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荒れるエルフの国


 ラティールとの顔合わせを終えたムゲン達はこの国に設立されている訓練場へと向かっていた。表向きの理由としてはこの国のエルフ達との合同稽古が目的だからだ。

 王城を出ると先程とはまた別の案内役のエルフ女性が立っておりムゲン達の姿を確認すると頭を下げて来た。


 「あっ、騎士隊と冒険者の方ですね。私は訓練場までの案内役を任されたイルマと申します!」


 少したどたどしく自己紹介をするエルフの少女イルマ。

 彼女の姿勢はこれまでこの国の中で見て来たエルフ達とは違い人間に対しての嫌悪感が瞳に宿っていない純粋なものだった。


 「(へえ、国の住人全員が俺達ライト王国に嫌悪を向けている訳じゃないんだな……)」


 一切の曇りない純粋過ぎる瞳を見てムゲンは反射的にそんな事を考えていた。

 今しがた対話をしたラティール王女も物腰こそは柔らかかったがその瞳の奥底には自分達への〝疑念〟の色が滲み出ていた。だがこのイルマと言う少女にはソレすら無いのだ。

 

 案内役であるイルマは自己紹介を終えると早速この国の訓練場へと先導を開始する。


 「あ、あの……そちらの赤髪の方は何度もこの国で合同訓練に参加されている《剣聖》様で間違いない……ですよね?」


 「ん、ああその通りだが……」


 唐突な質問にローズは少し戸惑いつつもその通りだと答える。するとイルマは若干の興奮と共に更に話し掛けて来た。


 「じ、実は何ですけど私も自警団に所属しているんです。まぁつい最近入ったばかりの新人ですが、この国で度々先輩方と合同訓練を行っている《剣聖》様に興味があったんです」


 「ほお、そう言ってもらえるとむず痒いが嬉しいよ。だがこの国には私よりも素晴らしい戦士が大勢居るだろう。私なんぞよりも参考になる者を見た方が良いのではないか?」


 あえて自分を持ち上げずローズがそう口にするとイルマは意外にも強く否定して来た。


 「そんな事はありません! 前回《剣聖》様が自警団の先輩方を複数人同時に相手取っている姿は今でも印象に残っています!」


 このイルマは元々自警団など戦いの場などに立つ役職に就くつもりなど無かった。だが偶然にも訓練場で見かけたローズの美しい立ち振る舞いと剣捌きで同族を手玉に取る姿に憧れを持ってこの世界に踏み込んだのだ。いつかは自分もあのような凛とした気高い女性になりたいと言う想いから。

 

 「もし次に《剣聖》様と出会えたら私にもぜひ稽古を付けて欲しいとずっと思っていたのであなたの案内役を任せられて嬉しいです」


 「そ、そうなのか。ただこそばゆいから《剣聖》様はよしてくれないか?」


 まさかエルフの中に自分を目標とする人物が居るとは思わずローズも反応に困ってしまう。だが同時に自国の騎士を信頼してくれているエルフが居ると思うと何故だかローズの心も軽くなった気がした。それはムゲン達も同様で嬉しそうにしているイルマに何だか癒されてしまっていた。

 

 だが和やかな空気は突如として響き渡る悲鳴によって霧散する事となる。


 「いやああああ助けてぇ!」

 

 「くそっ、自警団は何をやってるんだ!?」


 訓練場を目指す道中でムゲン達は前方からエルフ達の悲鳴を耳にして足を止める。

 一体何事なのかと思い視線を前方に向けるとそこには逃げ惑うエルフ達、そしてそんなエルフ住人に襲撃を掛かっている武装した〝人間〟達だった。


 「え…え…?」


 目の前で行われる阿鼻叫喚にイルマの思考は停止してしまう。


 どうしてみんなが襲われているの? 何故この国に武装した人間達がいるの?


 頭の中ではそんな意味の無い疑問がグルグルと回り続ける。

 そんな呆然と思考停止していると賊の数人がイルマの方へと凶器を手に向かって来たのだ。

 

 その時、呆けているイルマの両隣を二人の女性剣士が飛び出す。


 「お前達は……」


 「何をやっている……」


 とても低い声と共に飛び出したのはSランクの《魔法剣士》と王国騎士の《剣聖》の二人だった。

 二人は同時に抜刀するとイルマに飛び掛かる襲撃者を一瞬で斬り捨てた。その表情は憤怒に染まっており後続の賊は思わず急停止する。だが仲間を斬り捨てた二人の顔を見ると急に騒ぎ出した。


 「出た、出たぞ! 遂に《剣聖》が出て来ましたマスター! 同行して来た冒険者の連中も一緒です!!」


 「おお……やっと出て来たな」


 自分の部下達を掻き分けて前に出て来たのは1人の男だった。

 明らかに他の賊達を凌駕する魔力の放出量にローズが警戒しつつも襲撃者に問う。


 「誰だ貴様らは。一体この国に何が目的で侵入した?」


 「目的はお前だよ《剣聖》ローズ・ミーティア。私は闇ギルド【ケントゥリオ】のギルドマスターのバンだ。昨夜は部下達が随分と世話になったな」


 その言葉を聞き終えるとローズはもう話す事は無いと言わんばかりにバンへと飛び掛かっていた。

 

 「貴様は拘束する。色々と情報を吐いてもらうぞ」


 その速度はハッキリ言って迅雷の如く、兵隊達は当然の事バンですらも辛うじて見えるだけだった。

 本来であれば次の瞬間には振るわれる斬撃を防げずバンの両脚は切り裂かれていただろう。だが……刃を振るう直前にローズの剣は止められる事となる。


 「……貴様ぁ」


 「悪いな、我々闇ギルドは手段を選ばないんだ」


 そう言いながらバンの背後からエルフ住人を人質に取った彼の部下達が現れる。

 もし抵抗しようものならこのエルフ達の命が無い、そう無言で突きつけられたローズが歯噛みする。


 「その甘さがお前の最大の弱点だ」


 その言葉と共にバンの引き抜いた剣が動きの止まったローズの身体を切り裂いた。


 

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