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土足でエルフの領域に入るな!


 ムゲン達が王城内に居る頃、この国の自警団に所属しているエルフ達は訓練場に集まっていた。


 「聞いたか、またライト王国から騎士隊が合同訓練にやって来たそうだぜ」


 「いい加減にして欲しいわよ。訓練中に私たちが乗り気じゃない事を察せないのかしら?」


 この場に集まっている自警団の面々は他のエルフ達と比べても戦闘に特化した部隊であり自分達の実力に絶対の自信を持っている。だからこそ他のエルフ達と比べても外部からの力を頼る事を毛嫌いしている傾向が強い。ましてや過去に自分達の国を裏切った相手国ならば猶更の事だった。


 「まったく、ラティール様も人が良すぎるんだよ。あんな調子じゃまたライト王国の連中に足元をすくわれるんじゃないのか?」


 不満を口にしている自警団の輪の中に一際大きな声で王女に対して不満を述べる者が居た。

 皆が揃って声の出所に目を向けるとそこには褐色の肌のエルフのパルゥが近くの木に寄りかかって自警団の面々を眺めていた。

 一斉に向けられる同族達の視線も気にせず彼女は更に王女ラティールへの文句を止めない。


 「それとも大々的にライト王国の連中が侵略しないように波風立てないよう必死なのかね? まああの方は保守的な思考の持ち主だからな」


 「おいパルゥそこまでにしておけよ。ラティール様に当たるのは筋違いだろうが」


 他のエルフ達が嫌悪しているのはあくまでライト王国の住人達であり、今のパルゥのような自国のトップに対しての侮辱は気分の良いものではなかった。

 そんな非難の色を向ける他の自警団の連中に構わずパルゥは『はんっ』と鼻で笑う。


 「オレは事実を言っただけだ。それともお前達もライト王国の人間共に日和ってんのかよ」


 そう言いながらパルゥはもう話す気は無いと言わんばかりに訓練用の武器を持って自主練を始める。その態度を見かねた自警団の青年が食って掛かろうとする。だが他のエルフ達がそんな彼を止めに入る。


 「やめておけよ。下手に喧嘩売っても返り討ちに会うだけだ」


 「ぐっ……」


 戦闘に特化している自警団所属の戦士エルフ達の中でもパルゥの実力は飛びぬけている。下手に飛び掛かっても痛い目に遭わされるだけだと自警団の皆が理解しているのだ。

 周りに窘められて大人しくなる青年にパルゥは鼻を鳴らして『馬鹿馬鹿しい』と呟いて素振りを始める。


 「くそっ、ダークエルフが調子づきやがって……〝魔族擬き〟の分際で……」


 その言葉の直後、パルゥの耳がピクリと動き彼女の素振りの手が止まる。


 「なっ、何だよ。なんか文句あるのかよ」


 今の自分の〝侮辱〟に反応したのかと思い青年エルフが内心震える。だが彼女はそんな彼の言葉などは耳に入っていなかった。彼女が素振りを止めた理由、それは言いようもない〝違和感〟を察知したからだ。


 「随分と大胆じゃねぇか。まさかこの国に堂々と潜入するとはな……」


 「はあ? お前一体何の話をしているんだよ?」


 唐突なパルゥの謎の発言に意図が理解できない周りのエルフ達だが彼等もまたこの国の戦士達、パルゥに遅れてすぐ近くまで迫って来ている〝気配〟に遅れて気付いた。


 「あれれぇ、意外と勘の鋭い娘さんが居るねぇ。気配を断って一気に奇襲をかけようと思ったんだけどなぁ」


 訓練場を囲んでいる木々の間から1人の金髪の〝人間〟が現れる。

 現在この国に居る人間はライト王国からやって来た王国騎士3名と冒険者2名の合計〝5名〟のはずだ。先程にパルゥはその5名の顔を確認しておりこんな男など確認できなかった。つまりこの人間は不法入国して来た賊と言う事だ。

 となれば人間と言う種族に対して嫌悪感を持っているパルゥが取るべき選択は1つだけだった。


 「どこの誰か知らねぇが許可なく人の土地に土足でズケズケと踏み込みやがって。当然この場でぶっ殺される覚悟はあるんだろうな」


 そう言いながら彼女は素振り用に持っていた木刀を枝木の様にへし折って男目掛け投擲した。

 

 「おっとあぶねぇな。人に物を投げてはいけませんってママに教わらなかったのか?」


 飛んでくる木刀を最低限の動きで回避して軽口を吐く男の態度に周囲のエルフ達も殺気立つ。パルゥに限らずこの場の全員が人と言う種族に嫌悪感を持っているのだ。ましてやこの国に無断で入り込む侵入者ならば怒りを通り越し殺意を持つ者すら居る。


 「無断で我々の国に踏み込むな下郎が!!」

 

 「なっ、迂闊に飛び込むんじゃねぇ!!」


 侵入者の態度に我慢ならなかったエルフの1人が剣を抜いて男にスタートを切る。背後からパルゥの制止の声が刺さるがソレを無視して一気に距離を潰す。


 「死ねぇ!」


 「青いねぇ、エルフは長寿らしいがお前さんもしかして俺より若い?」


 一切の容赦もなく振り下ろされる斬撃に対して男はまたしても最低限の動きで回避する。そのままカウンターで短刀を抜くとそれを鳩尾に突き刺した。

 まるで流れるような殺戮に周りのエルフ達は何が起きたのか分からず呆然とする。だがそれも一瞬の事、血反吐を吐き崩れ行く同胞を目の当たりにした事で他のエルフ達もそれぞれ得手とする武具を持って男に襲い掛かる。 


 「馬鹿野郎、だから迂闊に飛び込むなって言っただろうが!」


 そう言いながらパルゥも斧を両手に持ち後に続く。

 だが彼女のフォローが間に合うよりも早く突っ込んだエルフ達が一瞬で数人斬り捨てられた。


 「テメェはぁぁぁ!!」


 何人も血だまりに沈む同胞達の亡骸にパルゥは魔力を放出して男へと飛び込んで行く。

 

 「お前さんは他の奴等より楽しませてくれるかい? 褐色のエルフさん」


 「残念ながら楽しめねぇだろうな! テメェは瞬殺されんだからよぉ!!」


 両者は温度差のあるセリフと共に互いの得物をぶつけ合った。

 

 その頃、訓練場から離れた村の入り口付近でも戦闘が繰り広げられていた。



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