驚愕
ギルドからの依頼を受け『トリピスの町』へと辿りついたセシルは早速今回の仕事の依頼主であるこの町の自警団の詰所へと足を運んだ。詰所に居た自警団の人間の話では依頼書に記載されているようにこの町に違法魔道具を作成し売りさばいているギルドがあるらしく、彼等の毒牙はどんどんと露骨になってこの町の住人にも向き始めているそうだ。
ここ最近では質の悪い魔道具が町の中で売買されている現場が増加しているらしい。正しく言うのであれば半ば強引に売りつけられている人間が多く、反抗する者は時として命を奪われる事もあるそうだ。
「我々も必死に奴等の暴挙を止めようとしました。ですがあのギルドは当初よりも規模も膨れもはや我々では抑止力にすらなりません」
この町には優秀な冒険者もおらずもはやその闇ギルドの支配下に置かれていると言っても過言でない状況らしい。
「違法な手段で楽に大金を稼ぐ事に魅了されたのか最初は反発していたこの町の住人からすらも次第にあのギルドに身を置く者も出てきています。このままではこの町は奴らの巣窟と成り果ててしまう……!!」
悔し気に拳を握る震わせる自警団のリーダーに対してセシルは冷静にこう答える。
「心配しなくても今日でそのギルドは壊滅させるわ。そのクズ共のアジトがどこにあるのかだけ教えて頂戴」
「あ、ありがとうございます……」
自分よりも年下の女性に頼る情けなさはあるものの、セシルの余裕な姿に希望を抱いたのかリーダーの男の顔から微かだが緊張が落ちる。
それからセシルはアジトの場所に印をしたこの町の地図を受け取るとすぐにでも現場へと直行しようと詰所を後にする。だが去り行く直前に依頼主の男はある警告を付け加えて来た。
「それとここ最近になってそのギルドに外部から腕の立つ元冒険者が加入したらしいです。どうかお気を付けください」
その報告を耳にしてセシルは思わず内心で溜息を吐いた。
全く…表側の冒険者が金目当てで裏家業をするとは……本当に嫌な時代になったわね……。
このように表の世界の住人が裏に染まる事も珍しくなくなってしまった。そう考えると自分がかつて所属していた【ディアブロ】はある意味で抑止力だったのだと思い知らされる。かと言って【ディアブロ】が存在していた世の中が綺麗だった訳でもない。
こうして考えるとこの世界から〝闇〟を完全に消す事など不可能なのかもしれない。
胸の中の感傷はさておき地図に記されたアジトまでセシルはやって来た。
闇ギルドでありながらそのアジトは堂々と町の中に鎮座していた。一切自分達の存在を秘匿せず、それどころかこうまで包み隠さず自分達の存在を見せつけている所からもうこの町を支配下に置いている気なのだろう。
「だけどそれも今日までなのね」
気が付けばかつての口調を語尾に付けながらセシルは敵を全て一層しようと魔法で先制攻撃を仕掛ける。
「一気に終わらせるわ。上級魔法<インフェルノタワー>」
本来であれば敵を警戒してアジトの外に見張りぐらい居るだろう。だがこの町を支配下に置いている事で自分達に牙を剥く事は無いだろうと高を括っているのだろう。奇襲を仕掛ける事はあまりに容易であった。
セシルは魔杖を構えてアジトの上空に魔法陣を展開する。そしてその魔法陣から放出された地獄のような業火の柱はアジトを貫き内部に居る人間を大勢焼き殺す。
「ぎゃあああああああッ!?」
「なっ、敵襲だ敵しゅ、うがああああああ!?」
不意打ちで生身を焼き尽くされる苦悶の断末魔が入り口から漏れ出て来る。だがそんな苦しみ悶える悲鳴を耳にしてもセシルの表情は何も変わらない。更にアジトの上空にもう1つの魔法陣を展開して新たな火柱を立てて更に内部の敵を焼いていく。
当然だが生き残っている敵も無抵抗で大人しくは死んでくれない。入り口から脱出しようと次々と出て来る。だがセシルはもう既にその行動も把握済みだ。
アジト出入口から火炎地獄を抜け出した構成員達はすぐに声を荒げた。何故なら外に出ると同時に足場が底なし沼のようになっていたのだ。
「こ、これは!?」
「足が取られ……動けねぇ!?」
まるで粘土の様に沈んで行く地面に足を取られて騒ぐ連中の前でセシルは淡々と魔法陣を展開する。
「このギルドの連中は本当に頭の弱い奴等の集まりみたいね。まさかこうまで私の予定通りに動いてくれるだなんて」
連中が逃げ出すルートに事前に仕組んでおいたトラップ魔法によりセシルは地面を軟化していた。そこへ足を取られて動きが鈍っている男達へと次々と火球や水球を的確に当てて処理していく。
カイン達が眠りについてからセシルは単独で依頼をこなし続けて来た。それ故に戦闘にはこの程度の仕掛けを施し自分の勝利の確実性を上げる。
そして地面に足を取られ他の仲間が全滅して怯えている最後の敵兵に魔法を放つ。
だがここで彼女にとって信じがたい光景が眼前に広がった。それはアジトから新たに飛び出してきた人影、それがセシルの放った魔法の前に飛び出し、そしてその魔法を〝左手の義手〟で吸収したのだ。
「おっと残念ながら俺に魔法は効かねぇぜ」
「そ…そんな……」
セシルは自らの視界に映る光景に声を失う。だがその驚愕は自身の魔法が打ち消された事ではない。その魔法を撃ち消した〝人物〟の方だ。
「まさかこんな小娘にウチの兵隊がこれだけやられるとはな……」
セシルの魔法で絶命した周囲に転がる死体を眺めながらそう言ったのはかつて【戦鬼】と言う冒険者パーティーの纏め上げだった男、ダスト・オルノだった。
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