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蘇生


 コナミにより致命の一撃を受けたラキルは冷たい川の水に流されながらもまだ微かに意識があった。


 嫌だ……こんな……こんな所でまだ僕は死ねないんだ……!!


 必死に川から抜け出そうとするラキルだが体はまるで言う事を効いてはくれない。それどころか次第に意識すら薄れていく。


 チクショウ……やっと【ユーズフル】の手掛かりが掴めそうだと思ったのに……。


 自分の持つ《幸運》のスキルは目的の組織と自身を引き合わせてくれた。だが肝心の自分にそれを捕らえるだけの力が欠如していた。

 水中で呼吸も満足に出来ず苦しみながらラキルの頭の中ではセシルから言われた言葉が何度も反芻していた。

 

 ――『今のあなたのレベルでは〝足手纏い〟でしかないのよ』


 くそ……【ユーズフル】の尻尾を掴むチャンスがあんな間近にあったのに僕は……これじゃあセシルさんから言われた通り〝足手纏い〟じゃないか……。


 己の非力さを呪いながらラキルの意識はそこでブツンと途切れてしまう。そのまま彼は無気力に水流をプカプカと浮かび流れて行ってしまったのだった。


 そこからどこまで流されただろうか。既に意識の無いラキルは水面の上をただ浮かび続けるだけ。そのまま彼の命の炎は消えてその生命活動は停止するはず……だった……。


 だが彼の持つ幸運を引き寄せるスキルは今際の際の淵に居た彼に救いの手を差し伸べてくれた。


 水面の上を力なく浮かんでいたラキルの体が突如として水面から何者かによって引き上げられた。

 

 「ねえ生きている坊や? もしまだ生きているならこの村で何があったのかお姉さんに教えて欲しいんだけど?」


 水の中から引き出されたラキルに話しかける人物は黒いローブを身に纏っていた。だがその艶めかしい声質から成人している女性だと言う事が予測される。

 女性はラキルの体を何度かガクガクと揺らすが彼は無言のままだ、と言うよりも意識を失っている。


 「……心臓は動いているわね」


 黒ローブの女性は心臓部に耳を当てて鼓動音の正常を確認し、まだ彼の息がある事を理解する。


 「もう…あまり手間を掛けないでよ坊や」


 その人物は億劫そうに呟くと近くの川沿いの土手道にラキルを放り捨てるように投げて仰向けに寝かせる。そして思いっきりその腹部を踏みつけた。


 「ごぶっ!」


 凄まじい圧迫感から気を失っていたラキルが口から苦悶の声を吐き出す。それと同時に大量の水を噴水の様に吹き出し咳込む。


 「ゴホッゴホッ! オエッ!?」


 「おはよう。目覚めは最悪かしら?」


 「だ……誰……?」


 大量の水を吐き出し意識が再覚醒したラキルであるがコナミとの戦闘の傷は深く未だ意識は朦朧としていた。

 ぼやける視界の中に映り込む黒ローブの人物を見上げながら何者なのかを問う。


 「色々と訊きたい事はあるだろうけどまずは自分の傷を心配した方がいいわよ? このまま放置しておけば坊や死ぬわよ?」


 その女性の言う通りコナミとの戦闘でラキルの肉体は限界だった。現に息を吹き返しはしたが蓄積しているダメージの大きさからドンドンと顔色が悪くなっている。折角目覚めたラキルの意識がまたしても闇の中に沈んで行く。

 再び気を失う前に彼は自分を覗き込む女性の腕を掴むと絞り出すように口を開き言葉を紡いだ。

 

 「まだ……僕は……セシルさんに恩返しもできて……」


 「セシルって誰のこと? 期待しているところ悪いんだけど私は《剣士》だから回復魔法の類は持ち合わせていないのよ……てっ、もう聴こえていないかしら?」


 またしても意識を失ったラキル、だが彼は意識を失ってもその手はガッシリと女性の腕を掴んだままだった。まるで自分はまだ死ねないんだと訴えるかのように。

 

 「……はぁ、流石に見殺しにできないわね」


 自分に救いを求めるかのように縋るボロボロのラキルの姿を前に女性は小さく溜息を吐くと彼を担ぎ上げる。

 

 「まったく、この村が闇ギルド【ユーズフル】に関与していると言う情報を元に足を運んだと言うのに肝心の村人達は全滅しているし、挙句こんなお荷物を運ぶことになるしとんだ厄日だわ」


 この女性の正体、それはある〝闇ギルド〟に所属している1人の《剣士》だった。

 彼女が上から与えられた任務、それはこの村が巨大闇ギルド【ユーズフル】と取引関係を結んでいる可能性があり、もしも繋がりがあるのならば【ユーズフル】の情報を収集する事だった。

 しかし村に足を運んだ時はもう手遅れ、村人は全員殺害されており証人の確保は不可能。そしてこの殺戮が【ユーズフル】の仕業ならば痕跡を残す間抜けも晒さないだろう。


 だけどこの坊やを見つける事が出来たのは唯一の救いね。彼なら何か知っているかもしれない……。


 偶然にも自分が救助したこの少年、肉体の無数の傷跡から何者かとの戦闘を繰り広げた事は明らかだろう。


 「とりあえず一度私達のアジトまで同行願うわよ。ここまで出向いて私も空手では帰れないの」


 自分の背中で意識を失っているラキルを担ぎながら女性はこの村を後にするのだった。


 そしてこれより数日後、冒険者ギルド【リターン】は正式にラキル・ハギネスを死亡扱いとしその名をギルド名簿から抹消した。



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