ローズからの2つの依頼
今日は短編小説も投稿しているので是非そちらも読んでみてください。
終始こちらを小馬鹿にするような嫌らしい笑みを浮かべながら立ち去っていくクワァイツを睨みつけているとローズがその場でムゲン達へと頭を下げる。
「本当に申し訳ないムゲン殿達。あの女には個人的に後で注意を入れておくのでここは私に免じて容赦してくれないだろうか」
そう言うと心底申し訳なさそうな顔で5人全員にそれぞれ頭を下げて行く。
同じ《剣聖》でもこうまで違うものとか思う程の丁寧な対応に今まで怒りを覚えていたソル達の精神もクールダウンする。失礼を働いていない彼女がここまで誠意に対応してくれているのにいつまでも怒りを引きずり続けてはこちらが子供だ。
「いやローズさんが謝る事じゃないでしょう。それにもう気にしていませんのでどうか頭を……」
何だかこちらがいたたまれなくなりもう大丈夫だと告げた。すると彼女は額を押さえながらクワァイツの去って言った方角を軽く睨みつけながらこんな説明を加える。
「あの女は第二騎士団の師団長なのだがいかんせん人間性に問題があってな。そんな人間の下について剣を振るっているせいか所属している部下達も性格に難のある奴らが多い」
その説明にはとてつもない説得力があると理解できる。あのクワァイツの傍に居た連中も似たような嫌な笑みを始終こちらに向けていた。あれは完全に自分より下の生き物を見る眼だ。
少々の一波乱が起きそうだったが何はともあれローズ達の第三騎士団の身を置く兵舎の中へと案内された。当然だが兵舎の中にはローズの部下である騎士が大勢いた。だがその全員はすれ違った騎士達やクワァイツのような第二騎士団の連中のような嫌な視線を一切向けてはこなかった。
ローズに案内されそれぞれが席に着くと早速今回ムゲン達が呼び出された理由が明らかとなる。
「さて、腰も落ち着けた事だしようやく話が出来るな。今回君達【黒の救世主】には二つの仕事を頼みたく呼び出させてもらったのだ。それは第二王女アセリア様の護衛、そして〝ある国〟への調査の協力の二つだ」
彼女の口から出て来た言葉の内容、それは自分達に仕事の依頼をしたいと言うものだった。
「それってつまり仕事の依頼がしたかったって事なのか?」
一応ソルがそう問うとローズが肯定の意を込めて頷く。
別段冒険者と言う職業に身を置いているのだ。仕事を依頼される事は珍しくも何ともない。だがこの場の皆がどうにも解せない点があるのだ。
「あの…質問なのですがどうしてギルドに委託せずこうして直接仕事のご依頼を?」
皆の代表としてハルのこの疑問はもっともだろう。基本冒険者はギルドを経由して依頼を引き受けるのだ。依頼する立場の者がわざわざこんな風に特定のパーティーを呼び出して仕事の依頼などまどろっこしい方法を取る事は珍しい。
ハルのその疑問に対してローズはこう答えた。
「確かに私達騎士でもギルドに仕事を依頼する事は普通に可能だろう。だがその仕事内容がこの国の王女に関わる仕事となると下手をすれば引き受けてくれる相手が見つからない可能性もあるのだ」
その理由を聞いてこの場の皆がようやく彼女がこんな手間の込んだ方法で自分達に仕事を依頼したのか悟った。
本来であればこの国の王女に関わりのある仕事内容となれば成功すれば莫大な報酬を得るチャンスと思うだろう。だが逆に言えばこの依頼は日頃受理している他の依頼と違い『失敗が許されない』とも言えるのだ。王国騎士からの仕事、しかもこの国の王の娘の護衛任務を軽い気持ちで引き受けて失態を犯そうものなら王から厳しい処罰だってあり得る。もしも王女の身に何かあろうものなら……考えるだけで怖ろしい……。
「仕事の質が高すぎれば逆に委縮して引き受ける冒険者が居ないかもしれない。それにこの依頼は生半可な実力者に任せては不安なのだ。しかも最高位のSランクと言えども交流も無い相手をどこまで信用すべきかと言う懸念もある。だからこそ私が〝もっとも信頼〟して大丈夫と思える君達に仕事を頼みたかったのだ」
本来であれば姫を護る事は騎士である自分達の仕事だ。だが下手をすれば身内に第二王女の命を脅かす存在が居る可能性がある以上はどうしても騎士以外に腕の立つ実力者に協力を要請すべきとローズは考えた。
「この町には多くの冒険者パーティーが存在するが心から信頼できる者達は君達しか思い当たらない。交流もあり、そして何よりムゲン殿には一度アセリア様の窮地を救ってもらった信頼もあるからな」
今より2年前に温泉街でアセリア姫の誘拐を目論む輩たちをムゲンは撃退している。自分と共に全力で姫を護るその勇士を間近で見ていたローズは【黒の救世主】以外こんな頼みをできる冒険者は居ないと決めていた。
「どうかしばし君達の力を我々に貸してはくれないだろうか?」
そう言うとローズは席から立ち上がると頭を下げて頼む。
そんな隊長に習うかのように話を聞いていた他の部下達も深々と頭を下げて来た。
「……騎士ともあろう方がそんなに頭を下げないでください」
そう言いながらムゲンは右手をローズの前に差し出す。
「心配せずとも断るなんて選択肢はありません。その依頼、どうか俺達に任せてください」
「ありがとう……」
感謝の礼と共にムゲンの伸ばした手を掴み互いに握手を交わす。
ムゲン達にとってアセリア姫とは交流だってある。少し気丈だが根は優しい彼女を護る為ならば依頼でなくとも力を貸したい。
だがここでムゲンにはまだ1つ気になる点があった。
先程にローズはこう言っていた。自分達に『二つの仕事』を頼みたいと。1つは王女の護衛とし、もう1つの仕事とは何か詳細を尋ねる。
「もう1つの依頼内容だが、下手をすればこちらは護衛以上に大変かもしれん」
そう言うと彼女は部下の騎士に命じて1枚の地図を持ってこさせる。
手渡された地図を机の上に広げてローズはある場所に指を押し当てた。
「もう1つの仕事、それは私と共にこの『エルフの国』の同行を頼みたいのだ」
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