ホルンのやり直し冒険譚 1
今回は【真紅の剣】の中で唯一改心をしたホルンのその後の物語となります。
かつてファラストの町にある冒険者ギルドでAランクパーティーとして名を馳せていた【真紅の剣】、その一員であった《聖職者》のホルン・ヒュール。しかし【真紅の剣】は仲間であるムゲン・クロイヤを理不尽な理由から追放してしまう。その結果、彼女の所属しているパーティーはギルド内で次第に落ちぶれてしまった。本当に有能なのはクビを切られたムゲンであり真の無能はホルン達だったからだ。
ムゲンに続いて【真紅の剣】を抜けたホルン・ヒュールは現在はソロで冒険者活動をしていた。
「さて…次はこの依頼を受けようかしら」
彼女が掲示板から選んだ依頼内容は薬草の採取と言うかなり難易度の易しい簡単なもの。それはとても元Aランクパーティーに所属していた冒険者の引き受ける仕事の種類ではなかった。薬草の採取など基本的には冒険者になりたての新人が手始めに選ぶ仕事内容だ。とは言え今のホルンの冒険者ランクはCランクまで降格されている。しかし最低のEランクでもない限りは低級モンスターの討伐依頼くらいはこなせるだろう。ただしそれは彼女がパーティーを組んでいればの話だ。
初心からやり直してみると決起したものの現実的な話、ホルンが冒険者稼業を続けていくのはかなりの苦難の道と言えるだろう。
彼女がかつて所属していた【真紅の剣】はここ最近ではかなり悪い評判が出回っている。当然だがそのパーティーに所属していたホルンにもいくつもの悪評が冒険者の間では出回っている。いくら【真紅の剣】を抜けたからと言って彼女の悪い噂がピタリと止まるわけではない。
「おいあの女って確か【真紅の剣】に居た《聖職者》だよな?」
「また薬草の採取なんて低難易度依頼を受けようとしてるぜ? 元Aランクが嘆かわしいねぇ」
ギルド内を歩けばこのような陰口が彼女の耳に入ってくる。しかもそれを言う者達はわざとホルンに聴こえるような大きさで話すのだ。
やっぱり今更冒険者をやり直そうなんて虫が良すぎる話かしらね?
周囲の冒険者から馬鹿にされる事は仕方がない。今まで【真紅の剣】を支えてきた恩人を罵倒と共に追い出した鬼畜行為を働いた自分には当たり前の罰だと甘んじて受けるつもりではある。だが現実問題こんな低難易度ばかりの依頼では生計を立てる事も困難なのだ。依頼の難易度が低ければ手にする報酬もそれに比例して低くなる。当たり前の道理でありそうなれば生活も困窮する。事実今の彼女は【真紅の剣】時代の値の張る高値の宿を出て今は古びて町中でももっとも宿泊料金も低い宿に身を置いている。
手元に残っている身銭を確認すると残りは金貨2枚と銀貨1枚、それから銅貨が少々だ。このままではすぐに満足に生活すらできなくなるだろう。今でさえ出費を抑えて質素な生活を送っていると言うのに。
こんな事になるなら【真紅の剣】時代に稼いでいた報酬をもっと貯めておくんだったわね。今更こんな愚痴を言ったところで後の祭りではあるけど。
それにあの頃の自分は失敗する未来など思い描く頭はなかっただろう。ムゲンのお陰で自分は何も苦労せず順調すぎるほどに上手くやり続けられた。だからパーティーが落ちぶれるとか金に困るなんて悩みは頭の片隅にすら無かった。
「はあ……本気で冒険者を引退してこの先の身の振り方を考えてみようかしら」
そう言えばマルクとメグの二人は今頃どうしているのだろうか?
風の噂によればメグはパーティーの有り金を全て持ち逃げしてこの町、そしてライト王国から外へと出てしまったらしい。そして最後に抜け殻同然の【真紅の剣】を名乗り続けていたマルクは宿すらも追い出されてメグ同様にどこで何をしているのか分からない。ここ最近ではギルドですら顔を見なくなったので彼も町を出たのか、或いは路上生活でも送っているか。
「つくづくムゲンに任せきりだったのね。彼をクビにした時点でこうなる未来は避けようがなかったのかしらね」
一応はCランクの自分ではあるがモンスター退治を一人で行える自信を持てずこんな死のリスクなど基本皆無な依頼ばかり選び続ける。それに対してムゲンはソロ時代から単身でいくつもの凶暴なモンスターを退治し続けてまともな生活を維持していた。そう考えるあの頃の自分の目はつくづく曇っていた。いざ彼と同じソロの立場に立たされると本当に無能なのが自分である事を自覚させられる。
結局のところ私は魔力は多くとも冒険者の素質はなかったと言う事かしら。
周りを見渡せばいくつものパーティーメンバーが楽し気な会話をしている。
ムゲンが加入したばかりの自分達もあんな風に楽し気に笑いあえていた。だがもうあの頃には戻れない。そして口先だけの【真紅の剣】の一員だった自分とは誰もパーティーを組んでくれない。
そこまで思考が行き着くと彼女は手に持っていた依頼書をまた掲示板に貼りなおしてギルドを出ようとする。
あなたは言っていたわねムゲン。もっと自分に自信を持てと。でも私はどうやら無理だったようだわ……。
自分をもう一度初心から奮い立たせてくれたムゲンにそう心の中で告げてギルドを出ようとする。
だがそんな彼女を引き留める人物が居た。
「あ、あのさ…ちょっと待ってもらっていいか?」
振り返るとそこには童顔の少年がホルンの肩に手を乗せて引き留めていた。
「その…もしよければ俺とパーティーを組んでくれないか?」
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