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過去編 ライト王国第一王女アビシャス・ルイ・ライト


 疲れ果ててぶっ倒れている部下達を置いて先に修練場を後にしたローズの表情はどこか不機嫌ぶりが抜けきっていなかった。


 どうしてなのだ……あれだけの鍛錬を積んでいると言うのに何故成長速度がこうまで鈍足なのだ……。


 先程の部下達との模擬戦を思い返すと不満による黒い靄の様なものが胸の中に湧き出してしまう。

 自分単機相手に十人以上同時に向かってくる部下達、だが彼等は剣術はおろか連携すらも自分の目から見てまだまだ未熟と言わざるを得ないレベルだった。


 「(あれだけの鍛錬を積めば自ずと成長するものだと思うが……)」


 自分が《剣聖》の称号と共に第三騎士団の師団長と言う役割を任命された当初からローズは部下達に過酷な訓練を強いた。自分が先導して鍛錬メニューを組んだ初期の頃は部下となった騎士達は著しい成長を遂げてくれた。しかし途中からその成長の速度が明らかに減速したのだ。


 「私が彼等に貸した訓練メニューと同じものを数ヶ月もこなした頃には今の彼等の3倍は成果が如実に表れていたと言うのに」


 ローズは未だに気が付いていない。過度なトレーニングを続ければその分だけ実力が身に着く保証などどこにもない。それどころか過度な訓練の日々が続く事で肉体面の疲労は抜けず、更にはメンタル面にも疲弊が募りむしろ成長の妨げとなる場合もあるのだ。まさに今の第三騎士団の面々は肉体的にも精神的にもその状態となりつつあった。未だにそのマイナス点に彼女が気が付かない理由、それは才能ある彼女はこの過酷なトレーニングにより成果を見事に出してしまったからだ。


 だからローズは盲目的に信じ続けてしまう。心を鬼にして血反吐を吐く程に鍛え続ければ最終的には結果が付いてきて実を結んでくれると。

 だが残念ながら彼女のそんな一方的な願いなど部下達の心には届いていない。むしろ彼等の心は徐々に離れていた。



 ◇◇◇



 王宮内の〝謁見の間〟に1人の女性が従者である騎士を引き連れてやって来ていた。

 その女性は煌びやかなドレスを身に纏い、まるで彫刻のような美しい顔には自信と美しさ、そして優雅さが満ち溢れていた。

 その女性はどこか色気漂う様な笑みと共に眼前の玉座に座る〝自分の父〟に対して頭を下げる。


 「お父様、ただいまエビル王国より戻ってまいりました」


 「ああ長期の出国ご苦労だったなアビシャスよ」


 このライト王国の王であるエスールに対して首を下げている女性はこの国の第一王女、アビシャス・ルイ・ライトだった。

 

 「エビル王国との外交交渉も別段問題なく終了しました。今後もあの国とは良好な関係を維持できるでしょう」


 「そうか……すまないなアビシャスよ。本来なら国の王である私が出向くべきだと言うのに……」


 「いえ、お父様は国内の内政問題で現在もご苦労なさっているでしょう。それに最近では闇ギルドを模倣した下賤な輩が徒党を組んでこの国の秩序を乱しているとお聞きしました。有象無象の対処にも追われているそうで……ですのでせめて国外の問題は基本は私にお任せください。それに私も微力ながらこの国に尽力できる事が嬉しいのです」


 そう言いながらアビシャスは満面の笑みを父へと向ける。その表情はとても美しく、王の護衛の為に謁見の間で控えて居た男性騎士達の心を魅了する。

 そんな下心を隠し切れない男性騎士達をアビンの少し後方で控えて居る《剣聖》クワァイツ・ギンニールは内心で失笑する。


 「(全く……男と言う生き物はこれだから……)」


 「それでは私はこれで失礼させてもらいます。いくわよクワァイツ」


 「はいアビシャス様。それでは国王様」


 謁見の間を退出したと同時にアビシャスの表情からは先程までの笑顔が一瞬で消えた。その顔はまるでお面の様な能面と化しており一切の感情が読み取れない。

 そんな彼女の後方を歩いているクワァイツはクスクスと笑いながらアビシャスへと話し掛けて来た。


 「ほんっとう……どこまでもおめでたい親バカですね〝アイツ〟は」


 クワァイツの口から飛び出て来た言葉は無礼などと言う次元を遥かに超越していた。この国の王に対して〝バカ〟などと言う暴言など許される事ではない。ましてやその実の娘、第一王女の前でその言葉を吐くなど一歩間違えれば極刑にされてもおかしくないだろう。

 だが自分の父でありこの国の王を侮蔑されたにも関わらずアビシャスの顔には憤怒の怒りも湧かせる事はなかった。それどころか能面の様に貼り付いていた顔が醜く歪んだ。


 「そう言うものじゃないわよクワァイツ。だって……そのおかげであの木偶は私に絶対の信頼を置いてくれているのだから」


 そう言いながら三日月の様な歪で大きな笑みをくしゃぁっと口元に描いた。


 「いづれこの国は私が統治してみせる。でもまだ奪い取るには時期尚早……厄介なエルフの国との根深い問題もある。どうせならこの国を治める前に面倒な因縁は全てアレに片付けてもらわないと。奪うならその後でも簡単に出来る事」


 アビシャスがそう言いながら今も謁見の間で玉座に座っている父に対して舌を出す。


 「お前みたいな老いぼれに玉座は似合わねーんだよ。いづれその椅子はこのアビシャス様が分捕ってあ・げ・る♡ 無知で無能なお父様」



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