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ライト王国の過去の罪


 「エルフの国に同行……?」


 ローズが【黒の救世主】の面々に頼んだもう1つの依頼、それはエルフ族達の住まう国への同行を求めるものだった。

 1つ目の王女の護衛とまるで結びつかない依頼内容に内心で首を傾げているとローズが更に詳しく話を進める。


 「実はこのエルフの国は我々の暮らすこのライト王国と古くから交友があるんだ」


 それはこの国で暮らしているムゲン達にとっては初耳だった。この王国に長く滞在しているがエルフ族と交友があると言う話は耳にしたことも無かった。

 

 「国同士の繋がりがあるなら多少なりとも話題になってもおかしくないと思うけどな……」


 ソルの言う通りだろう。例え国同士の外交関係に興味が無くとも相手は亜人の中でも有名なエルフ族なのだ。国の中でも多少は話題になっていてもおかしくはないと思うが……。


 するとローズが悲しそうに目を伏せながら語り出したのだ。


 「確かに普通は結びつきのある国について国民の大半が知らないと言うのは異質なことだ。だがそれは無理もない事なんだ。交友と言っても形だけの様なもの、彼等と繋がりがあるのは我々騎士隊と王宮の人間だけなのだ。あくまで表面上の国友に過ぎずエルフ族はこの国の民達と手を取り合う事を拒絶している……」


 そしてローズの口から出て来た言葉、それはこのライト王国の陰の部分だった。


 それは今より昔、まだこの世界に〝魔族〟と言う怖ろしい種族が存在した500年前に遡る。多くの国々が魔族との戦争で疲弊していた。それはこのライト王国とて例外ではなかった。その時代のこの国の騎士達の多くが命を散らして行った。

 そんな状況の中でその時代の王は1つの決断をした。それは他国との連合を作り強大な1つの軍事組織を作り出そうと言う策だった。


 そうしてライト王国が同盟を結んだ国、それこそがエルフの国だったのだ。


 エルフの国としても他国との連携は自国を護る為に有難いものだった。

 二つの国の戦士達は互いに手を取り魔族との苛烈な戦争を最後まで戦いきった。そしてついに世界から魔族が根絶え長らく続いた戦争に終焉が訪れた。


 「だが同盟を結んだこの国とエルフの国の間には小さな闇が芽吹いていたのだ」


 戦争終結後も両国は有効な関係だった。だがある日、ライト王国の国王に信じがたい報告が上がって来たのだ。

 それは自国の一部の者がエルフの国の者達を捕獲し、それを別国の人間に奴隷として金に換えていたと言う唾棄すべき事実だった。


 「魔族との戦争が終結しても互いに友好を維持し続けていた。だが時代が進むにつれ戦争を経験していない世代の一部の屑はあろうことか同盟を結んだ亜人を騙し自らの欲を満たす道具として利用したのだ」


 亜人それもエルフ族となれば奴隷として欲しがる輩はいくらでもいる。腐った一部の人間にとってエルフの国は同盟国でなく都合の良い金づると見ていたのだ。


 その話を聞いてウルフは思わず歯を噛み締めていた。

 かつては奴隷だった彼女にとって過去話と言えども胸が痛んだ。だが無理もない、何しろムゲン達ですら胸糞が悪い。


 「当然だがエルフの国は怒りライト王国と同盟を解消しようとした。それどころか裏切られた彼らは報復戦争すら仕掛けてこようとしたのだ。だがその時代のライト王国の王子や国王の働きによりどうにか戦争は免れた。それにエルフの国の長も一部の人間の暴走と判断して同盟解消は早計だと判断したんだ」


 人間と違いエルフは長命な種族だ。ライト王国の国王と違いエルフの国の長は戦争を共に戦ったかつての王の人徳をよく知っていた。だからこそライト王国をもう一度信じてみようと判断した。

 だがその考えは若い世代のエルフ達には納得のできぬ決定だった。しかし長の判断がそうである以上は無理やりにでも納得した。


 だがこれ以降から両国の間には大きな溝が構築されてしまった。

 やがて時代が進みライト王国とエルフの国の繋がりは希薄となっていき、現在では王族やそれに仕える騎士達との交流程度まで廃れてしまった。


 「私達騎士は時折エルフの国に訪れては合同稽古を行っているんだ。だがこれには国同士の繋がりを絶たない意味合いもあるのだろう。だがエルフ達の多くはこちらの良い印象を抱いてはいないみたいだ」


 ローズを初め現在の騎士達は悪行を働いた愚か者達よりも後の世代だ。だがエルフ達にとってはライト王国は卑怯な国と言う認識が深層心理に根付いてしまっている。

 

 この国の過去の闇については理解した。だが結局この状況でエルフの国に同行してほしいと言う依頼内容はまだ理解が追い付かない。

 するとローズは真剣な面持ちでムゲン達にこう語った。

 

 「これは完全に推測の域だ。だが今回エルフの国からの帰路でアセリア様は襲撃を受けた。可能性として一番高いのは姫の外出を知っていた内輪の仕業と言う可能性だが……」


 そこまで言うとローズは言葉を濁す。だがムゲンもここまで言われれば彼女の言いたい事が把握できた。


 「もしかしたらエルフの国の何者かが犯行を起こした可能性がある……と言う事ですか?」


 そう言葉を投げるとローズは無言で頷いた。

 かつてこの国の一部の外道により尊厳を踏みにじられたエルフ達の復讐、もしそれが真実だとするならばムゲン達はかなり根深い闇に沈んで行く事となるだろう。



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