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夜の平野に忍び寄る陰


 エルフの国へと向けて出国したムゲン達一行、一日で辿り着く距離でない為その日は野営を行い星空の下で一晩を明かす事となった。

 複数用意されたテントは男女別で別けられローズとソルが同じテントで寝泊まりする事となった。


 その中の一組のテント内から1人の女性の笑い声が外に漏れ出ていた。

 

 「あの時は心底驚いたよ。まさかあんな街中の飲食街で自分が守るべきこの国の第二王女様と遭遇するなど夢にも思わなかったよ」


 「あははっ、本当に行動力のおるお姫様だな!」


 「私としては笑い事ではないのだがな……」


 「悪い悪い…くっくっ……」


 野営の為に張ったテント内で自身の過去を語りながらローズはやれやれと言わんばかりに溜息を吐き出す。その真逆で今の話を聞いたソルは腹を押さえながら吹き出していた。

 ソルの提案から何気なくお互いの過去話を語り合う事となったがここまで笑われるとローズの表情にも憂愁の色が濃くなって浮かぶ。


 「思えばあの瞬間からだったな。アセリア様と私が深く関わりを持つようになったのは……」


 「しかし当時からお転婆姫だったんだな。だけどそれに引き換えお前は随分とスパルタだったと言うか印象違うな……」


 ここまでの話を聞いてソルは過去のローズと現在のローズは随分と印象が違うように思えて仕方が無かった。それに彼女と部下の関係性についても差異を感じる。今回ローズに同行して来た部下の騎士達は隊長であるローズを慕っているように見える。だが過去話で出て来た部下達はどちらかと言えば彼女を煙たがっている印象が強く感じた。

 ソルのこの指摘はローズとしても反省すべき点だと自覚があり苦笑気味に笑った。


 「そうだな…あの頃の私は自分の元についている部下達の気持ちを蔑ろにしがちだった。もしも私があの頃の傲慢な人間のままだったら第三騎士団も随分と変わっていたのだろうな……」


 そう言いながら懐かしむような恥ずかしむような遠い目で黒歴史の自分を思い返す。

 

 「私が部下の心をちゃんと見れるようになったのはアセリア様のお陰でな、あの日の飲食街の夜にあの方と遭遇しなければ今の私は居なかったんだろうな……」


 この物言いからどうやらローズの性格が過去と今とで大きく差異があるのはアセリア姫との出会いが切っ掛けだとソルは察する。

 当然どのような経緯があったのか気になるソルは話の続きを促そうとする。


 だがソルが開口しようとした次の瞬間だった――テントの外から肌に纏わりつく殺気を二人が感じたのは。

 

 「「…ッ!!」」


 二人はそれぞれ言葉を交わす事もなく剣を持つとテントを切り裂いて神速の勢いで外へと飛び出し構えた。周囲を見回すと自分同様に気配を察知したムゲンが全く同じタイミングでテントから飛び出ていたところだった。

 臨戦態勢で出て来た自分達を見てムゲンが言葉を掛けて来る。


 「どうやら二人もこの殺気に気付いたようだな……囲まれているぞ……」


 「ああ勿論だ。寝込みを襲うとは品性の欠片も無い連中みたいだな」


 ムゲンの言葉に対してソルが不敵な笑みを添えながら軽口を言う。だが口調こそは軽いが神経は周囲を取り囲んでいる気配にちゃんと向いており集中を切らしていない。

 

 「お前たち全員剣を持たんかッ! 襲撃を掛けられているぞ!!」


 どうやら寝起きの隊員も居る様で未だに騎士達は状況が呑み込めていなかったが、自分達の隊長からの怒号により一気に神経を張り詰めて剣を取る。

 

 その時、闇の中から一つの人影がゆっくりと近付いてその姿を露にした。


 「流石だなぁ、こっちの気配を瞬時に察知して即座に臨戦態勢を整えるとはよぉ」


 月の光に照らされ姿を現したのは体格の良く、そして何より異様な気配を纏っている男だった。

 その両手にはそれぞれ鋭利な刀剣が二振り、だがそれ以上に目を引くのは武器でなく男の肉体の至る場所に刻まれている〝傷〟だった。衣服から露出している四肢には数えるのも億劫な程の切り傷があり、そして顔面には斜めに切り裂かれた刀傷が付けられている。そしてその風貌をより不気味に引き立てているのは放たれるどす黒い魔力だった。

 目の前の男の存在にローズの部下達は後退こそしなかったが内心で畏怖の念が過る。


 「おいおいちょっと殺気を当てられただけでそこの連中は何をビビってんだよ?」


 そう言いながら男はつまらなそうに切っ先を部下達のほうへと向ける。

 自分達の内心の〝怯え〟を見抜かれた部下達は動揺を顔に出す。だがそんな彼等に向けてローズは落ち着いた口調で語り掛ける。


 「敵の言葉でイチイチ動揺してどうする? 相手が何者であろうと自分の剣を信じて目を逸らすな」


 ローズがそう言いながら視線だけ後方へ向け部下達に言葉を届ける。その表情は穏やかであり彼等の心を蝕みつつあった恐怖は部下達の中から消える。

 

 「ほお……アンタはそこのお飾り騎士達と違いかなりやりそうだな。流石は《剣聖》様なだけはある……」


 「さてな、それでお前達はどこの誰だ? 下賤な野盗……ではないな……」


 自分を《剣聖》と言った事にあえて気付かないフリをして更に襲撃者から情報を聴き取り出そうとローズは問いを投げる。その問答に対して男はめんどくさそうに頭をガリガリと掻いた。


 「生憎こっちの素性については詳しく語れんのよ。それに……今から死ぬんだから聞くだけ損だ……ぜッ!!」


 語句を荒げながら傷面の男は一気にローズへと突進していく。

 凄まじい覇気を纏う男を迎え撃ちながらローズは部下達に大声で指示を飛ばす。


 「お前達、ライト王国を守護する第三騎士団の実力を見せつけろ!!」


 ローズと男が互いに振るった刃が火花を散らして鍔迫り合った直後、夜の平野での戦いが開戦した。



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