表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

293/296

革命前夜


 ハル達が【パラダイス】のセロリと対峙するまで少し時間は遡る。

 

 前日の夜、人気の少ない古ぼけた酒場でアビシャスとセロリは王宮での襲撃についての段取りをしていた。そして凡その作戦が諸々定まると最後にセロリは肝心の決行日を告げる。


 「それじゃあ襲撃は〝明日の夜〟に決行するけど、何か異論はある?」


 相手がこの国の第一王女だと言うのにセロリはまるで知人と話すかのような態度。その振る舞いに付き添いの騎士が物言いをしようと一歩前に出るが、そんな部下をアビシャスが制止した。


 「相手は闇ギルドの人間よ。いちいち礼節を求めていたらキリがないわよ」


 その言い分はあまりにも最も言えるだろう。そもそも表の社会からはみ出した者達が裏の世界に身を堕とす事が基本なのだ。まして報酬次第ではどんな依頼も請け負う闇ギルドの人間ならば猶の事。

 不満げな顔をしつつも大人しく引き下がる騎士、そんな軽い悶着を終えるとアビシャスは本題に入る。


 「それで、実行日が〝明日〟というのはどういう事かしら? まさか一刻も早く依頼を終わらせてギルドに戻りたいから、なんて理由じゃないでしょうね?」


 険しい表情を作りながらアビシャスが理由を求める。

 近々革命を決行する覚悟はしていたアビシャスであるが、まさか明日いきなりとなれば正当な理由を求めざるを得ない。間違ってもこの革命には失敗など許されないのだ。失敗すれば国外追放、いや国王暗殺となればいくら第一王女と言えども公開処刑もあり得る、というよりも十中八九間違いない。いかに凶悪な闇ギルドの幹部の発言とは言え二つ返事で了承する訳にはいかない。

 少し険しい顔つきとなったアビシャスを見てセロリはため息交じりに訳を答える。


 「もしも決行日を先延ばしにすると【黒の救世主】の妨害が入る可能性が高い、それが最大の理由」


 「何を言っている? 現在も【黒の救世主】の護衛が第二王女には付いているんだぞ。あの冒険者達の妨害の可能性は結局あるだろうが」


 アビシャスの背後で控えて居る騎士の1人がそう発言するとセロリは呆れ顔となる。


 「第二騎士団の騎士達は勉強不足なのかな? 標的の護衛に付いているパーティーに対して浅学すぎる」


 「なっ、キサマ!?」


 自分よりも二回りも幼い少女に説教された騎士は反射的に掴みかかろうとする。この騎士はつい先程まで同僚が圧倒された光景を目の当たりにしているにもかかわらず、怒りに飲まれて行動を起こそうとする。

 そんな彼を止めたのはセロリではなく、彼が仕えている王女のアビシャスであった。


 「いい加減にしなさいこの愚図」


 「うぎゃあッ!?」


 詰め寄ろうとしていた騎士の眼球へとアビシャスは容赦なくフォークを突き刺した。

 片目が潰された男は短い悲鳴を漏らし倒れ込む。そして地面に蹲り呻き声を流し続けた。その様子を椅子から見下ろしながらアビシャスは告げる。


 「私は言ったはずよ。闇ギルドの人間に礼節を求めていてはキリがないと。にもかかわらず子供のように噛みついて、これはつまり王女である私の言葉を軽く聞き流しているとも取れる事よ」


 そう言いながらアビシャスは一番近くで控えて居た他の騎士に目配せをする。

 温度が一切感じられない瞳、それだけで言葉にされずとも自分が何を命令されているか理解した彼は一瞬目を瞑り、そして諦めたかのように開いて鞘から剣を抜く。


 「ぐっ、目が…潰れて……は?」


 埃だらけの床で倒れ込んでいた男であったが、いつの間にか自分の頭上で剣を構えている同僚を見て思考が固まる。そして数秒後の未来を悟った彼は痛みも忘れて命乞いを口にしようとした。


 「た、たす……」


 だが最後まで言い切るよりも早く白刃は彼の脳天へと振り下ろされた。

 真っ赤な血の噴水と共に数秒の痙攣後、男はピクリとも動かなくなる。その物体と化した騎士に対してアビシャスはさも当たり前のように言った。


 「私を軽んじるからそうなるのよ。ねぇ、あなたもそう思うわよね」


 「……おっしゃる通りです」


 手を下した騎士に同意を求めるアビシャス。反発など許されない騎士は苦い思いを押し殺しながら頷くしか出来なかった。

 そんな殺伐とした空気の中でセロリは何食わぬ顔でアビシャスに話しかける。


 「改めて明日に決行日を定めた理由を話すけど大丈夫?」

 

 「ええ、こちらの不手際でごめんなさいね」


 「それじゃ……現在あなたの妹さんには【黒の救世主】の護衛が確かについている。でもそのパーティーで最も厄介な男、ムゲン・クロイヤはエルフの国に出向き不在。更にあなたと同じく《剣聖》のローズ・ミーティアも居ない。タイミングとしてSランクの最強格と《剣聖》不在の今こそが好機」


 セロリの言い分は確かに一理あった。アビシャスはムゲンの力量に関してはSランクの手練れ程度であったが、セロリは事前にムゲン達、いや彼の所属しているギルド【ファーミリ】について情報を収集していた。アビシャスは知らない事だろうが、元々彼女がこのライト王国に訪れた理由は【ファーミリ】に所属する別のSランク冒険者ファル・ブレーンが狙いだったのだ。その過程で彼女はギルド内で腕の立つ人物の情報を手にしていたのだ。その中で【黒の救世主】の情報も手に入れており、その面子の中で最も厄介な人物がムゲン・クロイヤだと知った。

 その後も一通りの説明を受けたアビシャスは真剣な目つきで最後の確認を取る。


 「明日決行したとしてあなたから見た成功率はどれくらいかしら?」


 「あくまで私の目安だけど――80パーセントの確率で成功する。万一苦戦を強いられた時の事を考えて〝奥の手〟もちゃんと用意している」


 「いいわ……明日、この王国の歴史を塗り替える」


 アビシャスの覚悟を宿した言葉に控えて居る騎士達も覚悟を固める。そんな彼女達とは対照的にセロリは追加で注文したケーキを頬張っていた。




もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ