表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

250/297

因果


 突如現れた謎の襲撃者に混乱しつつも戦闘を始めるラキルであったが、ここで襲撃者の口から出て来た組織名は聞き逃す事などできない超ド級のものだった。


 「お前…今何て言った? お前はあの【ユーズフル】の一員なのか?」


 「おやぁ、もしかして私達の事をよくご存じで? とは言え〝闇ギルド〟の中ではかなり大規模な組織になりつつあるからおかしくもないかな?」


 おどけた口調で眼前に立つ少女にラキルは内心でガッツポーズを取っていた。

 この少女こそ自分の仲間であるセシルが長年求めていた【ユーズフル】の一員ならばここで捕らえる事が出来れば間違いなく有益な情報が得られるはずだ。


 「(今だけは自分の持つ《幸福》のスキルに感謝だ。ここでコイツから【ユーズフル】の組織に繋がる情報を抜き取ってやる!!)」


 自身の幸運を喜ぶラキルだが同時に疑問も湧いて出て来る。どうしてこんな辺鄙な村に大規模組織である闇ギルドの人間が攻め込んで来たのか? それに先程この女は〝復讐〟とも言っていた。この村と【ユーズフル】と一体どんな繋がりがあったと言うのだ?


 「……どうしてこの村を襲った? こんな田舎の村と闇ギルドにどんな繋がりがあったと言うんだ?」


 とにかく出来るだけこの女から情報を引き出そうと会話を持ちかけるラキルに対しての返答は少女の小馬鹿にするような嘲笑だった。


 「命のやり取りの最中だと言うのに露骨すぎる質問。もしかして会話から私達の組織の情報を引き出そうと言う算段かな?」


 まるで心を読まれたのかと思う程にズバリと言い当てられ反射的に息をのんでしまう。その反応で図星と悟った彼女だがあえてこの村を襲った理由を彼女は話す事とした。


 この平穏そうな村がどれだけ闇を孕んでいたのかを教えてやる為に……。


 「あなたはどうやらこの村に仕事の依頼でも受けた冒険者のようだけど……この村をどう思った?」


 「どう…思った……?」


 「とても平穏で、そして村人達は穏やかで優しいと思った?」


 投げつけられた質問の意味がよく分からなかった。その質問に一体何の意味があると言うのだ? 確かにゴブリン退治に向かう前に話した感じでは村の人達は誰しも穏やかで人情的だとは思ったが、だから何だと言うのだ。

 だが次に彼女の口から放たれた言葉にラキルは度肝を抜かれる事となる。


 「何も知らない無知な子に教えてあげる。この村はね……私達【ユーズフル】と契約を結んでいたのよ。人身売買と言う人の道から外れた取引を」


 「な…何を言っているんだ?」


 そんな言葉、とてもじゃないが信用など出来るわけがない。仕事前に話した彼らは皆がとても人の良さそうな〝善人〟だった。そんな金と人間の命を交換する鬼畜だなんて信じられない。

 

 「その顔を見る限りあなたにとってこの村の連中はさぞ優しそうに映ったんでしょうね。何も知らないとは幸せよねぇ」


 そう言うと彼女はこの村の信じがたい過去を流暢に語り出す。


 今でこそ平穏なこの村、だが今より約十年前まではこの地は人心を持たぬ者達で溢れていた。

 かつてこの村は長らく続いた異常気象が原因で作物が不足したいた時期があった。小さな村と言う事もあり作物が育たなければ生活が苦しくなるのも必然、次第にこの村は困窮していき若い男や女は稼ぐために村を出てしまい残った村人は老人と中年の男女ぐらい、いよいよ死を待つしかないと諦めていた。

 そんな中で高齢の村人の1人が遂に人間としての道を踏み外す。


 ――健康で小さな子供は高く売れるらしい。


 勿論通常であればその行為が人道に反していると言う事は重々承知だ。だが異常気象で作物も育たず、更には働き手の若い連中も次々と都会を目指して村を出る。もしこのまま若者達が完全に村を出ればこの村はもう滅びの一途を辿る事は確実だ。


 そしてこの村の老人たちは悪魔に魂を売った。この村の子供達を3人も闇ギルドに売り払ってしまったのだ。しかもショッキングなのは実の親達も我が子を売りに出す事を良しとしてしまったのだ。自らが生き残る為に我が子を見捨てたのだ。極限の困窮は時として人間から常識をも奪い取る。

 これ以降から作物が不作の年にはこの村では子供を闇ギルドに売りに出す行為を繰り返して来た。一度道を踏み外してしまうと転げ落ち続ける事は村の者達にとって簡単だったのだ。


 「この村ではそれなりに歳喰っている中年の男女の間でも子作りを定期的に行うようになったんだよ。いざと言う時の為に村が生き残る為の〝生贄〟としてね」


 そんな……あんな人の良さそうな村の人達が子供を売っていた? あんなニコニコと笑っていた人間がそんな非道を!?


 「ただねぇ、ここ数年で村の気候は安定して大豊作となったらしいんだ。それにより村も少しずつ栄えて行ってこの村はもう危険な橋を渡る事を止めた。つまり契約を結んでいた【ユーズフル】に対してもう人身売買に貢献できないって言ったんだ」


 その話を聞いてラキルは正直胸糞が悪くて仕方が無かった。


 何だそれ、散々村の何も知らない子供を売り飛ばしていながら安定したらもう自分達は関係ありませんってことかよ? そんな…そんな身勝手な生き方があるか!?


 少女から語られる真実に下唇を噛み締めると少女が怪しく嗤う。


 「今更真っ当に生きようだなんて組織が許す訳もない。だから報復としてこの村を消すように私が命じられたんだよ。でも…ふふっ、私としてはとても有難い事だよ。因果応報とはこのこと、この村が滅んだのは自業自得だね」


 「それは…どういう事だ?」


 「ふふ、意外と察しが悪いんだねキミ」


 そう言うと少女は瞳を一気に血走らせながら言った。


 「私はかつてこの村で生活をしていたんだよ。そう…今売り飛ばされた子供の1人がこの私なんだぁ」


 この村が滅びた理由、それは過去の悪行が理由だったのだ。因果は巡り巡ってそして最後に〝皆殺し〟と言う名の報復が下された。つまりこの村はどのみち滅びゆく定めだったと言う事だったのだ。



もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ