裏切りの魔法使い
今回から本格的に新章突入です。そしてあの《魔法使い》も……。
「俺の力を借りたい、ですか…」
「ああ、とある依頼を君達のパーティーに要請したいんだ」
わざわざ別ギルドの長からの依頼ともなれば恐らくだが並大抵の難易度の依頼ではないだろう。もしかしたら過去一大きな依頼になるかもしれないと無意識にムゲンの表情は強張っていた。
そしてパメラはその依頼内容を口にした。
「わしが君達に依頼したいのは闇ギルド【ディアブロ】支部の壊滅だ」
パメラの口から出てきたギルド名を聞いてムゲンの表情は一気に引き締まる。
ソルの師であるソルドの魂を弄び、更には仲間の命すらも信じられないほどにあっさりと摘んでいたギルド連中だ。冒険者稼業を続けていけばいずれまたぶつかる事は覚悟していたがこうまで早く再びあのギルドの名を聞くとは思わなかった。
「聞けば過去の依頼で君は【ディアブロ】の構成員と遭遇して戦闘になったそうだね。そして見事撃退したとも聞いている」
「はい、元々は別のパーティーのモンスター討伐依頼でしたが。その際に遭遇したのは《黒魔術師》と《アサシン》の職業の二人でした。まあ《黒魔術師》の方は仲間に殺されていましたが」
「闇ギルド自体は正規ギルドほどではないがそれなりに数はある。しかし大概はチンピラ同然の寄せ集めギルドだ。言うなれば犯罪者集団、統率も取れず内部分裂して人知れず消えることも珍しくはない。だが【ディアブロ】はそのほかの闇ギルドとは格が違う。本部の構成員はAランクの冒険者かそれ以上の者達が集まっている」
「そんな連中を束ねてギルドを維持し続けるとは構成員もそうですがマスターも並ではないんでしょうね」
ムゲンがそう言うとパメラは肯定の意味を込めて頷いた。
それに【ディアブロ】の恐ろしさはギルドの規模や戦力だけではなく痕跡を全く残さないところにもあるのだ。何しろ【ディアブロ】と言う名のギルドが設立されてからもう随分と時間が経過している。しかしギルドマスターの正体も構成員達についてもほとんど情報が出回っていない。
「傘下に入っとる弱小闇ギルドも【ディアブロ】については何一つ有益な情報は持っとらんからのぉ。わしも現役時代は過去にいくつかの傘下の闇ギルドはつぶしたからのぉ」
ロンブはそう言いながら懐かしそうにして髭を撫でる。
噂によれば今の穏やかなマスターからは想像できんが昔はだいぶやんちゃだったらしい。
「しかし支部の壊滅を頼むと言うことはその場所が判明したんですか?」
「ああ、私の友人の経営しているギルドが命からがら支部の情報を手にしたんだ」
どうやらパメラさんの友人のギルドが今まで謎に包まれていた【ディアブロ】の支部について突き止めたらしいのだ。しかしその代償はあまりにも大きかった。【ディアブロ】の精鋭メンバーがそのギルドに直接乗り込みそのギルドの冒険者を皆殺しにしたらしいのだ。それでまた振出しに戻る、そのはずだった……。
「だがそのギルドのマスター、つまりはわしの友人が冒険者の1人をひそかに逃がしていたそうなんじゃ。長く闇の中で蠢き影すらつかめなかったギルドの支部の在処。その壊滅のために……」
そこまで言うと彼は膝に置いている両手を強く握りしめていた。
強く握り過ぎるあまり彼の手の中からは血が滲んでいる。さぞ悔しく無念なのだろう。自分の友人が知らぬ間に無法者に命を奪われたことが。
「今まで各地にいくつかの支部がある事は分かっていた【ディアブロ】だが本部同様にその詳しい場所は不明だった。だが今その支部の1つの場所が明かされた。そして向こうは調査していたギルドの人間を皆殺しにしたと思いカウンターに対する警戒が薄れている。つまり…今なら【ディアブロ】の支部の1つを壊滅できると言うことだ」
もし支部の中に本部と繋がりのある者、運が良ければ本部のメンバーが居る可能性もある。そうなれば一気に【ディアブロ】を丸裸にできるかもしれない。奴らの喉元に食らいつく事も夢ではないのだ。
「これはかつてないチャンスである。うかうかとしていたら支部の場所が移される可能性だってある以上はすぐにでも腕利きの冒険者を派遣する必要があるのだ」
「なるほどです。それで最高ランクである俺達【黒の救世主】に声掛けをしたんですね」
「その通りだ。君達を含めこのギルド、そしてパメラのギルドから選び抜いた精鋭部隊を結成しようと考えとる」
ムゲンも一度激突して【ディアブロ】の連中の危険性はよく熟知している。並大抵の戦力では犠牲者が出るだけだろう。それに相手には死者を蘇らせる力の持ち主も居る。そう考えれば冒険者を片っ端から向かわせるのも得策ではないだろう。
「しかし今このギルドですぐに動けるSランクはお主達【黒の救世主】だけなんじゃ。もう一つのSランクパーティーは今は遠征で出払って居る。そしてもう一人は……」
そこまで言うとロンブは何故か浮かない表情をする。このギルドにはもう一人のSランクが居たはずだ。ソロで活動しているファル・ブレーンが……。
「ファル・ブレーンに関しては今回の仕事は不向きだろう。チームを組んで戦う事が不得手だからな」
そう言うロンブの表情はどこか険しい。わざわざ最高戦力の一角の手が空いているにも関わらずこの任務に出向かせない、やはり何かあの青年には問題があるのだろうか?
ロンブの後を引き継ぐかのようにその先の話をパメラが続ける。
「わしのギルドもタイミングが悪くSランクは全て他の長期任務で出払って居る。そこでSランク一歩手前のAランクパーティーを向かわせる気じゃ。他のAランクでは不安が残るからのぉ」
「では俺達のギルドからは俺達【黒の救世主】が向かえばいいですか?」
「いや、お主達の他にももう一組のパーティーを付けるつもりじゃ。こちらもSランクに近いAランクからも一組、つまりは計三組のパーティーが今回の【ディアブロ】支部の壊滅に向かってもらう」
「三チームでの行動…か……」
他の二チームがAランクと言うことは自分達のパーティーが恐らくは纏め役になるだろう。そう考えると戦闘時とは別の緊張感が芽生える。
とは言え無論断ると言う選択肢はない。話に聞けば残り二チームは既に了承しているそうだ。
「難易度は間違いなくS難易度じゃ。だが無理はするな、引くときは引くんじゃぞ」
「もうこれ以上あのギルドに若い命は奪われたくないからのぉ」
「ご心配なく。必ず…必ず誰も欠ける事なくやりきって見せます」
そう言うとムゲンは応接室を出ようとする。すぐに宿に戻ってハルとソルの二人にもこの任務を伝えなければならない。それに一日、二日で終わる任務でもない。出発前に準備はきちっと調えておく必要がある。
だがムゲンが部屋を出る直前にパメラが彼を引き留めた。
「実はムゲン君。君個人を呼び出したのにはもう一つ理由がある」
そう言うとパメラは横目でロンブを見て先を促す。
彼はどこか言い辛そうな表情をしながら衝撃の事実を告げた。
「パメラの友人が経営しているギルドに【ディアブロ】が目撃者を消すため襲撃した際の事じゃ。命からがら逃げのびてこの情報を届けてくれた冒険者は襲撃犯の一人と面識があったそうなんじゃ」
「それは…その冒険者の知り合いが闇ギルドに裏切ったって事ですか?」
「正確に言えばこの【ファーミリ】のギルドの冒険者と過去にチームを組んで依頼をこなした際に知り合った人間が闇ギルドに居たそうじゃ。その者はかつては【真紅の剣】に所属していた《魔法使い》――メグ・リーリスだったそうじゃ」
その名を耳にした瞬間にムゲンの頭の中は真っ白となったのだった。
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