番外編 修練の塔での出来事
今回の話は過去編で出て来た修練の塔の主であるフォースと第二部の本編から出てこなかった第一部のディアブロ第4支部長ウィッシュとの対談となります。ここから次第にこの少年の正体、そして一部で謀反を起こしたウィッシュの目的を少しずつ明かして行こうと思います。
この地球上で〝最強〟に相応しい人物は誰か?
この問いを投げ掛けられた者は恐らく〝複数人〟の名前が出て来るだろう。では何故この質問で複数人の名前が出て来るのか、それは最強に相応しい人物があまりにも〝大勢〟存在するからだ。
ある者ならば冒険者の中でも最高ランクたるSランクパーティーの名を出すだろう。そしてある者ならば《剣聖》の称号を持つ騎士を挙げるかもしれない。他にも闇ギルド、傭兵、暗殺者、もっと言えば人ならざる竜や魔獣、善悪や種族を問わないのであれば最強の称号に相応しい存在などこの世界には意外にも大勢居るのだ。
ではこの世で〝一番強い生命体〟は何か?
この質問に対しては明確な答えを出せる者などほとんど居ないだろう。全ての生命体の頂点に位置する生き物に対しての正解など見つかるはずが無い、こんな質問をされた大半の者は笑い捨てて適当に答える事だろう。
だが極々一部の者はこの質問に対しての答えを断言できる。
とある引退した1人の冒険者はこう語っていた。
『この世界、強いヤツなんてゴロゴロ居るだろう。俺もかつてはSランク冒険者として自分を最強と自負していた。そう……あの『修練の塔』に挑むまではな……』
『修練の塔』――その巨大な塔は力を求める者にとっては最高の修行環境と言えるだろう。しかしこの塔は途中でリタイアした場合にはその塔で培った経験と強さがリセットされてしまう鬼のような仕様、故に頂点まで到達した者はほんの一握りだろう。
だがこの塔を攻略さえすればその挑戦者の強さは一層に極まる事は間違いない。
『確かに強くなれたよ。実際に頂上まで辿り着いた俺や仲間達のレベルは上がり、パーティーの強さは他のSランク連中とは一線を画す実力を得た。だが……それ以上に俺達が味わったのは〝絶望〟だった……!!』
彼が仲間達と共に塔の最上階に到達すると待っていたのは2人の人物だった。
1人は九つの尾を持つ美しい妖狐の美女、そしてもう1人が10歳前後の幼い平凡そうな少年だった。
『この世界の最強のNO1と2はこの二人だ。あの二人の強さはもはや生物が保有していい次元を超えちまっている。だがな……俺達が絶望したのはその絶対的な力の差なんかじゃない……!』
ならば一体あなたは何を知って絶望したと言うのか?
『この話を信じるかはお前次第だ。あの塔の頂点に君臨しているガキ、その正体はこの世界の人間にとっての~~だったんだよ。そしてこの世界は~~~~~~』
インタビューを行った人物はこの冒険者の言葉を微塵も信じる事はなかった。
あまりにも荒唐無稽、それはまるで子供の夢のような与太話としか思えなかったからだ。
◇◇◇
修練の塔の最上階、そこに置かれている玉座に座る少年とその従者である妖狐の前には1人の女性が立っていた。
その女性に対してこの修練の塔である主の少年、フォース・ワールドは口を開いた。
「やあ、『修練の塔』のクリアおめでとう……とでも言えばいいのかな?」
「いえ、別にこの塔の攻略が目的ではありませんので結構。それはあなただって気付いているのでしょう? どうせ私の心の声など〝筒抜け〟なんでしょうから」
「そうだね、元ディアブロ第4支部長ウィッシュ・リードレイドちゃん」
そう言いながらフォースは屈託のない笑顔を見せて初対面である彼女の名をズバリ言い当てる。その純粋な笑みとは裏腹に彼の全身から放たれる圧力にウィッシュは冷や汗を一筋垂らす。
「とてつもない圧力……流石はこの世界の『創造主』とでも言えばいいですかね?」
かつては巨大闇ギルドの支部長でありそして謀反によってギルドマスターのオーガ・ドモスを討ち取ったウィッシュは相当の猛者、しかしそんな彼女ですらも目の前の少年にはまるで歯が立たない事を圧力だけで知らしめられた。
「あー……この塔を攻略後に引退した冒険者からそう教えられたんだ。でも創造主なんて大仰な扱いだと思うけどなぁ。僕はただこの世界に〝基礎となる力〟を広めただけなんだけどなぁ」
「いえ主様、貴方がこの世界の創造主と言うのは決して誇大表現ではないかと」
そう言いながら彼の唯一の付き人である妖狐のツガイが言葉を挟む。
「う~んそう? いやまぁ別に周囲の呼び名に興味なんてないからどうでも良いけど……それよりもさ、ウィッシュちゃんは強くなる為じゃなくて僕に会う為にこの塔の最上階を目指したんでしょ? 君の心の声はぜーんぶ丸聞こえだけど一応君が僕に対して望む事をその口で聴かせてくれるかな?」
この少年は全てを見透かしている。目の前のウィッシュがこの塔に挑んだ理由が自分に〝ある頼み事〟をする為だと言う事は無論の事、その頼み事の内容も、更に何故彼女が巨大闇ギルド【ディアブロ】を裏切ったのかまで何もかも……。
だが彼はあえて眼前で膝をつく彼女に問い掛け、その目的を自らの口から語らせようとする。
そこに深い理由など無い。ただ単にその方が面白そうだから、言ってしまえば彼の退屈しのぎに過ぎないのだ。
この世界など少年にとってはただの玩具箱に過ぎないのだから……。
「意地悪ですね、貴方にとってこの世界で知らない事なんてないでしょうに……」
ウィッシュがそう皮肉めいたセリフを吐いた次の瞬間だった――気が付けばウィッシュの身体はツナギによって床に組み伏せられていた。
「おい……オマエは誰に向かって口をキイテイル?」
これまでお淑やかな雰囲気を纏っていたツナギが低い声で押さえつけているウィッシュに上から語り掛ける。
そのまま返答も待たず彼女の指がウィッシュの肌に食い込み鋭利な爪が突き刺さって血が滲んだ時、玉座で見ていたフォースが詰まらなそうにツナギを止めた。
「短期過ぎるよツナギ、別に僕は怒ってないんだからさぁ~」
「も、申し訳ありません!」
主人を僅かにでも不快にさせたと思いツナギは慌ててウィッシュから離れ主の隣へと戻る。
すっかりしょげて頭部の狐耳を垂らしている彼女を苦笑気味に見つめながら彼は自由となったウィッシュに再度問う。
「ごめんごめん、それでもう一度聞くけど君は僕に何を望んでいるのかな?」
笑顔でそう同じ質問を投げるフォースだがその目は笑っておらず、もしまたはぐらかすようなセリフを吐けば命はない、その意思が瞳の中には明白に宿っていた。
その眼光にさらに汗の量を増やしつつもウィッシュは既に見透かされている自分の願いを口にする。
「フォース・ワールド様。この世界に〝魔力〟を生み出したあなたの力で絶滅した〝魔族〟を蘇らせてはくれないでしょうか?」
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