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これが《剣聖》の実力だ


 月明かりの下でローズと傷面男の刃が火花を散らせてかち合った。それを合図に周囲を取り囲んでいた他の敵達も一気に武器を持ってムゲン達へと襲い掛かる。


 「周りの雑魚共は任せる! 私はコイツを斬り捨てる!」


 取り巻きを任せたローズは気合の籠った掛け声とともに更に魔力を纏わせた斬撃を振るう。それに対して傷面の男も愉悦の笑みを浮かべて迫りくる白刃を受け止める。

 お互いに肉体と剣を魔力で強化した激突は凄まじい風圧を起こし両者の踏み込んだ足が地面へとめり込むほどだ。

 

 「くっ、ハハハハハハッ!!」


 自分の一撃を真っ向から受け止めるローズを前に傷面の男は一切怯えも怯みも見せない。それどころか嬉々とした表情で剣を振り続けて来た。

 

 「凄いじゃねぇかよお前! 大抵のヤツは俺の一撃で終いだってのによ! 流石は《剣聖》様と言うだけの事はあるなぁぁぁ!!」


 唾を飛ばしながら更に傷面の剣速が上昇していく。両の手から振るわれる剣の残像は10、20と加算されていく。この戦闘力、間違いなく冒険者登録しているならばAランク、Sランクと言った評価を貰えるだろう。もしもローズと同行して来た部下の騎士達では今頃は肉片に斬り刻まれている頃だろう。


 だが甘く見るなかれ、その剣劇を裁いているのは《剣聖》たるローズ・ミーティアなのだ。


 「なるほどこの手数と剣圧、これまでかなりの場数を経験して来たのだろうな」


 「涼しい顔して受け止めながら言ってくれるじゃねぇか!!」


 まるで暴風の様な剣劇を前にローズは極めて冷静を一貫していた。

 決して眼前の剣士が弱い訳ではなければローズも余裕がある訳でもない。だがこれまで自国の為に剣を振るい続けて来た彼女の肝は並みの戦士とは比較にならぬほどに据わっている。戦闘に置いて感情の起伏は優劣に繋がる事もある。相手の力量に焦れば視野も狭まりパフォーマンスも低下して勝てる勝負も勝てない、だからこそローズはこの剣劇の中でも冷静に眼前の攻撃を捌き隙を伺う。

 

 そして絶え間ない斬撃の中に見える僅かな余白部分を見抜いたローズの横なぎが振るわれた。


 「ここだッ!」


 「うぐぅっ、テメェ…!?」


 剣劇の中で生じるコンマ数秒の隙間を掻い縫ってローズの刃が傷面の腹を裂く。だがこの男は咄嗟に半歩ほど後ろに身を引いたため浅く切り裂いた程度で被害を押さえる。しかし僅かに肉を裂かれ痛みで動きが一瞬ぎこちなくなった隙をローズは見過ごさない。


 「もう一撃だ!」


 その言葉と共に振り下ろしたローズの斬撃は傷面の男の体を袈裟に切り裂いた。


 「ガ……ア……!?」


 斜め上から振り下ろされたローズの刃は男の顔面から腹部まで縦一閃に途切れることなく斬りつけており左目の眼球をも切り裂いていた。

 切り裂かれた箇所から真っ赤な血液が吹き出て返り血がローズの頬に付着した。


 「悪いが一切加減しない。これで最期だ」


 生暖かい血液を浴びながらもローズは冷酷に腕を突きのばすとトドメの突きを喉元へと穿つ。そのまま切っ先は喉を貫き通り抜いた……と思った。

 だが切っ先が自らの喉に食い込む直前、傷面の男は体制を低くしてその突きを回避して見せる。


 「なに!?」


 今まで冷静に戦いを進めていたローズから初めて焦燥に籠った声が漏れ出る。

 深手を負わされ片目を奪われて置きながら眼前の男は自分の刺突に反応した。それだけならまだ動揺する事もなかっただろう。だが自分の今の刺突はこの剣劇の中で見せた中で一番の最高速度だったにも関わらずこの血濡れの男はその一撃を完全に外して見せたのだ。


 これまでの戦闘でこの男の力量は凡そ把握していたはずだ。ヤツの反応速度で今の突きを躱す事などできるはずが……!?


 まさか今まで自分を相手に手を抜いていたのか、などと余計な疑問を持ってしまった事が不味かった。これまで冷静に戦局を見極めていた彼女にここで初めての〝隙〟が生じてしまった。


 「ほらお返しだぜぇぇぇ!!」


 口から血反吐を吐きだしながら傷面の男はしゃがみ込んでいる体勢から地面を蹴って一気に飛びあがる。その際に右手の剣を下から稲妻の勢いで振り上げ、そして左手の剣を横なぎに振りぬいてきた。

 

 「(くっ、別方向から同時に2つの斬撃……!?)」


 それぞれ別方向から伸びて来る斬撃に対してローズは歯ぎしりをしながら決断をする。

 右手の突きあげの斬撃を半身引いて回避、そして左手の横なぎを剣で受け止めた。だが体勢を崩した状態での防御は斬撃を防げても至近距離の男の次の一手を防げはしなかった。


 「ボディが隙だらけだぜオイ!!」


 「ぐうううううっ!?」


 叫び声と共に繰り出された前蹴りがローズの腹部にモロに突き刺さって衝撃で呼吸が止まる。しかも男の蹴りは想像以上に強烈でそのまま彼女の体は後方へと弾き飛ばされた。


 「ぐっ……防具がまるで意味を成していないな……」


 空中に吹き飛ばされながらも瞬時に体制を整える。その際に視線を蹴りの受けた腹部に移すと防具がベッコリとへこみ足跡が付いていた。

 

 「た、隊長!?」


 「馬鹿者が目の前の敵から目を離すな!!」


 吹っ飛ばされたローズの姿を見た部下の1人が焦りの声を上げて駆け寄ろうとする。だが彼の目の前の敵は好機と言わんばかりに背を向けた騎士へと一気に襲い来る。

 

 「させるか!」


 しかし騎士の背を切り裂くよりも早く稲妻のような勢いで間にムゲンが飛び込み、そのまま彼の拳がその敵の顔面を打ちぬいた。

 鋼鉄並、いやそれ以上の硬度の拳は敵の顔面を打ちぬくと同時に首をへし折り絶命させる。


 「自分達の隊長を心配する前に目先の敵を無力化しろ!!」


 「は、はい!!」


 自分達の隊長に負けず劣らずの迫力に思わず敬語で返事を返す騎士。

 そしてムゲンの叱咤と入れ替わる様に傷面の男が周囲に響き渡るほどの笑い声を上げ出した。


 「ガハハハハハハッ! おもしれぇ、おもしれぇぞ《剣聖》! ここまで血が疼くのは久々だぁ!!」


 相当な深手を負ったはずの傷面の男は自分のダメージに苦悶を見せるどころか恍惚な表情を浮かべる。口の端から血と共に涎を垂らし狂喜乱舞を顔面に貼り付ける。


 「さあもっと俺と殺し合おうぜぇぇぇ!!」


 そう言いながら男の放つ魔力に更なる圧力が加わる。

 自身の傷によって興奮を覚える戦闘狂、それこそがこの男の本質だった。その姿はまさに異様で彼の部下達ですらも戦慄を憶える。

 だが響き渡る狂笑の中、ローズの透き通った一言がこの場の皆の耳に届いた。


 「いいだろう……私も久しぶりに〝全力〟を出すとしようか……」


 そう言いながらローズは何と防具を全て取り外した。

 身を護る物を全て取り払う彼女の行動に傷面の男は首を捻る。


 「何だそれ? 自分から防御力を捨てて何のつもりだ?」


 「なぁに……貴様の剣速は想定以上だからな。今の〝重り〟を付けたままでは分が悪いと判断しただけだよ」


 そう言いながら取り外した防具を彼女は無造作に空中へと放る。そのまま投げ捨てられた鎧は地面へと落下して――轟音と共に地面に沈んだのだ。


 「なっ……!?」


 「ふぅ……やはり〝重り〟を外すと体が羽の様に軽く感じるな」


 「はんっ、随分と古典的な手法だな。それで俺が怯むとでも?」


 そう吐き捨てながら男が一気にローズへと飛び掛かろうとした……と思った時には視線の先の彼女が〝消えて〟いた。


 「悪いな、お喋りの最中に隙だらけで斬ってしまったよ」


 背後からローズの声が聴こえて勢いよく男が首を振り返る。

 いつの間にか自分の背後に移動していた彼女の手には武器である剣と……無数の傷跡の突いている〝人間の腕〟を持っていた。


 「ああコレか? 通り過ぎ様に片腕を貰っておいたぞ」


 そう言うと彼女は持っていた腕を軽く宙に放るとソレ目掛けて剣を振った。だが剣を振ったローズの腕の速度は男の目には捉えられず剣を持つ腕が消えた様に見えた。そして宙に放られた腕は一瞬の内に細切れに切断され、原型を失った肉片が地面に血だまりを作った。


 「はは……もはや別人だろ……」


 自分の片腕を細切れにされた事など気にもならない程の《剣聖》の真の実力を前に今まで高揚していた男は自分の血の気が引くのを実感した。



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