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誰だお前は


 ムゲンがハルとソルの二人と正式に交際を始めてもう一週間の時間が経過した。

 もう正式な恋人と言う事で二人とも更に大胆さを増していって正直困っている。今までは同じベッドに潜って来るまでだったが時にはムゲンの入浴時に一緒に入浴しようとまでしてくるのだ。

 ムゲンからすればまだ交際してたった一週間なので少しずつ距離を縮めていこうと釘は刺している。あまり段階を飛ばされると今後の冒険者活動にも変に影響が出かねないと言って二人ともとりあえず最後の一線は踏みとどまってくれている。今のところはだが……。


 そして珍しくムゲンはたった一人で街の中を散歩していた。いつもなら両サイドに居るハルとソルはそれぞれの所用の用事から今は不在。別に交際しているからと言っても四六時中三人が一緒に居る訳ではない。


 「おおムゲンじゃねぇかおはようさん」


 「…ああおはよう」


 散歩中に偶然にも同じギルドに所属している冒険者とすれ違い挨拶をされる。

 ここ最近では今の様にギルド内の同僚から気軽に挨拶など声を掛けられる機会が増えていた。


 「(なんか複雑だよな。少し前まではあんなに陰口を叩いていた癖に……)」


 【黒の救世主】のパーティーに所属してからはムゲンは【真紅の剣】時代とは異なり結果を示し続けていた。過去のパーティーではムゲンがどれだけ成果を上げてもマルク達がそれを横取りしてあたかも自分のお陰の様にギルドで流布していたのでムゲンは正当な評価が下されなかった。しかし今のチームは全員が平等であり手柄の取り合いなど醜い現象は発生しないのでムゲンも正しく評価がされるようになっていた。だからこそ他の冒険者達も彼を次第に認めつつあるのだが、あそこまで人を悪く囃し立てておいて、ここまで手の平返しをされても素直に喜べなかった。むしろころころと人の見方を変えられてしまうと言っては悪いが気持ちが悪い。


 こう考えると人間って怖いもんだ。少し前まで無能だのなんだの言っていても切っ掛けさえあれば考えが180度変わるんだからな。

 

 そして手の平返しをされたのは自分だけでなく【真紅の剣】のメンバーにも言える事だろう。自分が抜けてから成果を出せなくなると彼等が無能だとギルド内で蔑まれて叩かれているのだから。


 そう言えばあれからマルクはどうなったんだろうな……。


 ハルとソルの二人とデートをしていた日の最後に会って以来マルクとはもう顔を合わせていない。と言うよりも彼は完全に行方不明となっている。どうやら噂によればギルド職員に無理を言ってA難易度の依頼を引き受けたらしい。そしてその依頼のさなかに命を落としたとも言われている。真相は分からないがその可能性は大だろう。何しろマルクが討伐しようとしていたモンスターはヒュドラだ。彼の実力で討伐はとても叶わないだろう。


 昔の仲間の事を考えていると前から見知った顔の人間が歩いてきた。


 「奇遇ねムゲン。こんな場所で…」


 「ああそうだな。ホルン…」



 ◇◇◇



 偶然にも街中でかつての仲間と再会をしたムゲンとホルンは近くのベンチに腰を下ろすと並んで座っていた。同じベンチでも互いに人二人分位の間隔を空けて座り目先の街並みをぼーっと眺める。

 しばしの間は互いに無言であったが痺れを切らしたのかムゲンの方から彼女へと話しかける。


 「その…久しぶりだな」


 「…ええそうね。同じギルドに居るのに中々顔を合わせないものね」


 「そうだな。その…最近パーティーを組んだらしいじゃないか」


 直接顔を合わせずともギルドに足を踏み入れれば他の冒険者の噂は耳に入る。その噂の中でここ最近にホルンが他の冒険者とパーティーを組んだと言う噂が流れていたのだ。

 その噂を流していた冒険者はホルンとチームを組んだ人間を『変わり者』だと馬鹿にしていた。だがこの話を聞いた時にムゲンは少し嬉しかったのだ。かつての仲間がまた一からやり直して冒険者活動を続けている事実が……。


 「本当…私のような最低な女とパーティーを組むだなんてとんだ変わり者が居たものだわ。でも…彼のお陰でまだ折れずに冒険者を続けられた」


 そう言いながらホルンは僅かに頬を赤く染めながら柔らかい笑みを零していた。

 まだ彼女とパーティーを組んだ人物と直接顔を合わせた事はないが今の彼女の表情を見ていると上手くやっている事がよく分かった。


 「そう言えばマルクは行方不明らしいわね。まあ…恐らくはもう……」


 あえて全てを言いきらずに悲しそうに目を伏せるホルン。

 彼女にとってもマルクは仲間だった男だ。やはり袂を分かったとしてもかつての仲間の死は心にくるのだろう。


 「それにメグも消息不明。まあ彼女の場合はマルクと違って別の町で今でも冒険者でもやっているのかもね」


 「色々と思う部分はあるけどそれでも生きていては欲しいな」


 ムゲンがそう言い終わるとまたしても二人の間に沈黙が訪れる。そして小さく一呼吸をするとホルンは立ち上がりその場を後にしようとする。


 「それじゃあ私はもう行くわね」

 

 「ああ…」


 「ムゲン…今更だけど本当にあなたには悪いことをしたわ。ごめんなさい」


 そう言うとホルンは一度だけ頭を下げて背を向け立ち去っていく。

 もうかつての様な同じパーティーとして戦う事は永遠にないのかもしれない。でも今の様に軽く言葉を交わす事はこの先もきっとあるのだろう。だって自分と彼女は過去に苦楽を共にした〝仲間〟なのだから……。


 「さて…俺もそろそろ……!?」


 ホルンが去ってからムゲンもベンチから腰を上げようとする。だが背後から猛烈な殺気を当てられ前方へと一気に跳躍した。

 

 「誰だお前は……」


 勢いよく背後を振り返る。今まで自分が座っていたベンチの後ろに蒼い長髪をかき上げながら一人の青年が立っていた。


 「反応は悪くない、流石、俺と同じ〝Sランク〟」


 

 

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