表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

269/297

エルフの民達の心境変化


 バンの振り下ろした剣がローズの身体を切り裂いた――かのように見えた。

 

 「(何だ手応えが……?)」


 人間の肉体を切り裂いたとは思えないほどの手ごたえの無さ、まるで刃が通り抜けた感触にバンの表情は怪訝に歪む。

 だが剣を振り下ろしたと同時、自分のすぐ隣から囁き声が聴こえて来た。


 「生憎だが残像だ」


 気が付けばいつの間にか剣を構えた体制のローズがすぐ真横に立っていた。それと入れ替わるかのように今しがた自分が切り裂いたローズは影も形も無く消失していた。

 

 「ぐっ、コイツ!?」


 「遅い、それでは欠伸が出る」


 剣を構えなおそうとするバンであるがそれよりも先にローズの斬撃が彼の両脚を切り裂いた。


 「ウガああああッ!? き、キサマぁぁこっちには人質がいるんだぞ!!」


 「ほう……どこに人質が居るんだ?」


 「何を言って……なッ!?」


 両脚の腱を斬り落とされて唾を飛ばすバンに対してローズが視線を彼の部下達の方へと向ける。

 ローズの視線に釣られてバンが脂汗をかきながら自分の部下達の方を見て驚愕の声を上げる。何故なら視線の先には先程までエルフ達を人質に取っていたはずの部下達がいつの間にか全員揃って地に伏していたのだ。


 実はバンが人質を突きつけると同時の事だった。瞬時に状況を判断したローズは自分の背後に居るムゲンとソルに小声で指示を飛ばしていた。


 ――『私があえてヤツから初撃を受ける、その瞬間はあのバンと言う男も周りの部下共も私に気が向くはずだ。その瞬間に他の部下達を無力化できるか?』

 

 バンが率いる大多数の部下、更には複数人の人質、後ろで話を聞いていたローズの部下の騎士達は口にこそ出さなかったが『不可能』だと思っていた。敵の全ての目が一点に集まるのはほんの一瞬の間、その刹那の間にあれだけの敵兵を無力化するなど出来る訳が無いと。

 だがそんな騎士達とは真逆にムゲンとソルの二人は一切動じることなく答えた。


 ――『『問題ない』』


 二人の答えを聞くとローズはあえて顔に動揺の色を浮かばせて目の前のバンの攻撃を誘った。その目論見通り自分が優位と信じているバンがローズへと剣を振り下ろした。その瞬間にバンをはじめ周りの部下共の視線はその一点に集まる。


 そのコンマ数秒の隙をムゲンとソルは見逃さず攻撃を繰り出した。


 まずムゲンは拳に赤色の魔力を纏わせるとその魔力の塊を拳を勢いよく突きだす事で砲弾の様に敵兵目掛けて発射したのだ。ほんのコンマ数秒の間に撃ち出された大量の魔力の連弾、その1発1発は並みの魔法などよりも遥かに強力であり意識外からの攻撃を受けた敵兵達は次々と意識を刈り取られる。中には当たり所が悪く絶命する者までいるほどだ。

 そしてソルもまたムゲンと同タイミングに攻撃を繰り出していた。彼女は両の掌に魔力を集約すると燃え上がる二振りの剣を創造する。形なき剣を想像する魔法<フォームレスソード>によって造られた炎剣を凄まじい速度でソルが横なぎに振るうと炎の弾幕が敵兵を一気に焼き尽くしたのだ。


 二人の一連の行動は敵全体の意識が斬りつけられたローズに集約したコンマ数秒の間に行われた。ごく短い時の中で制圧劇を繰り広げた二人の動きは人質になっていたエルフ達はおろか、実際に攻撃を受けた敵兵達ですら何が起きたのか理解できぬまま鎮圧されたのだ。

 

 「そ…そんな馬鹿な……」


 自分の部下が1人残らず二人の少年少女に撃破された事実にバンは脚の痛みも忘れて途方に暮れた顔を見せた。


 「えっと……助かったの?」


 「みたい……」


 一方で敵兵達から人質に取られていたエルフ住人達も未だ呆けていた。

 何しろほとんど何が起きたのか分からない間にいつの間にか敵の手から解放されていたのだ。それ故に襲撃者達が揃って地に伏している光景を前にしても未だに救出された実感がわかなかった。

 そんな呆気に取られているエルフ達にムゲンはゆっくりと歩み寄りながら声を掛ける。


 「もう大丈夫だ、襲撃者達は全員片付いた」


 「あ…はい……」


 「あの…助けてくれて……ありがとうございます」


 通常の精神状態なら人間に声を掛けられれば嫌悪を向けるエルフ達だがこの時ばかりは素直に窮地を救ってくれたムゲンやソルに頭を下げる。

 そんな彼女達に対してムゲンは『気にしないで良い』と言いながら視線を犠牲となったエルフ住人達へと向ける。


 「ごめんな……間に合わなくて……」


 バン達の襲撃によって犠牲となったエルフ達に対してムゲンは悲しそうに目を伏せて謝罪を述べる。

 人間嫌いのエルフ達と言えども犠牲となった同族達がムゲンのせいで命を落とした訳でないと理解している。いや、それよりもムゲン達の活躍のお陰で救われた命が大勢いると言った方が正しい。それでも悲しそうに目を伏せて同族達の遺体に頭を下げる彼を見てエルフ達の心には共通して1つの疑念が浮かんでいた。


 ライト王国の人間達は本当に全員が冷酷非道なのだろうか……と……。


 上の世代から『ライト王国は冷酷な人間の国』だと植え付けられてきた。実際に過去のライト王国の人間達は卑劣な者が大勢居たのかもしれない。だが時代が流れた今でも果たして冷酷非道な国のままなのだろうか?


 この時のムゲンの見せた何気ない心ある行動、彼は決して意図して行った訳ではない。だがエルフの国の民達の心には人間に対する見方に変化の兆しが現れつつあった。



もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ