過去編 第三騎士団の《剣聖》
この話からローズについての過去が語られます。作者としては意外と好きなキャラの1人なのでキッチリ彼女を物語の中で語ろうと思います。それと書籍、コミカライズの作者と発売時期ですが凡そ目途が立ちました。(書籍のイラストレーター様はもう決定しています) 今後は活動報告で進捗を話して行こうと思います。
ライト王国には3人の《剣聖》の称号を持つ王国三大騎士が存在する。
1人目は王国第一騎士団を率いる男性騎士団長のニュー・シンジン。
2人目は王国第二騎士団を率いる女性騎士団長のクワァイツ・ギンニール。
3人目が王国第三騎士団を率いる女性騎士団長のローズ・ミーティア。
この3名は〝王国三大騎士〟と呼ばれライト王国の最高戦力であり、王族に仕える他の多くの騎士達とは比較にならない次元の戦闘力を誇る。しかし天賦の才を持つ者が必ずしも人格まで優れているとは限らなかった。
例えば第一師団の団長であるニュー・シンジンは自分の下についている部下達に対して期待などしていない。彼は決して部下に頼らない、自分の下についている騎士団連中などただの〝消耗品〟と見ている冷酷な面がある。
次に第二師団を纏めているクワァイツ・ギンニールはニュー・シンジンと比べれば自分の部下の騎士達に思いやりがあるようにも見える。しかし彼女はあくまで自分に従順な部下のみに微笑みを向ける性質であり、他の騎士達には直属の騎士達に送るその慈愛を与えはしない。
そして最後の《剣聖》ローズ・ミーティア、彼女はとても正義感が強く騎士団長としての誇りと王族に対する厚い忠誠心を兼ね備えている。しかし廉直な彼女にも〝欠点〟と言えるべき点は存在する。
その欠点とは自分の部下に対して向ける過剰な厳しさにあった。
「反応速度が遅い!」
「うぐっ!?」
「そんな子供の棒振りで敵を切り伏せられるか!」
「あうっ!!」
騎士達が日々修練を積む修練場では騎士団長であるローズが自分の部下達に稽古を付けていた。
指導を行っているローズ独りに対して10を超える人数の部下達が一度に木刀を手にローズへと斬りかかる。だが部下達が息次ぐ間も無いほどに振るい続ける斬撃をローズは全ていなし、更には的確に隙を見つけてはカウンターを叩き入れて行く。
そして最後に立っている1人の部下の体を木刀ごと弾き飛ばし修練場で立っているのはローズだけとなった。
「貴様等は……やる気があるのか!!」
自分の眼前で疲労から膝をついて呼吸を乱している部下達の脆弱ぶりにローズは握りしめていた木刀を苛立たし気に地面に叩きつけた。
魔力を籠めた木刀はへし折れる事なく地面の石岩を抉り地面にめり込む。怒声と共に人外じみた芸当を見せるローズに部下達の顔色は疲労と緊張から青くなる。
「仮にもこの国の王や民を護る存在がそんな脆弱でどうする! 襲い来る敵は貴様等の弱さなど考慮などはせんのだぞ!」
「す、すいません……」
怒号振りまくローズの威圧に部下の1人が反射的に謝罪してしまう。だが覇気のないその声色がまた彼女の神経に触った。
「負い目があるのならば全員訓練を延長だ! 今から素振り千本を行え! 惰弱な心からまずは鍛え直せ!」
今しがた《剣聖》による鬼の指導を受けたばかりだと言うのに休む間もなく出鱈目な数の素振りを要求されて部下達の顔には更に苦痛の色が濃くなる。しかしここで反論でもしようものなら更に重いペナルティが背負わされる事が分かり切っている為、部下達は疲労の蓄積している体に鞭を打ち素振りを始める。
それからローズの監視の元、ノルマの千本を終えた部下達はその場で大の字となって倒れて行く。
「よし、今日の訓練はここまでとしよう。明日に備えて各自休息を取るように」
それだけ言うとローズはとくに労いの言葉を掛ける事なくそのまま修練場を後にした。
残された部下達は自分達の鬼上司が完全に居なくなった事を見計らうと口々に不満を吐露し出す。
「クソッ、いくらなんでも厳し過ぎるだろ」
「だよな、そろそろ俺もメンタルがヤバい事になってきてるんだけど……」
「わたし……もう脱退しようかな……」
王国を護る騎士として日々の鍛錬を行う事に文句はない。しかしこの第三騎士団の鍛錬の量はハッキリ言って過剰すぎる。他の二つの騎士団と比べてもどう考えても倍以上の鍛錬は積んでいるのだ。素直に胸の内を言うのであればこの場の全員がローズの指導にはもう付いて行けないと見切りをつけ始めていた。
「このままあの人の下に居続けるとマジで頭がおかしくなりそうだぜ……」
「真面目な隊長だって事は理解できるんだけどね……」
この騎士団の騎士達はローズが誠実な人物だと言う事は理解は出来ている。だが彼女は部下である自分達に対しても同じ高見に立つ事を強引に目指そうとさせる。隊長であるローズはハッキリ言って〝天才〟の部類だ。だが当の本人はその事を自覚せず『努力をすれば皆が自分に追いつく』と誤認している。
今日のトレーニングでもそうだ。ローズは自分達よりも更に過酷な訓練を日々行っている。最後の素振り千本の時も彼女だけ部下達を叱咤しつつ倍の数を楽々と消化していた。
だが人間、誰しもが彼女のような超人となれる訳ではない。にも関わらず自分達の心境などお構いなしに血反吐を吐かんばかりの特訓の日々。彼女の部下達は独り先に進み続けるローズと足並みを揃える事どころか、彼女の背中を追い掛ける事すら億劫となり始めていた。
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