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想定外


 「これで、ラストだぁ!!」


 「ギギャアッ!!」


 セシルが闇ギルド壊滅に動いている頃、置いてけぼりとなったラキルはC難易度のゴブリン退治に邁進していた。

 ライト王国を出て半日程度の距離にある村からの依頼、初めての単独でのモンスター退治の仕事には僅かばかりの緊張も確かにあった。しかし所詮仕事の難易度はCであり、まだセシルには遠く及ばないとは言えラキルの現状の実力ならば単機でもクリアする事は不可能ではない。事実ラキルは襲い掛かるゴブリンを次々と剣で切り裂いていき、今しがた最後の1体を一刀両断してみせた。


 「はぁ…はぁ…ははっ、何だよ。やっぱり僕だって強くなっているじゃないか」


 取り立てて目立つ外傷もなく仕事をこなしてみせたラキルの気分は一気に上機嫌となっていた。そして同時にセシルの『足手纏い』と言う言葉を思い返してだんだんと頭に来てしまう。


 僕だってその気になればこれぐらいは出来るんだ。それなのにセシルさんは今の僕の実力を確かめもせず足手纏いと扱って……。


 この時のラキルは悪く言えば調子に乗っていたと言えるだろう。

 確かに彼はゴブリンの大軍をたった独りで見事に倒し切って見せた。だがゴブリンはモンスターとして下級クラス、この依頼の難易度はCだったのも討伐する対象数が多かったからであってもう少し数が少なければDやEとかなりランク下の依頼となっていただろう。それに彼は自らの《幸運》のスキルを発動して戦っていた。そのおかげでこの戦闘で彼にとっての〝幸運〟が重なり大した負傷もなく勝ちを拾えたに過ぎない。もしもスキルが無ければ最低でも深い傷の1つや2つは負っていただろう。


 とは言えラキルは見事にゴブリンを全滅させる事には成功した。

 仕事完遂の報告を依頼主である村の住人達に告げようとゴブリンの巣から出る。そして空となった巣を出ると急いで村の方へとラキルは戻った。


 だが依頼を出した村に戻ると彼は眼前に広がる光景に思わず言葉を失った。


 「何だよこれ……」


 彼に視界に広がるのはまさに地獄絵図だった。何故ならほとんどの民家が荒れ果てて崩れ、そしてこの村の住人達が血に濡れて地面を転がっていたのだ。


 意味が……分からない……どうして村が壊滅しているんだよ……?


 依頼完了の報告に向かうと村が滅んでいた。そんな展開など一体誰が予想できようか?


 「ぼ、僕がゴブリンの巣に向かっている間に何があったんだよ?」


 村近くのゴブリンの巣に向かう前にラキルは一度話を聞くために村の中へと立ち寄った。その時にはこの村はこんな悲惨な有様ではなかった。一体自分が仕事に向かっている間にこの村で何があったと言うんだ?


 予想もしない血みどろの風景に言葉だけでなく思考まで停止していると背後から何者かに声を掛けられた。


 「あっれぇ? まだ生き残りが居たんだぁ」


 それはまるで耳に纏わりつくかのような軽やかだが嫌な声だった。

 ラキルの生存本能は声を発するよりも先に反射的に鞘から剣を抜くとそのまま勢いよく背後へと斬りかかっていた。

 

 自身の背後に全力で剣を振るった直後に凄まじい金切り音が辺りへと響く。その金切り音の理由はいつからか背後に立っていた謎の少女が振るった凶刃とラキルの剣がぶつかり合ったからだ。


 「おや、受け止められちゃった」


 「ぐっ、何だぁ!?」


 もしも直感を信じず剣を抜かず普通に振り向いていたら今頃は胴体が上下に分離されていただろう。

 鍔迫り合いの状態でラキルは突如として襲って来た相手を観察する。


 見た感じ自分と同年代位の女の子だった。空色の切り揃えた短髪、そして特徴的なのは両耳に小さな鈴が付けられている。そして剣を交えながら自分を見つめるその瞳には一切の光が宿っていなかった。

 必死な形相で剣を受け止めるラキルとは対照的にその少女はおっとりとした口調で言葉を漏らす。


 「う~ん、君みたいな同年代の男の子は知らないなぁ。ねえ君、この村の住人じゃないでしょ?」


 「それが…なんだぁ……!?」


 刃を押し込みながらまるで友人の様に語り掛けて来る少女に対してラキルはそう返す事しか出来なかった。何しろこの少女の剣圧がハッキリ言って凄まじすぎるのだ。涼しい顔をして剣を押し込んでいるがまるで万力の様だ。余裕を浮かべる少女とは正反対にラキルは全身を魔力で強化し全力を入れる事でようやく拮抗状態を維持している。

 汗だくになりながら剣を受け止めるラキルの様子を見て少女は吹き出しながら小馬鹿にする。


 「あはは、そんな汗をダラダラ垂らして女の子の一撃を受け止めるなんて力が無いねぇ。それならもっと剣圧を上げるとどうなるの?」


 そう言うと同時に少女は腕に魔力を流し腕力の強化を施す。その次の瞬間には圧倒的な力の差でラキルはその力を押し込めず一気に後退してしまう。


 「ぐっ、こ、のぉ……!!」


 「ふーんそれなりに剣を使えるみたいだけど取るに足らないかなぁ」


 そうつまらなさそうに吐き捨てる少女はまるで閃光の様な蹴りを腹部に突き刺しラキルを弾き飛ばす。

 

 「がっ、ぱぁッ!?」


 腹部の衝撃で肺の空気が一気に抜け視界がふらつく。しかも蹴りの衝撃をまともに受けて何度も地面にバウンドする羽目となった。

 まるでボールの様に転がっていくラキルの無様な姿に少女はケラケラ笑う。その完全に人を見下す笑い声も癪に障るが次に彼女の口から出て来た言葉はラキルから正常な思考を奪った。


 「この村に〝復讐〟に来たらこんな面白剣士と出会えるとはねぇ。まあ【ユーズフル】で鍛えた私の敵じゃないけどねぇ」


 少女の口からあっさりと出て来たその闇ギルドの名前は彼の仲間であるセシル・フレウラにとっての因縁深き名だったのだから。



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