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《剣聖》のスープ


 エルフの国を目指しライト王国から出発したムゲン達一行を乗せた2台の馬車は道中特に問題も無く順調に目的地まで移動を続けていた。

 今回のエルフの国までの出立に選ばれたメンバーは合計で7人、その中の2人は《剣聖》であるローズからの依頼を受けた【黒の救世主】のムゲンとソルであり、残りの5名が《剣聖》ローズ、そして彼女が率いる第三騎士団の騎士達だ。


 ちなみに2台の馬車に乗り込んでいる乗員の振り分けはこのようになっている。先頭の馬車にはムゲン、ソル、ローズ、であり後方の馬車にはローズの部下達が乗っている。


 「大分空模様が黒ずんで来たな。今日はそろそろこの辺りで停車させ野営の準備でも始めた方がいいだろう」


 御者席の窓から見える外の日暮れの景色を眺めていたローズがそう告げる。

 目的地であるエルフの国までの道のりはまだ遠い。それ故にムゲン達にも出発前から事前に日が沈んだ頃には馬車を停め野営にて一晩を明かす事を通達している。


 御者に馬車を停車させると手際よくローズは後方の馬車で控えて居た部下達を扇動して野営の準備に取り掛かる。

 ムゲンとソルの二人もその様子を黙って見ているだけではなく手伝いに加わった。


 「すまないなムゲン殿とソル殿。このような雑務を手伝わせて」


 「何もせずぼーっとしている方が気まずいさ。それから畏まらずムゲンと呼び捨ててくれて構わないぞ」


 「それなら私も気軽にソルと呼んでくれ。正直に言えば『ソル殿』と呼ばれるのはむず痒かったからな」


 「ふふ、そうか。では今後はそのように呼ばせてもらおうかな」


 このような軽口を言い合いつつ寝床の用意を終え、それが終わると次に食事の用意に取り掛かる。

 その際に意外だったのは食事の用意に関してはローズが独りで行っていたと言う事だった。しかもかなり手際も良くまるで本物の料理人のような手腕だった。

 しばらくすると周囲に空腹をさらに刺激する美味そうな匂いが充満していった。


 「は~いい匂い。ローズ隊長の料理はメチャクチャ美味いからお二人共期待していてくださいよ」


 何故か部下の1人が誇らしげにムゲンとソルにそう言って来た。


 「何で料理しているローズ本人じゃなくて見ているあんたが得意げにしてるんだよ」


 まさにその通りの指摘をビシッと入れるソル。

 普通に考えれば中々に違和感のある光景である。隊長1人に食事を用意させ部下達は見ているだけと言うこの構図、普通ならば逆だと思うのだが……。

 そんな事を考えているとまるでムゲンの考えを見透かしたのかと勘繰るタイミングでローズが口を開く。


 「ああ気にしないでくれ。こう見えても料理をするのは好きな方でな、それに私の部隊の者達はお世辞にも料理が下手だ。美味な料理を提供できる腕を持ち合わせていない」


 「そりゃそうですよ。俺達騎士は基本は剣を振るう事しか頭にない連中ですからね。現に以前の長期遠征の時の野営で俺達が作った料理のせいで翌日にその料理に口を付けたやつの半分が腹を壊しましたから」


 男性部下がそう言うとその時に一緒に遠征に出ていた他の騎士が当時の腹痛地獄を思い返し苦笑いしていた。

 そんな話をしている間に料理を終えたローズが器に具材をふんだんに入れたスープをよそって行く。


 「さっ、完成だ。皿に盛ったから配って行ってくれ」


 出来上がったスープを用意していた器に分配するとそれを部下に配らせる。

 ローズの部下に渡された器の中には温かな湯気と食欲を刺激する香りを放つスープ、そしてその中には一定量に切り分けられた野菜や肉が沈んでいる。


 「いい匂いだなぁ……あむっ……ウマッ!!」


 温かなスープを具材と共に口に放り込むと同時にソルの口から反射的に『美味い』と称賛の声が飛び出た。

 ムゲンも続けてスープを啜ると思わず小さな声で『うまっ』と素直に言葉として漏れ出ていた。


 「お世辞を抜きにしても本当に美味いな。冗談抜きで一般の飲食店でも通用する味なんじゃないか?」


 ちなみに真っ先に口を付けたソルを見てみると一瞬で完食しており鍋からお代わりをよそっていた。


 「流石に言い過ぎだと思うがそう言ってくれると作った甲斐もあると言うものだな。ただこのスープ……実はアセリア様から教わった味なんだ……」


 「アセリア姫様から?」


 まさかの人物の名を聞き思わずムゲンが怪訝な表情となる。別段位の高い王族や貴族には料理が出来ないなどと言う偏見を持っているつもりは無い。しかし王宮内には大勢の使用人だっており食事の用意などは彼女達の仕事だろう。それなのに王族がわざわざ料理分野に対して興味を持つなど、ましてや包丁を握り料理を行うイメージが浮かびにくかった。

 ムゲンが何を考えているのか表情から凡そ把握したローズが口を開く。

  

 「王女様が料理と言うのも連想しづらいだろう。ただあの方はとても好奇心が旺盛な方だ。それは君も良く知っていると思う」


 その点については即座に頷ける。何しろ側近の彼女を連れ出し国王に無断で温泉街へと観光に出向くほどの行動力を2年前に目の当たりにしているのだから。


 「ほんとうに……あの方には何度も心労を掛けられたものだ……」


 一口スープを運ぶとローズはすっかりと暗くなった夜空を眺める。

 夜の天を彩る星々を遠い目で眺めながら彼女はふと過去の思い出を振り返っていた。


 それはまだローズがアセリアの側近となる以前の記憶……。



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