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憤怒


 「まさか……あのダスト・オルノなの……」


 セシルは眼前に立つ男の登場に思わず声が震えていた。何故ならこの人物は彼女にとっても間接的とは言え関わりのある相手なのだから。

 驚愕で硬直するセシルとは違いダストの方は首を傾げどうして自分の名を知っているのかを問う。


 「あん? 俺の事を知ってんのか? どこぞのギルドから派遣された冒険者みてぇだがもしかして【ファーミリ】からでも派遣され……おいその帽子は……」


 訝し気に相手を観察していたダストであるがある物を見て思わず瞳がくわっと見開かれた。その視線はセシルの頭部に置いてある〝帽子〟を射抜かんばかりに捉えていた。

 

 「おいテメェの被っているそのダサい帽子は良く見覚えがあるぜ。テメェまさかマホジョの仲間か?」


 そう言いながらセシルを見る彼の瞳には明確な〝怒り〟が表面に現れていた。

 だが怒りを感じているのはセシルも同様であった。まさか自分の憧れであり、そして命の恩人のかつての仲間が闇に堕ちているなど知りたくもなかった。


 「どうして【戦鬼】のリーダーだったあなたがこんな場所に居るの!?」


 それはまだマホジョが存命していた頃、セシルが【ファーミリ】から【リターン】のギルド移籍前の記憶だ。

 セシルが自分が【ディアブロ】のスパイであった真実、そして自らの過去を仲間達に赤裸々に告白したその後、マホジョもまた自分の過去を教えてくれた。それは【不退の歩み】に加入する以前【戦鬼】と言うパーティーに所属していた時の話だ。その話の中で彼女は戦いの中で散ったギーンと言う《剣士》、そしてチームを解散して別れた《戦士》ダストの話もしてくれた。その際にマホジョはかつての仲間達についてこう語っていた。

 

 『あの二人とは色々な仕事をやって来たわ。ギーンは真面目、ダストは少し大雑把な性格だったけどあの二人と一緒に居るのは楽しかったわ』


 マホジョが【不退の歩み】に加入する以前にギーンは戦死、そしてダストは冒険者活動を引退してギルドから姿を消した。仕方のない事だと思いつつも彼女はあの二人の思い出を思い返す度に寂しさを胸に感じる。


 『ダストは冒険者を引退したみたいだけど元仲間としては幸せに暮らしていてほしいわね』


 その後の行方すら分からないかつての仲間をマホジョは心から心配してくれていたのだ。それなのに……それなのに……!


 「もしマホジョが今も生きていたらきっと嘆いていた事ね。自分の元同僚が闇ギルドで金銭を稼いでいたなんて……」


 「……待て今何て言った? 生きていたら…だと…?」


 「ええそうよ。マホジョは……死んだわ」


 本当ならば悪に堕ちた彼に話す義理などないと思った。だがマホジョがもうこの世に居ないのかと自分に確認をするダストの表情はどこか戸惑いが浮かんでいた。その顔を見てセシルはやはりかつての仲間の死に悲しみから動揺を隠しきれないのだと思いマホジョの死を伝えた。それにセシルとしても出来る事なら命の恩人のかつての仲間とは戦いたくないと言う想いもあった。この話を聞き彼が今の自分を見つめなおしてくれるかもしれない、そんな淡い希望を抱いていたが……。


 「ふっ…ふふ………ハハハハハハハッ!!!」


 そんな期待はまるで紙の様に破り捨てられる。


 「そうかそうかあの女は死んだのか! それは俺にとっちゃこの上なく朗報だぜ!」


 かつての仲間の訃報を耳にしたこの男はあろうことか大爆笑をしたのだ。ゲラゲラと嗤いながら手まで叩いて喜ぶその姿にセシルの思考にノイズが走った。


 ドウシテ……オマエハ楽シソウ二笑ッテイルンダ……?


 理解不能と言わんばかりに表情の抜けたセシルの変化など気付かずダストは醜悪な言葉を並べ続ける。


 「あの【ディアブロ】との戦いでギーンは死に、俺様は片腕を失ったって言うのにアイツだけはピンピンしてて不公平だったからな! 五体満足のくせにあの戦いの報酬は山分け、こんな理不尽な事があるか!? しかもその後にすぐ別のパーティーに鞍替えしてまるで俺に対して当て付けの様に楽しそうに冒険者を続けやがって!」


 それはあまりにも醜悪かつ自分勝手な怒りと言えるだろう。

 そもそもギーンの死も、ダストの腕の欠損も【ディアブロ】によって奪われたものだ。怒りの矛先を向けるべき相手がマホジョに向く意味が分からない。それにマホジョは同じチームの痛みを我が身の事の様に胸を痛めていたのだ。【戦鬼】を抜けて【不退の歩み】に移籍した後だって冒険者を引退したダストの身を案じていた。


 それなのにコイツは下らない八つ当たりでマホジョを憎み、あまつさえ彼女の死を嘆くどころか嘲笑いやがった。仮にも同じパーティーに居た〝仲間〟であったにもかかわらず……。


 「もう…いい。言葉で説得しようと考えていた私が愚かだった」


 そう言うと彼女の顔から表情が一気に抜け落ち能面と化す。


 自分がもっとも憧れを抱く《魔法使い》の死を笑うこのクズには罰が必要だ。そう……ただ殺すのではなく圧倒的な〝恐怖〟と言うスパイスを添えて……。


 もうずっと心の内側に潜めていた【ディアブロ】の《アサシン》のセシル・フェロットが永い眠りから目覚めた。眼前のゴミを処分する為に……。



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