予想外の事態は革命側にも起こるもの
この場を立ち去って行くニューを見送ったその後、クワァイツは予定していた作戦を進める。
彼女は王宮内の巨大な柱の1本に目を付け、その柱に懐から取り出した魔法陣の描かれている紙を貼り付けた。すると貼り付けられた魔法陣が消失し、その直後に柱の中心の空間が歪み出す。
「連結完了。これで向こう側と道を繋げる事は出来たわね」
クワァイツが満足そうにそう口にした数秒後だった。歪んでいる空間を潜り抜け1人のエルフがゆっくりと現れる。そこから1人、また1人とエルフ達が柱を通じてクワァイツの元へと集結する。
彼女が使用したこの魔道具はマーキングの施した場所を繋げる転移用の魔道具の一種であった。これにより集めていたエルフ達を王宮内を徘徊している他の騎士達との遭遇を避けつつ、集団を内部に呼び込むことが可能となった。
このエルフ達は今回の騒動の罪を被せるために奴隷商から買い集めていた捨て駒、全員が薬物によって精神を犯され正常な判断など不可能な状態であった。ただ言われるがままに与えられた指示だけをこなす事しか頭にない。
捨て駒であるエルフ達に向かってクワァイツは指示を与える。
「さて、それじゃああなた達にはこの先に居るこの国の国王を殺してもらうわ。全員支給された武器はちゃんと持っているかしら?」
「は~いもってますぅ~」
涎を一筋垂らしながら一番先頭に居たエルフの青年が頷きながら、事前に小屋で渡された武器を掲げる。他のエルフ達も酩酊状態のまま武器を掲げる。
完全に傀儡と化しているエルフ達に向けてクワァイツは最後の命令を下す。
「いい子達ね。それじゃあ全員でこの通路の先の部屋まで行きなさい。そしてその場にいる全員をその武器で殺しなさい」
クワァイツが指し示した通路の先にある部屋、そこは王の寝室だ。当然だが寝室内、さらに部屋の前には見張りの騎士が本来は警護に付いている。しかしそれらの連中は全員が協力者である第一師団長のニュー・シンジンによって気を失っているはずだ。今ならばこの人形同然のエルフ達でも始末可能だろう。
「さあ行きなさ……!?」
号令を掛けようとしたと同時だった。クワァイツは突如として背後から強烈な殺気を感じて身を翻した。その直後に傀儡であるはずのエルフの少女がナイフによる突きを繰り出していた。
だが咄嗟に体を捻ったクワァイツはその不意打ちに対応、直撃を避けて脇腹を掠める程度の被害で済ませて見せる。
「あっ!?」
ナイフを突いてきたエルフはまさか避けられると思っておらず激しく動揺する。
その動揺からの硬直をクワァイツは見逃さない。ナイフを突いた体制で伸ばし切っている少女の腕を容赦なくへし折る。
「うあああああああああッ!?」
グキリと言う骨の折れる音と少女の絶叫が周囲に木霊する。だがクワァイツは即座に口を手で覆いその絶叫をかき消してしまう。
「まさか《剣聖》たるこの私がこんな三下以下の奴隷に一杯食わされるとはね。失態も失態だわ」
そう言いながらクワァイツは微かに表情に怒りを滲ませる。
口を押えて声を封じられている少女は折れた腕の痛みに声をくぐもらせながら涙を流す。だがそれでも煮えたぎる怒りの炎を瞳に宿しクワァイツを睨んでいた。
「(それにしても何でコイツには薬が効いていないのかしら?)」
小屋に軟禁されていたエルフ達は全員が薬物により判断能力を奪われているはずだ。だが自分を睨みつけるこのエルフの小娘は明らかに正常なのだ。
自分に突き刺さる憎悪を無視しながら考えるクワァイツであったが、他のエルフ達は問題なく洗脳状態となっており問題は見られない。現にこの状況でも虚ろな目で自分の指示を待って突っ立ているだけ。つまりイレギュラーはこの少女ただ1人だけ、ならばコイツさえ処理してしまえば支障は出ない。
「何で正気なのかは知らないけどこの際どうでも良いわ。はいサヨナラ」
一切の躊躇いも無く息の根を止めようとクワァイツは剣を振りかぶる。
だがその凶刃が地面で押さえつけられている少女の命に届く事は無かった。
「おい何をしているんだ!?」
「はあ?」
刃を脳天に突き刺そうとした刹那、背後から男の怒号が背を叩いてきた。その声を辿り振り向けば1人の男性騎士がこちらを睨みつけている。
その男の顔にはクワァイツも見覚えがあった。
「第三騎士団の副団長、シビル・ナーイン……」
現在エルフの国へと出向いているローズの部隊のNO2の登場にクワァイツの顔が僅かに歪む。
地面に抑え込まれているエルフの少女はその隙を逃さず彼女の拘束から命からがら脱出した。
「うぐっ!?」
「大丈夫かキミ!」
折れた腕の激痛に呻いている少女を護る様にシビルが自分の背に彼女を隠す。
そんな様子をクワァイツは冷めた目で眺めていた。そして溜息交じりに呟く。
「ああ全く、アッサリ終わると思っていたのに手間取らせてくれるわね」
そう言いながらクワァイツは剣を構えて殺意を宿す。
未だに状況が読み切れないシビルであったが、突き刺さる殺気を前に彼も応戦の構えを取る。
「一体貴方は何をしているのですか第二師団長殿」
「それを知る必要はないわ。だってあなたはここで果てるのだから」
王国を護る為に剣を振るう者同士が本気の殺意を携え向かい合う。この内乱騒動はここから更に泥沼と化していく。
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