亀裂
今回からセシル編の新章となります。ただこの章なのですが今までと違い主人公サイドが少し内容が暗くなる可能性があると思いますのでご容赦ください。
ライト王国に点在する冒険者ギルドの1つ【リターン】、そのギルド内の依頼掲示板の前では一人の女性が次に自分達の受ける仕事を吟味していた。
「……どうやら今日も闇ギルド関連の仕事は見つからないようね」
掲示板の前で残念そうに溜息をつくのはSランクパーティー【不退の歩み】のセシル・フレウラ。
彼女は毎日ギルドに来てはこのギルドに闇ギルド関連の仕事が舞い込んでいないか職員や掲示板などで確認している。その理由は彼女の大事な二人の仲間を昏睡状態へと落とし込んだ【ユーズフル】の手掛かりを得るためだ。
元は闇ギルドの一員だった自分を心から仲間として接してくれたリーダのカイン・グラドとその恋人ホルン・ヒュールは【ユーズフル】のギルドマスターの手により常に体内の魔力を吸い取られ続けている。救命措置は施しているとはいえ日に日に僅かづつだが二人は衰弱の一途を辿っている。このまま放置し続ければ最悪命にすら関わりかねない。
だが相手は日の光が当たらぬ裏の世界のギルド、それ故に情報を入手する事も困難なのだ。そんな彼女の一縷の望みはギルドへと回される闇ギルド関連の仕事だった。
かつて自分が所属していた【ディアブロ】壊滅後に多くの傘下の闇ギルドが完全独立を果たした。抑止力となる存在が消失した事で闇ギルドによる被害は増加、その結果冒険者ギルドにも闇ギルド撲滅の依頼が出回るようになった。
「(それでもやっぱり裏関連の仕事は巡ってこないわね。仕方ない、今日はラキルでも達成できそうな難易度の依頼を適当に……)」
カイン達が昏睡してからセシルはソロで活動を行っていたが今はラキルと言うチームメンバーが存在する。だがその実力はハッキリ言ってまだまだ未熟でありセシルのこなせるAやSの難易度の仕事は彼ではついてこれないだろう。
仲間のレベルを考えて難易度低めの依頼を吟味しているその時だった、職員がギルドへと新たに届いた依頼書を1枚掲示板へと貼り付けた。
適当な依頼を見繕って掲示板を離れる際、もしかしたらと淡い期待で追加されたその依頼書を横目で確認したセシルは記載されている内容を目にして瞳の色が変わった。
「これは……」
その依頼書に記載されていたのは念願の闇ギルド関連に仕事だったのだ。
彼女は手に持っていた依頼書を掲示板に戻してその依頼書を剥ぎ取る様に奪い取った。
依頼書に記載されている仕事内容は『違法魔道具の作成をしている闇ギルドの壊滅』と言うものだった。どうやら使用者などの安全性を考慮せずコストを削減した魔道具を多くの冒険者や一般人に売りつけ荒稼ぎしている違法ギルドらしい。
発注先はそこそこ大きな町だが相手が魔道具を大量に所持しているために町の自警団では止めきれないらしい。このライト王国のような大きな国ならばこの程度の問題はギルド頼らずとも騎士が出張って解決する。だが騎士隊のような精鋭や腕の立つ冒険者が居ない町では闇ギルドが根城として利用する事もあるのだ。
この依頼で壊滅を求められているアジトは【ユーズフル】ではない。だが闇ギルドであるならばもしかすれば何か手掛かりが得られる可能性はある。
「(ただ問題はこの依頼の難易度がAだと言う点なのよね…)」
ギルドの規則に乗っとれば【不退の歩み】がこの依頼を受ける事は可能だ。そしてラキルもまたこの依頼に同行する権利もあるのだが……実力と言う点を見れば不安が残る。
ハッキリ言ってラキルの今の実力ではB難易度がギリギリのラインだ。彼がこの仕事に同行するのは無理だろう。
かと言って日に日に衰弱していく二人の仲間の為には一刻も早く【ユーズフル】の情報を得たい。例え可能性が低くとも闇ギルド関連の仕事は引き受けておくべきだろう。
今回の仕事ではラキルは置いておこう。それがセシルの判断だったのだが……。
「その依頼、どうか僕も同行させてください!」
今回の仕事は単独でこなすとラキルに説明するとやはり彼は自分も一緒に付いて行かせて欲しいと懇願して来た。
こうなることはセシルとしても予想はしていた。恐らく自分だけを闇ギルドに向かわせるのは危険だと思っているのだろう。
だがセシルは心を鬼にしてその願いを突っぱねる。
「絶対にダメよ。今のあなたの実力を鑑みるとリスクがあり過ぎる。あなたは待機していなさい」
「で、でもセシルさんだけを闇ギルドに向かわせるなんて……!!」
やはり彼は自分の身を案じてどうにか同行させてほしいと引き下がろうとしてくる。
仲間を、自分を心配してくれるその心は正直に言えば嬉しい。だがそれはお互い様なのだ。彼女とて仲間が死に至る可能性のある戦いに引きずり込みたくなどない、いやできない。
だからこそ彼女は心を鬼にしてラキルを脅すかのように突き跳ねた。
「何か勘違いしているようね。今のあなたでは私の足を引っ張る可能性が高いと言っているの。今のあなたのレベルでは〝足手纏い〟でしかないのよ」
「そ…そんな……」
「私があなたとパーティーを組んだ時の事を憶えているかしら? あなたの持っているスキルを利用したいと事前に言っていたわよね? そんなあなたがこんな本命でもない仕事で死なれては困るのよ」
そう言うと俯いているラキルに背を向けてセシルはそのまま念を押す。
「最低でもAランク並の実力を身に着けてから出ないと闇ギルドとの戦いには連れて行けないわ。私と〝対等〟になりたいのなら特訓をもっと積む事ね」
自分で口にしておきながらズキリと胸が痛む。
だがもう仲間を失う苦しみなど二度と味わいたくない。
これは仕方のないことだと自身に言い聞かせる。背後で悔しそうに拳を震わせるラキルの姿に気付かずに……。
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