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白髪の中年エルフ


 「ふう……どうにか気付かれずに抜け出せたようだな」


 エルフの国から1人の〝人間の男〟が脱却を果たしていた。

 この男はエルフの国を襲撃した使い捨て予定の闇ギルド【ケントゥリオ】に潜入していた巨大闇ギルド【パラダイス】の構成員であり、その目的はエルフの国の大樹になる〝魔力の実〟の採取であった。

 ムゲン達が町中で暴れている【ケントゥリオ】の対応に追われている隙を見つけ彼は無事に目的の〝魔力の実〟を盗ると国の外へと抜け出す事に成功した。

 

 「(さて、あとはこの実を本部に持ち帰れば俺の仕事は終了だ。しかし……まさかあのチェインさんが使い捨てにされるとはな……)」


 今回潜入していた【パラダイス】の構成員はこの男だけでなくもう1人、自分を遥か上回る戦力を有するチェインと言う幹部もこのエルフの国に乗り込んでいた。

 目的である〝魔力の実〟を回収後にチェインと合流しようと考えていた男であったが、実の回収直後にタイミング良くギルドマスターであるミューマからこのような連絡が届いたのだ。


 ――『はーい、そろそろお仕事終了した頃かな? それなら君は一足先に撤退してイーヨ』


 頭の中に響いてきた我らがボスの言葉に思わず息をのんだ。

 自分達の上司たるミューマは遠距離の相手にもメッセージを飛ばせる〝通信魔法〟を扱えるため、通信用の魔道具無しでも遠隔で指示を飛ばせ会話も可能だ。しかしまるでこちらの現状を全て把握しているかのように都合良く連絡を入れて来たミューマには少々戦慄を憶えた。まるで今この瞬間も自分を、いやこのエルフの国全体を見渡しているかのようなタイミングの良さは不気味にすら思えた。


 ――『あれー、私の声が届いていない? おーい聞こえますか~?』


 驚きで返事が遅れた男であったがすぐに心臓が鷲掴みにされるかのような緊張感が全身を駆け回る。些細な変化ではあるが返事を返す事が遅れたせいか頭に響くミューマの声に不機嫌さが纏わりつきだしたのだ。

 すぐにミューマから即時撤退の指示を受けて『分かりました!』と返答を返す。あまりの焦りから心の中で発した言葉が口からも漏れ出てしまっていた。

 だがここで逆らう気など毛頭なかったがつい彼の口から1つの疑問が浮かんだ。


 ――『あのミューマ様、下部組織の【ケントゥリオ】の連中はともかく先に潜入しているチェインさんはどうするのでしょうか? まだエルフの国内で戦闘中だと思われるのですが……』


 ――『ああ、アイツは元々ここでポイする予定だったから気にしなくても大丈夫ー。だからあなたは〝魔力の実〟をさっさと持ち帰ってね~。出来る事なら《剣聖》だけでも始末してほしかったけど。まぁそっちの方は他の方法考えるとするわ~』


 そう言うとミューマからの通信は途絶えた。

 実はミューマは既にチェインにも連絡を飛ばしていたが、その頃には彼は事前に渡されていたドーピング用の魔石を服用しておりまともに会話も成立しない状態だったのだ。


 仮にも自分のギルドの幹部クラスの人材だと言うのに信じられない程にアッサリと切り捨てるミューマに思わず背筋に寒気が走った。

 自分達のボスが冷酷非道だと言う事はとっくに昔から骨身に染みている。だがそれでもこうして長年貢献してきた幹部すらもゴミの様に捨てる場面に立ち会うと改めて悪寒がした。


 「とにかく命令最優先だ。この国からすぐに離れねぇと……」


 幹部すら使えないと判断すると即座に切り捨てる我らがボス、自分も今回任務を失敗すれば間違いなく処分されるだろう。

 懐に忍ばせた〝魔力の実〟を道中で落としていないか再度確認すると男は魔力で肉体能力を強化して大急ぎでエルフの国が目視できない距離まで走り出す。

 逃走中は特に追撃者が追って来る気配も無くいつしか男の気持ちにはもう安全だと言う余裕が生まれ始めていた。


 「よし、もうここまで来れば逃げ切れたと言ってもいいだろ」


 そう言いながら男は酷使し続けていた脚を止めると一息ついた。

 正直大勢のエルフ達から逃げきれた安心感よりもミューマの命令を無事に遂行でき制裁を免れた安堵の方が遥かに大きかった。


 だがやり切ったと確信していたこの男は残念ながら神に見放されていた。


 「ん……?」


 足を止めてしばし休息を取っていた男は前方から人の気配を感じ視線を凝らした。

 視線の先の林道から1人の白髪の中年と思われる男性がゆっくりとやって来た。よく見ればその人物の両耳は尖っておりすぐにエルフ族である事を知る。

 前から歩いてくるエルフに思わず追手かと身構えるがよくよく考えれば騒ぎとなっているエルフの国は自分の背後、であるならこちらに近づきつつあるあのエルフは追手でなく帰国しようと偶然遭遇したエルフだと理解した。


 目の前の想定外をどう対処しようと考えていると白髪のエルフが口を開く。


 「おいおい、やけに臭いと思ったらどうしてこんな場所に人間が居るんだ?」


 「へぇ……自殺志願の中年エルフか。なら望み通りぶち殺してやるよ」


 うんざりとした顔で白髪のエルフがそう言うと同時、男は眼前の存在を駆除すべき障害と判断した。

 仮にも裏世界で有名巨大闇ギルドの一員として選ばれた存在たる自分がこんな中年エルフに侮辱されるなど男の中の小さなプライドが許せなかったのだ。それに相手が独りであり数的不利が無い事も男の行動を後押しした。


 「黙って道を譲れば国に帰れたのになぁ!!」


 そう言いながら男は魔法陣を展開すると眼前の敵を焼き払おうとする。だが展開された魔法陣から魔法が放たれるよりも早く決着は瞬時についた。

 視線の先に居たはずの白髪のエルフは一瞬で男の真後ろに回り込んでおり、繰り出されたその手刀が首の裏筋に叩き込まれ男の意識が遮断された。


 「お前がどこの誰なのか詳しく調べさせてもらおうか」


 意識を手放し脱力した男を片手で担ぐと白髪のエルフは自国へと向かって再び歩を進めるのだった。



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