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憧れの人に追いつきたくて 


 かつてはまだ駆け出し冒険者であった二人はダンジョン内でムゲンに命の危機を救われた事を切っ掛けに強くなろうと決意した。その主な理由は彼と正式な仲間関係を築きたいと思ったからだ。

 本音を言うのであれば二人は助けてもらったその時に彼を自分達のパーティーに誘いたいと言う願望もあったのだ。だが命辛々助けてもらっておいて流石にそれは図々しい頼みだと思いその当時は礼を述べるだけで仕方なく諦めていた。


 「なあハル、お前あのムゲンって男に惚れたろ?」


 「そう言うソルだって私と同じ思いですよね?」


 自分たちを救ってくれたムゲンに二人は完全に恋に落ちてしまう。

 そしてこの日より二人はある決意をした。それは必ず彼と同じパーティーを組みそして彼の恋人になってみせると言う大望を抱いたのだ。


 その為に二人はまず彼に並びたてる程に強くなる事から始めた。


 恋する乙女の底力は凄まじく互いにカバーをしながら何度も高難易度の依頼を達成して行きいつしか彼女達はAランクまで上り詰める。だがその時には彼は既に他のメンバーとパーティ―を組んでおり完全に機を逃したとしばし落ち込むこととなった。

 だがムゲンが所属したパーティ―のメンバーは次第に彼を無能扱い、その噂を聞き湧き上がる怒りを依頼で発散して遂に二人は最高ランクであるSランクまで駆け上がっていた。


 「聞きましたかソル。あの【真紅の剣】の人達、またムゲンさんを無能だと言って酒場で盛り上がって話してましたよ」


 「おいやめろよハル。私もあのクソ共の会話は酒場で耳に入って来てるよ。ぶち殺すのを必死に堪えてんだからさぁ」


 二人の前には高ランクのモンスターの残骸が転がっている。ムゲンの悪い噂を吐く彼の今所属してる【真紅の剣】に怒りを覚える度にこうしてモンスター退治で何とか二人はストレス発散して平常心を保っていた。そうしなければ下手をしたらあの身の程知らず共を手にかけてしまいかねないからだ。


 最初は彼の選んだパーティ―は【真紅の剣】だったから仕方ない、そう納得しようとしていたが彼を蔑ろにするあのメンバーに二人はいつも怒りを抱え込んでいた。そして二人はある決意をする。


 『『私のムゲンを必ずあのパーティ―から奪ってやる!!』』


 勝手に彼を自分たちのものにしているのはともかくとし、あの恩知らずパーティ―から何とか彼を救い出せないかと二人はずっと機を窺っていたのだ。


 そしていつもの様にギルド内で同じ仲間であるムゲンを貶す【真紅の剣】の連中だったが、それと同時に彼を自分たちのパーティ―から脱退させようとしている話を聞いた。


 そして彼等の宿屋近くで張り込みムゲンが出て来るのを待ち、彼が宿から出たと同時に二人は彼を自分達のパーティ―に誘った次第なのだ。


 「最初は【真紅の剣】はお前の認めた仲間、そう納得したがやっぱりアイツ等の身勝手ぶりに私もハルも耐えられなかったんだ。少しストーカーじみた行為を働いた事は謝る。でも私もハルもずっとお前と一緒に戦いたかった気持ちは本物だ」


 「ムゲンさん、もしよろしければ私たちとパーティ―を組んでくれないでしょうか。私たちはあんな人達と違いムゲンさんと対等な仲間としてパーティ―を組みたいです!」


 本来であれば憧れの対象であるSランクの二人が頭を下げて自分なんぞに仲間になってほしいと頼んでくる。


 今までの話を聞いてムゲンが最初に感じたのは『感謝』であった。

 魔力量が低く彼はパーティ―内からだけでなく他の連中からも陰で笑われてきた。


 『うわっ、【真紅の剣】のお荷物だぜ』


 『あんなヤツがAランクパーティのメンバーだなんて身の程知らずよね』


 『冒険者なんてやらず別の仕事でもすりゃいいのに…』


 ギルド内でも時折こんな陰口を囁かれ、そして元仲間達もそれを止めずむしろ同調して自分を馬鹿にする。

 自分は所詮このギルド内では誰からも認めてもらえないんだろうと諦めていた。だが目の前の二人はそんな自分に憧れ、そして仲間に誘ってくれた。


 気が付けば彼の瞳からはポロリと一筋の涙が零れ落ちていた。


 「本当に…本当にオレを仲間にしていいのか? 魔力量が低くて大したことのできない無能なオレを?」


 「「あなたは無能じゃない。私たちにとって偉大なヒーローです(だ)」」


 「あり…がとう……」


 溢れそうになる涙を必死に堪えて途切れ途切れに感謝を述べるムゲン。

 そんな彼に二人は左右から寄り添い、そして彼の手を取って彼を迎え入れる。


 「「今日から私達は仲間です(だ)」」


 こうして彼はハルとソルの二人のパーティ―【双神】の新たなメンバーへと加わったのだった。


 「しかし人生どうなるか分からないものだな。Aランクを追放されたと思ったらSランクのパーティ―に入れるんだから」


 「別にそこまで不思議な事でもないだろ。ムゲン、お前はハッキリ言って私やハルに引けを取らない強さを持ってるだろ?」


 「だから買いかぶりすぎだって。オレはそこまで上等なヤツじゃないよ」


 「でもソルの攻撃を受け止めれる人なんて早々いませんよ」


 自分を過剰に持ち上げすぎだと苦笑するムゲンだが彼の実力は本物だ。魔力量が低くとも肉体強化による彼の強さは間違いなくSランク並だろう。

 彼が自分に自信を抱ききれない理由、それはやはり【真紅の剣】のメンバー達の彼に対しての態度であった。実際に【真紅の剣】が一気にAランクまで駆け上がれたのはムゲンの功績が大きいのだ。同じく接近戦主体の剣士であるリーダーであるマルクはまだまだ動きも剣術も甘い。それにメグやホルンも魔法を扱う際の手際だって悪く時間が掛かる。本来であればAランクに昇格する前に誰かしらは痛い目に遭っているだろう。そんな彼等がここまで目立ったミスもなくやってこれたのはムゲンの陰からのフォローがあったからなのだ。隙だらけの三人を陰ながら何度もフォローして戦っていたからこそ連中はここまでとんとん拍子で進んで来たのだ。逆に言えば他のメンバーのお陰で彼は本来の実力も発揮しきれず誰よりも生傷が絶えないことにもなっていた。

 しかしその事に関して他のメンバーは最初の頃とは違いもう感謝すらもせず罵声だらけの毎日、自分達の盾となってくれた彼の傷も彼自身のミスと決めつけていた。それ故にムゲンも自分が【真紅の剣】にとって最も重要な存在であると言う自覚が希薄になっていたのだ。


 だが彼のそんな生活はこの日で終わる。もう彼は世話ばかり焼かせる子供じみたパーティーの呪縛から解放されたのだから。


 だがムゲンは今後の戦いの中で自分の本当の強さに少しずつだが気が付くことになる。

 そして【真紅の剣】のメンバー達は逆に思い知る事になる。本当に無能だったのはムゲンではなく自分達であったと言うことを……。



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