アルメダの第二人生 8
「今まで文句も言わずにぼくを支えてくれてありがとうミル。どうか安らかに眠って……」
簡素ながらも丁重に作られた墓の前でナールが目尻に涙の玉を浮かべながら永遠の眠りについた妹を弔った。
そんな哀愁漂う幼子の背中を遠巻きに眺めながらアルメダは隣で立っている人物――ドール・ピリアナに話しかける。
「それで……どうしてこんな廃れた場所に居るの? 大の人間嫌いであるあなたが外出しているなんて驚いたわ」
「あら、助けて上げたのに随分な言い草ね。それもあなたに体を提供した恩だってある人間に対して」
そう言うとドールは溜息を吐きながら前髪をいじって続ける。
「私だってこのトレドの冒険者ギルドのSランク冒険者よ。毎日自宅に籠っている訳にもいかないでしょう。少し思考を働かせれば簡単に辿り着ける答えだと思うのだけれど?」
棘のある態度を微塵も隠すことなくそう言いながら鼻で笑ってくる。
初対面でこの態度を取られるならば不快感も募るかもしれない。だが既に彼女の社交性の悪さは知っているので気に留めない。
それに口先は素っ気ない彼女だがその実は思いやりが完全に欠如している訳でもないと知っている。
「あのおねえさん、ミルのお墓作ってくれてありがとう」
妹の見送りが終わるとナールがドールへと頭を下げる。
ぶつくさと文句を言いつつもミルの為の即興の墓標を作ってくれたのはこのドールなのだ。
「べ、別に礼を言われるほどでもないわよ」
素直に礼を言われる事に慣れていないのかドールは気恥ずかしそうに目を逸らす。
仏頂面ながらもこそばゆさを隠し切れない彼女を見て思わず吹き出してしまう。
「……何がおかしいのかしら?」
「別に何でもないわよ。それよりも改めて訊くけどどうしてあなたがこんな区域に居るの?」
「ふん……理由はコイツ等よ」
そう言いながらドールは縛り上げられている男を親指で差す。そこにはナールを攫おうとしていた二人組の内の1人の男が拘束された状態で転がっている。
誘拐犯の内の1人はドールによって全身を切り裂かれて肉塊となったがもう1人の方は生かして捕らえている。
ドールが生け捕りにしている男に巻き付いている〝糸〟を引き寄せて自分の近くまで引き寄せると男は激痛と恐怖から大量の発汗をしながら命乞いを行う。
「た、頼む。命だけはどうか…」
「それはこれから行う質問の答え次第ね。息を続けたいならお前達の人身売買組織の根城を吐いてもらおうかしら?」
ドールが質問を投げると男は苦い顔をして俯きだす。
何も喋ろうとしない男にドールが圧力をかけようとするとアルメダが横から詳しい詳細を求めだす。
「コイツ等が人攫いの類である事は理解できるけど人身売買組織の根城? このトレドにそんな組織が存在するの?」
「ええ少し前から問題になっていたのよ。十中八九は〝外〟から来た連中でしょうけどね」
どうやらここ一ヶ月程前からこの商業都市トレドでは子供の行方不明が相次いでいるらしい。冒険者ギルドでも行方不明捜索の依頼が出回っておりドールをはじめ手空きの冒険者にギルドマスターから調査を任せられたと言う事なのだ。
「私は調査を始めてからすぐにこの区域で張り込んでいたのよ。下手にごった返している街中全体を徘徊するよりも絞った方が効率が良いと思ってね。そしたら案の定……それでお前達の根城はどこなのかしら?」
そう問いをぶつけながらドールは口をつぐんでいる男を睨みつけ胴体を縛っている糸を更にきつく締めあげてやる。
既にアルメダによって多くの骨をへし折られ内部が傷付いている肉体を圧迫され男は咳込みながら血を吐く。それでも中々に白状をしない男をドールは精神的に追い込む事とした。
「さてさて、無言を貫くのは勝手だけどこのまま少しずつ締め上げて行くと最終的にはどうなるのかしらね?」
そう言いながらドールの視線は肉塊となった男の相方の亡骸へ向けられる。その視線を辿った子分の男の顔色は口から垂れている真っ赤な血とは対照的に青ざめて行く。
戦闘中にこの男の兄貴分は全身が文字通りバラバラとされた。その理由はこのドールの操る〝魔力を帯びている糸〟によるものだった。
ドールは目視する事も困難なほどの細い糸に魔力を纏わせ、切れ味を最大限にまで特化した糸で肉体を骨ごと断ったのだ。
そして男を拘束している糸はその兄貴分の肉体を解体した糸なのだ。
「……はぁ、話す気になれる様に指の1本でも切り落としてみようかしら」
「ぐっ……」
耳に届くドールの不穏な言葉に男は吐血以上の汗を流し出す。そのまま拘束された状態で小指に糸が巻き付いた段階でもう限界だった。
「は、話します! 知っている事は全部話すので勘弁してください!!」
血反吐を吐きむせながらも男は知る限りに情報を命欲しさにドールへと差し出す。
根城としているアジトの位置、構成員の人数など一通りの情報を提供し終わるとドールは感情の読み取れない表情で冷淡に告げる。
「ご苦労様。それじゃあもう用はないわ」
「え、それって……」
その言葉と表情からアルメダは次の展開を察して傍にいるナールの目を手で覆う。直後にアルメダが予想した通り用済みとなった男の首が宙へと跳ね処理されたのだった。
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