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破壊


 闇の住人と化したダストはもはや【戦鬼】を纏め上げていた頃のひたむきさは消え、増長した悪意に飲まれてしまった。取り返しのつかないほどに悪に染まった彼はかつての仲間のマホジョの訃報に腹を抱えて嗤い続けていた。


 「ははははは……あん?」


 下卑た笑い声を振りまいていたダストだが対面に居るセシルの雰囲気が変わっている事を察知して一丁前に構えを取る。


 「随分と怖い顔になったじゃねぇか。だがな、今回ばかりは相手が悪かったな」


 まるで氷のような冷酷な空気を纏うセシルを前にしてもダストは余裕だった。その理由は彼の装着している左腕の魔道具の義手にあった。

 彼の身に着けているこの魔道具の義手はこの闇ギルドで入手した一品だ。相手の魔法を吸収する機能を持ち本来であれば凄まじい代物と呼べるだろう。だがこの組織が取り扱っているのは安全性を完全に無視した〝粗悪品〟だ。安価で作成されたこの魔道具も一定の魔法を吸収すればオーバーヒートを引き起こしゴミとなる。だがこのギルドに身を置いてから稼いだ金でダストは自らの義手に何度も改良を重ねていた。その結果今の彼の義手は落ちぶれた彼が持つには勿体ないほどの高スペックに仕上がっていた。


 「俺のこの左手は魔法を吸収する。あのカスのマホジョから教えてもらった魔法如き敵じゃねぇんだよ!!」


 先程彼女の魔法を吸収して見せた事で余裕の心が増長しているのかダストは嘲笑と共に自慢の義手を見せびらかす。

 確かに魔法を吸収するこの魔道具は《魔法使い》にとっては中々の天敵だろう。


 だがダストは1つ大きな見落としをしていた。彼女は1人で2つの職を身に宿している。

 そう…彼が魔法は通用しないと見下している対戦相手は《魔法使い》でなく今は《アサシン》なのだ。


 馬鹿笑いを上げるダストに対してセシルは無言のまま一気に距離を詰め終えていた。その動きに一切の足音は無くまるで転移魔法でも使ったかのように一瞬で距離を詰められてしまう。


 「(なっ、コイツいつの間に距離を……!?)」


 驚愕している時には既に彼女の手には1本のナイフが握られていた。今のような魔法の通じない事態を想定して護身用ナイフを数本常に持ち歩ているのだ。

 まさか《魔法使い》がここまで機敏に動くとも思わずダストの反応が僅かに遅れる。だが彼も元々はAランクの冒険者でありギリギリでその凶刃を魔道具の義手で受け止める。


 だがダストはナイフを受け止められると同時に絶叫をその場で上げた。


 「あがあああアアああああッ!?」


 セシルは右手でダストの頸動脈を狙いながら左手のナイフを死角に隠していた。そして注意が右側のナイフに向くと同時にもう片方のナイフを神速の勢いで無防備なダストの膝に突き刺したのだ。

 あまりの激痛にダストは大声を上げて目を絞ってしまう。だがこんなほぼ密着状態で視野を狭める行為など《アサシン》の前では命取り過ぎた。


 次の瞬間にはセシルは両手のナイフをダストの顔面にクロス上に走らせて肉を裂いた。その際に療法の眼球も切り裂いてしまう。


 「ああああああああ!? めぇ、目があぁぁぁ!?」


 「どうやら違法販売業に専念していたせいで戦いの勘が鈍っていたようね。仮にもかつてAランクの《戦士》がこんな一瞬で戦闘不能になるんなんて……」


 自分の足元で切り裂かれた両の眼球を押さえる愚者をセシルは相変わらず冷えた目で見ている。

 久方ぶりの《アサシン》としての顔を見せた彼女にとって魔道具に性能に依存した男など敵ですらなかった。何しろ彼女はただのSランク冒険者ではない。あの【ディアブロ】で生き残り続けた元は裏世界の暗殺者なのだから。


 もう完全なる勝負ありの状況だがセシルは最後の止めを刺そうとせず、それどころか視界の失ったダストの側頭部にハイキックをお見舞いした。

 頭蓋骨の軋む感触を脚に感じながらも更にセシルは淡々と目の前の木偶同然の間抜けに苛烈な暴力を叩きつけて行く。


 「いぐっ、ぎぎゃあ!? や、やべ…ごべぇ!?」


 もはやまともに抵抗すらできないダストはただ一方的に打ちのめされていく。

 普段の《魔法使い》の顔としてのセシルならこんなにも相手をいたぶる行為は行わない。だが今の怒りに飲まれている《アサシン》のセシルはもはや暴走していた。


 「私の恩人を嗤うな。嗤うな! 嗤うな!! 嗤うな!!!」


 「グギャッ、ゴゲッ、オ…ぐ……う……」


 一撃一撃を入れるごとに足に伝わる骨を砕く感触を気にもせずまるで解体作業の様にダストの肉体を破壊していく。やがてダストの口から悲鳴が漏れなくなり、最後は抵抗すらしなくなった。だがそれでもセシルは血走った目でその亡骸をも壊し続けた。

 やがて彼女の前には全身が打撲痕と骨が砕け散った軟体生物の遺体が出来上がる。そこまでやって正気へと戻った。


 「ざまあみろ……」


 両足を初め飛び散った返り血を大量に付着させた《魔法使い》の衣服、その姿はまさに〝魔女〟だった。


 それからまだ怒りの収まらなかった彼女は残りの生き残りや隠れていたボスも決して簡単にはとどめを刺さず徹底的にいたぶりぬいてから葬った。



 

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