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過去編 協力者と共にいざ攻略!


 「あの……ちょっといいですか?」


 「っ!?」


 この塔の攻略の為にさして出来の良くない頭を捻っていると背後から声を掛けられ少し慌ててムゲンは振り返った。

 勢いよくムゲンが反応を見せたからだろう。相手の話し掛けて来た方も肩を少しビクッと震わせる。


 「えっと、少しあなたとお話しをしたかったんですけど不味かったですか?」


 「いえ…全然いいですよコルトさん」


 少し遠慮気味に話し掛けて来た相手はこの『修練の塔』の50階の〝住人〟の1人、コルト・イートラスと言う名の《聖職者》の女性だった。

 この塔に挑戦している人物は当たり前だが自分達【黒の救世主】だけではない。他にも多くの冒険者や腕に覚えのある者達もこの難関と言われる塔の攻略を夢見て挑戦している。


 目の前に居るこの女性もまたその1人であった。かつては彼女も自分達と同様にパーティーの仲間達と一緒にこの塔攻略を目指していた。だが……今の彼女はもはやこの『修練の塔』の〝住人〟と化していた。

 この塔は50階以降からは命を落とせばもう折り返し地点前までのように生き返る事は無い。かと言って50階に到達してしまえばそれより下の階層にも降りられない。そんな過酷な塔から脱出しようと50階の住人達も最上階を目指し戦った。だがその多くは途中で命尽きてしまったのだ。その結果この塔に長く拘束されている彼女達は攻略を諦めこの50階の住人と化してしまっているのだ。このセーフティゾーンである中間地点の階層だけはモンスターが出現せず、更には定期的に食料や水なども民家へと支給される。挙句には生活する為の家まで与えられ、もう残りの生涯をこの場所で過ごそうと諦めた者達がこの50階には大勢いるのだ。


 「それで俺に何か用ですか?」


 この階に住み着いてる者達は誰も他の人間に関わろうとしなかった。初めてこの階に訪れた際にムゲン達が一通り挨拶をしても誰もかれもまるで無関心を貫いていた。その瞳には希望は一切なく、ムゲン達も彼等が全てを諦め投げ出している事を察し必要以上に関わらないスタンスを取っていたのだ。

 だから正直ここに来てその1人に声掛けをされた事に僅かながら驚いていた。


 一体何用なのかと思っているとコルトはその場で頭を下げながら予想外の頼み事をしてきたのだ。


 「お願いしますムゲンさん! 次にまた上の階層に上がる際にはこの私も同行させてください!!」


 彼女が頭を下げながら頼み込んで来た内容には思わず目から鱗が落ちた。

 何しろこの階層に住まう連中はハッキリ言って覇気の抜けた集まりだったのだ。自分達がこの塔の攻略を目指し上の階に上がる際には憐れみの目ですら見られていた。そんな人間がまさか自分達と一緒に戦わせて欲しいと願い出るとは思いもしなかったのだ。

 

 「どうして急に……」


 本音を言うのであればムゲン達視点から見れば戦力が増強されるのだ。喜ばしい提案ではあるのだが、今まで戦う気力の欠片も無かった相手から急に同行を求められれば変に勘ぐってもしまう。

 怪訝そうな眼で見られる事に対してコルトは当然だと言わんばかりに訳を口にし始めた。


 「今まで傍観者だった人間に急にこんな頼みをされて疑う気持ちは当然だと思います。でも私だって本当は分かっているんです。いつまでもこの監獄のような世界で生き永らえても意味が無いって……」


 かつて彼女は生前の仲間達と共にこの『修練の塔』で己を鍛え上げようと奮起していた。

 事前に耳にしていた情報ではこの塔では命を落としても生き返れる、その情報故にどこか慢心があった。だからこの中間地点に辿り着きやり直しがきかなくなる新ルールに大層驚いた。それでも彼女は仲間達と一緒にこの塔を生きて出ようと頑張った。


 だが努力と奮闘の末に待ち受けていたのは自分以外の仲間の死だった。


 「唯一生き延びた私はもうここから逃げ出せないと諦めてしまいました。他の方たちも同じようなものです。仲間の様に死にたくないあまりこの安全圏に留まり残りの人生をここで終えようと諦めていました」


 全てを諦めていた彼女、だがそんな中で何度も仲間達と共にこの塔を攻略しようとするムゲン達の行動を見て彼女の意識が変わりつつあった。

 自分達とは違い決して折れる事のない4人の勇士にいつしかコルトの心には希望が宿りつつあった。


 自分だって本当はこの塔から抜け出したい! 残りの人生をこんな寂しい場所で過ごしたくなんてない! そして何より……死んだ仲間の……恋人の最後の願いを無駄にしたくない!!


 生前のコルトの所属していた冒険者パーティーのリーダーであるダリンと言うの名の男性は彼女の恋人だった。だがその愛する彼は最上階手前の階層の竜型ゴーレムとの戦いで命を落とした。それも……自分を攻撃から庇う形で……。

 膨大な魔力の塊を直撃した他の仲間達は骨すら残さず塵と化し、自分を庇い盾となった彼も半身が肉塊になり《聖職者》の自分でももう彼の死を避けられなかった。


 そんな死の際にダリンは最後にコルトにこう言葉を残した。


 『頼む……逃げてくれコルト。そして……いつかこの塔を出て外の世界に……』


 最後の最後まで自分でなくコルトの身を案じた愛する人の願いは彼女の頭に残り続けた。だが眼前で全てを蹂躙された悪夢から彼の願いを叶えたいと言う想いに反し恐怖が体をすくめていた。


 「私はどうしようもない臆病者です。でも……最期に私を想い続けて死んで行ったダリンの……愛する人の望みを無下にはしたくなかった。お願いです……あなた達の強さに付け込んだ卑劣な行動は百も承知ですが私も次の戦いに同行させてください!!」


 そう言いながら再度勢いよく頭を下げるコルト。その勢いで首のネックレスが揺れ動いた。

 逃げる際に彼の形見としていつもダリンが身に着けていたネックレスを彼女はずっと首に付けている。全てを諦めても彼との思い出だけは決して消えぬようにと……。


 自分の思いの丈をぶつけてきた相手に対してムゲンはゆっくりと手を指し伸ばす。


 「そうですね。愛する人があなたに外の世界で生きて欲しいと願ったのならその想いは組んであげるべきだと思います」


 彼女の行動をムゲンは決して卑劣だとは思わなかった。

 だって目を見れば一目瞭然だから。彼女が我が身可愛さでなく愛する人の願いの為にこの先も生きていきたいと心から決意している事が……。



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