギーンの三人で構成されておりAランクの中では上位に入る。
それにこのチームの名前に関してはムゲンは【真紅の剣】時代にもよく耳に入っていた。何しろマルクが疎ましく思いよく愚痴を零していた。『自分達を差し置いて次のSランク昇格を狙っている』などと酒の席で自分の悪口の次の出ていた話題だ。
ムゲンはあくまで名前を知っていただけで交流が合った訳ではない。しかし実はこのパーティーの人間と接点を持っていた人物が【黒の救世主】に一人いたのだ。
「お久しぶりですマホジョさん。こうしてあなたと一緒に仕事をする日が来るなんて嬉しいです」
「あらお久しぶりねハルちゃん。また少し背が伸びたんじゃない?」
本来であれば格上のSランク冒険者であるハルがAランク冒険者であるマホジョにぺこりと頭を下げる光景は異様だろう。当然だが【戦鬼】の他の二人は戸惑っているようだがムゲンとソルは事前に話を聞いているので特にリアクションは無い。
「おいおいどうしてSランクのお嬢さんがうちのマホジョに頭を下げてんだ?」
リーダーであるダストが疑問を感じているとハルが説明をした。
「まだ私が駆け出しの頃にマホジョさんには色々と魔法のいろはを教えてもらえたんです。私の魔法の基礎はこの人から学んだものです」
「なっ…マジかよ。マホジョが魔法をレクチャーしたってのは」
自分のパーティーの《魔法使い》がSランクを育てていた事実を知りダストもギーンは半信半疑だった。だがそれは教え子のハルが格上のSランクだからではない。そもそもマホジョが人にものを教えると言う事が信じられなかったのだ。
「おいおいそれは本当の話かいSランクの嬢ちゃん? うちのマホジョは基本的に損得勘定を優先して動くタイプだ。そんな見返りなしで誰かの面倒を見るなんて無償行為はしねぇ女だぜ。もしかして教えてもらうたびに金貨2、3枚くらい渡してたのか?」
「随分と失礼なハゲね。丸焼きか氷漬けにされたいのかしら?」
リーダーの人間性を貶される物言いに笑顔のままでビキッと顔に血管を浮かび上がらせるマホジョ。しかしそんな彼女を庇うかのようにハルは首を横に振る。
「そんなことありませんよ。マホジョさんは意外と面倒見の良い私の憧れですから!」
「もう意外とは余計よ」
そう言いながらハルの頭を優しく撫でてあげるマホジョ。その姿はまるで母親の様でダストもギーンも戸惑っていた。
ムゲンもそこまでハルと彼女の関係性を深く聞いていたわけではない。だから二人の過去に何があったのかは少し気にはなるがその話は後でもいいだろう。
「えっと、【戦鬼】のリーダーのダスト・オルノだな。俺は【黒の救世主】の一応はリーダーであるムゲン・クロイヤだ。今回はよろしく頼む」
「ああよろしくな。Sランクの実力を期待しているぜ」
愛想の良い顔で握手にこたえてくれるダスト。
だがその後ろではギーンがどこか納得のいかないと言った表情で小さく舌打ちをする。
「あの【真紅の剣】の『無能者』が成り上がったもんだな」
表情こそは露骨に歪めず普通だが彼の言葉には明確な棘が含まれていた。
今の発言はハルとソルの耳にも届いており不機嫌そうな眼をギーンへと向けて睨みつける。だがそんな彼女達よりもリーダーであるダストが無礼な彼の態度を咎める。
「おいやめないかギーン。これから一緒に仕事をする仲間だぞ」
「ふん……」
どうやら少し前まで『無能』と言う名の烙印を押されていた彼が大出世を果たして今では自分達より格上のランクになっている事が気に食わないのだろう。
彼に限らずギルド内ではムゲンを運よく成り上がったと見ている冒険者も決して少なくはない。Aランクの位置に立っている冒険者の中には実力があるがゆえにプライドが高い者が多いのでこのような無礼な態度を向けられるのもムゲンは慣れてはいる。だが今回は自分達と彼等は共闘する関係だ。できる限り波風は立てたくないと言うのがムゲンの本音であった。
「(まあ幸い【戦鬼】のリーダーは真っ当な性格をしている。あのギーンが揉めようとしても諫めてくれるだろう)」
それに【戦鬼】のもう一人のメンバーであるマホジョはハルと親しそうで上手くやっている。
多少の不安はあれども何とかなるだろうと少し楽観的な考えを持っていたムゲンだった。そこへ【ハンティラ】のギルドからやって来たパーティーメンバーも自分達へ話し掛けてきた。
「今回はよろしくお願いしますよ【黒の救世主】と【戦鬼】の皆さん」
「確か【異種族の集い】だったな。ああよろしく頼……」
もう一組の冒険者パーティー【異種族の集い】とも挨拶を済ませようとするムゲンだが彼等のパーティーメンバーを見て思わず固まってしまう。いや、正確に言えばその4人の中の1人の少女を見て硬直したと言った方がいいだろう。
何故なら他の立派な装備を整えている他の三人とは違いその少女は見るからに軽装で薄汚れた服を着ていたのだから。
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