ギルドマスターからの呼び出し
Sランク冒険者を名乗る蒼剣の使い手に半ば強引に戦闘を仕掛けられた翌日、ムゲンは朝食の席で昨日の出来事をハルとソルに話していた。
その話を聞いてソルは口に卵焼きを入れながら怒りと共に机を叩いていた。
「アイツめ、私達だけでなくムゲンにまでそんな下らない事をしていたか!」
「私達ってことは二人にも勝負を挑んできたのか?」
「はい、半ば強引に……」
どうやら話を聞けば二人もSランクに昇格して数日後、あの剣士は今回の自分と似たような手口で勝負を挑んできたらしい。
あの青年の名はファル・ブレーン。職業はどうやら《剣士》らしい。
ソルのような《魔法剣士》とは異なり純粋な身体能力、つまり小細工抜きの戦闘スタイルらしい。どうやら魔力の総量はソルとハルの倍近くもあるらしい。そして彼の持つ剣はソルと同様のドラゴンキラーの剣らしい。
あの時はあくまで腕試しと言う事で彼もまるで本気ではなかったのだろう。しかしソルとハルの倍の魔力総量とは明らかに異常だ。もはや人知を超えた魔力量だろう。
「どうやらあのファル・ブレーンと言う方は自分のSランクの称号に誇りを持っているそうなんです。その理由から私とソルにも勝負を仕掛けてきたんです。断ったのですがほぼ強引に」
「はた迷惑な奴だったな。だが…実力に関しては本物だ。何しろ私とハルを同時に相手取って涼しい顔で戦っていた。まあ私達も全力ではなかったが相手も同じ。底が見えない不気味な男だ……」
聞けばファルはSランクに至るまで誰ともパーティーを組まず独りで今の地位まで上り詰めたらしい。ソロで活動を行っているのでパーティー名は存在しないが二つ名は【蒼の閃光】と同業者からは呼ばれている。
「そう言えばあのファルってヤツ以外にもSランクがウチのギルドには居たな。そっちの方は俺達と同じパーティーを組んでいたっけ?」
「はい、私とソルは面識がある方々です。そのチームは……」
最後のSランクについて話題を広げようとしていたハルだったが、それを遮るかのように宿の扉をノックされる。
まだ朝早くからの訪問に宿の人間が怪訝そうな表情をしながら扉を開けると見知った人物が訪問してきた。
「朝早くからすいません。ムゲンさんはおられますか?」
やって来たのは自分達のギルド【ファーミリ】で受付嬢をしているカメラと言う小柄な女性職員であった。まだこのギルドでの仕事日数は浅く新人ゆえにミスも目立ちよく先輩職員から叱責されている場面を見かける。とは言え懸命に職を全うしようとする姿は好感が持てギルド内の冒険者達からは優しい目で見守られている。
それにしてもこんな朝早く、それもギルド職員から出向いてくると言う事態はムゲンも初めてなので少し戸惑いながら出ていく。
「えーっとどうかしたのか? こんな朝早くから…」
「す、すいません。実はムゲンさんとお話ししたいと言う方がギルドの方に訪れていまして…」
「俺と話し? 一体だれが…?」
少し前までは『無能』のレッテルを張られている自分個人とこんな朝早くから話したいとは一体どんな物好きだ?
とは言えここで無下に断るのはわざわざ足を運んでくれたカメラに失礼なので無論拒否はしない。
「悪い二人とも。何やらギルドに呼ばれたからちょっと行ってくる」
◇◇◇
ギルドへと足を運ぶと何やら周囲が少し騒がしかった。
まだ朝早くとは言え仕事を求めギルドに足を運んでいる冒険者の数はそれなりに居る。そこは不思議ではないが自分がギルドに来ると同時に何やら周りが自分を見ながらひそひそと話している。
おいおい何だ…気のせいじゃない、明らかに俺を見てざわついているぞ。
いつもの様な悪口の類ならもう慣れっこなのでそこまで気にはしない。だが悪意のある類ではないのだ。
「こちらですムゲンさん」
カメラに案内されてムゲンがやって来た場所は応接室。
入り口をノックすると野太い声で『どうぞ』と入室の許可が出る。
扉を開けて部屋に入るとそこには凄まじい威圧感を放つ人物が二人座っていた。
「おおムゲン君。わざわざ呼びつけてすまないね」
「いえ、気にしないでくださいギルドマスター」
長く伸びた威厳にある真っ白な髭を触りながら声をかけてきた人物はこの【ファーミリ】のギルドマスターであるロンブ・デイレスと言う老人。もうすでに現役を引退してはいるがその実力は現役のSランクに匹敵するとまで言われている。
そしてその向かいの椅子に腰かけている人物はロンブと同年齢と思しきこれまた老人。しかし放たれる圧力は明らかにただの非力な老人ではない。何しろギルドマスターであるロンブに匹敵する圧力を感じるのだ。
「あのマスター、そちらの方は?」
「ああすまない。こいつは私と同じ…」
「まあ待てロンブ。自己紹介くらいはわしが自分やる。初めましてじゃなムゲン・クロイヤ君。わしは【ハンティラ】のギルドマスターであるパメラ・ロウルじゃ」
パメラの自己紹介を聞きムゲンは納得する。これだけの威圧感を放てる人物、ギルドマスターであるなら納得だ。だが別のギルドのマスターがわざわざこのギルドに足を運ぶ理由が分からない。どうやら自分を呼び出したのは別ギルドのマスターであるこの人のようだが……。
「いきなりすまんな。こんな朝早くから爺に呼び出されて迷惑じゃったろう」
「いえそんな…でも気にはなります。何故別ギルドのマスターが俺に?」
ライト王国内にはこの【ファーミリ】を含め複数の冒険者ギルドが存在する。しかし別ギルドに所属している冒険者の訪問ならまだしも、ギルドの長ともあろう人物がわざわざ出向くとはただ事ではないだろう。
そしてパメラは今回自分がこのギルドにやって来た訳を語り始めた。
「実はきみの力を借りたいんだムゲン君。Sランク冒険者である君の、いや君達【黒の救世主】の力をね……」
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