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奪われた椅子

書籍に関する情報を活動報告に載せましたので是非ともそちらも見てくれると嬉しいです。出版社やイラストレーター様、発売予定日などが載っています。


 「ぐはッ……! こ、これほどとはねぇ……」


 「おいおいまさかもうおしまいか? ボクはまだまだ満足できてないよ?」


 訓練場で繰り広げているチェインとパルゥの戦闘、それは既に戦いでなく一方的な蹂躙へと変わりつつあった。当初は優勢だったチェインだったがパルゥの性格が豹変すると同時に戦況は覆ったのだ。

 一人称が『オレ』から『ボク』へと変わってからの彼女の攻撃力、移動速度、戦闘分析力、あらゆる面が何倍にも向上した。


 パルゥの中に潜んでいた〝もう1人〟が表に飛び出てきてから他の自警団のエルフ達は一切の援護はせず、距離を置いて事の成り行きを静観していた。


 「くそ……勝負は完全に優勢だが不味いぞ。今の〝状態〟のパルゥを俺達でどう鎮めろって言うんだ…」


 青年エルフの1人が戦闘が終わった後のパルゥの対処に頭を悩ませる。


 それは一体いつからなのかは分からないがパルゥの中には〝もう1人〟の彼女が住み着いていた。同族達から煙たがられた孤独からか、それともライト王国をはじめとした人間達への怒りからなのかは分からない。所謂二重人格とも言える症例を患っているパルゥであるが何よりも問題なのはその人格が〝凶暴〟である事だった。

 いつもパルゥの奥底で気配を潜ませているもう1人のパルゥ、彼女が表に飛び出してくるのは死に瀕する状況下だけであった。だからこそ日常の生活内では裏の彼女が表側に出て来る事はない。だが今回のような外部からの侵入者に追い込まれた事で目覚めてしまったのだ――殺戮兵器が……。


 自警団の戦士族であるエルフ達を単独で圧倒していたチェインだったがもう戦況の天秤は逆転していた。


 「(くそっ、この俺が一方的に押され続けている!? このままだと……)」


 このままだと敗北する、そこまで思考が行き着くと同時に彼の脳裏には屈辱的な回想が巡った。


 かつてチェインは自身が所属している巨大闇ギルド【パラダイス】のNO3の立ち位置に君臨していた猛者だった。自分の上に立つのはNO2であるロイヤー、そして自分達を統べるギルドマスターであるミューマだけだった。

 だがそんな彼の輝かしい地位は過去のもの、今のNO3は別の人物に成り代わっていた。しかも新たにNO3となった人物は自分よりも一回り、いや二回りは幼い少女だったのだ。

 

 【パラダイス】では身寄りのない孤児を攫っては自分達のギルドの戦力として活用する為に訓練を強制させている。当然だがその日を生きるのもやっとの脆弱な子供では訓練に耐え切れず死んで行く事の方が多かった。だが逆に言えばその過酷な訓練を生き抜いた者は【パラダイス】の正式な一員として迎え入れられる。

 そんな孤児の中、1人の突出した強さを身に着けたセロリと言う子供兵が誕生した。そしてあろうことかマスターであるミューマはこのセロリに自分と入れ替わりでNO3の地位を与える事を決定したのだ。

 当然だがこれまで長年その席に座り続けていたチェインとしては納得など出来るはずも無かった。トップの決定に異論を挟むなど無礼と承知しつつも彼は自分の方がNO3に相応しいと主張した。


 『ふ~ん、じゃあ試してみればいーじゃん?』

 

 欠伸交じりにミューマは自分とセロリ、どちらが上の地位を得るに相応しいか確かめて見れば良いと提案した。


 そして【パラダイス】の全構成員の観衆の元――チェインは敗北を喫する事となった。


 自分よりも幼く実戦経験もまるで少ない少女に圧倒されて地に伏す、その醜態を全構成員に目の当たりとされた。もうNO3の椅子を確保する事など不可能だった。


 「(ここでまた任務を失敗すれば俺にはもう後がない……!)」


 セロリとの戦闘中、ミューマは終始退屈そうな顔をしていた。つまり初めから自分が敗北する決着を理解しきっていたのだろう。

 小娘相手に後れを取り、その上で任務を失敗しようものなら………そこから先は想像する事も怖ろしかった。


 「何だか心ここにあらずっと顔してるな。目の前の戦闘に、いやボクに集中しなよ!!」


 劣勢だと言うのに自分に全神経を注いでいないチェインに苛立ちながらパルゥの放った蹴りが彼の左腕を捕らえた。

 

 「いぎっ!?」


 蹴りを受けた左腕がメキメキと嫌な音を奏でながら奇妙な方向へと曲がった。

 激痛に脂汗を流しながらもチェインは今の戦況を冷静に見極める。ハッキリ言えばこのまま戦闘を継続しても逆転は無いと断言できる。小細工を弄するだけは勝機を拾えない程に力の差が開きすぎているのだ。


 ここで敗北などすれば【パラダイス】の中で自分の居場所は無くなる。ボスであるミューマに処分されるぐらいなら……命を落とすリスクを受け入れるしかない。


 覚悟を固めたチェインはポケットに隠していた〝最後の切り札〟を取り出した。自分のボスであるミューマから渡されたこの代物、戦況を覆すにはコレしかなかった。


 『いざとなったらこの魔石を食べてみるといいよ。まあ命の保証はしないけどね~』


 軽い口調で渡されたソレは何やら飴玉サイズの赤く輝いている丸い玉だった。まるで誘うかの様に怪しく光る加工された魔石を彼は一瞬の躊躇いを見せた後に飲み込んだ。


 その直後、チェインの体内に取り込まれた魔石は瞬時に砕けて溶け、そのまま彼の肉体に変化をもたらした。


 

 

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