過去編 分厚すぎる最後の壁
数多の者達が頂きに辿り着けず半ばで断念した『修練の塔』、その最上階より1つ下の99階では激戦が繰り広げられていた。
この階まで到達したその者達はムゲン率いる冒険者パーティー【黒の救世主】の面々であり、彼等4人の眼前には巨大な竜を模したゴーレムが立ちはだかっていた。
「いい加減、ダウンしろよ!!」
拳に特大の魔力を纏いムゲンは渾身の一撃を石造りの竜の腹部に叩き込む。その打撃は本来であれば石造りのゴーレム程度粉々に粉砕できる威力だろう。だが彼の殴打を受けたゴーレムは僅かに後退するだけでその肉体が砕けている様子はない。
最強種との混血であるムゲンの拳は鋼鉄を上回る威力を誇る。だがこの最後の階層の行く手を阻む竜型ゴーレムの硬度はそれを上回っていた。全身の岩の鎧には圧縮された魔力が見えない鎧となり張り付きその身を護っているのだ。
「くそっ、もう魔力が切れたか……」
叩きつけた拳に血を滲ませながらムゲンは荒い息を吐く。
この階層に来てから既に1時間近くムゲンは全力で動き続けていた。当然だが攻撃の際だけでなく肉体の方も常時魔力で強化し続けている。もう体内の魔力の残りも僅かな状態に陥りつつあった。
そしてそれはムゲンだけではない。他の3人の魔力と体力ももう限界地ギリギリだった。
「くっ、穿牙一点!!」
岩の尻尾を振り上げて一番近くのムゲンをゴーレムが圧し潰そうとする。だがそうはさせまいとウルフが1本の矢に通常の5倍を超える魔力を注ぎ必殺の一矢を穿つ。
風を切り裂きながら強化された矢は尻尾の付け根に当たる部分の岩を貫き見事に尻尾を切り離す。
「こいつでどうだ!!」
「生き埋めになってもらいます! 岩石魔法<ロックフォール>発動!!」
ウルフに続き石造りの足を1本ソルが愛剣で切断し、そのままバランスを崩したゴーレムの頭上にハルが魔法陣を展開する。そのまま宙に描かれた魔法陣からまるで雨粒の如く巨大な岩石が降り注ぐ。その流星群により対象の全身を圧し潰しそのままゴーレムの姿が岩で隠れた。
これだけの連続攻撃、それも1人1人がSランクの猛者なのだ。本来であればこれで決着はつくだろう。
だが生き埋めとなったゴーレムは巨大な咆哮と共に圧し掛かっていた岩を吹き飛ばし中から出てきたのだ。
「くそっ、もう〝修復〟されている!」
自分が斬り落とした筈の脚部が既に修復されている事にソルが忌々しそうに吐き捨てる。
このゴーレムの耐久性、そして魔法すら扱う多種多様な攻撃方法、それらだけでもかなり厄介な手合いであるが一番攻略に手こずる理由は異次元の〝修復機能〟にあった。
過去にムゲンは【ディアブロ】の支部でゴーレムと戦った経験があるが何の役にも立たない。何しろこのゴーレムは再生の為の核に当たる物もなく、しかも再生速度があの時のゴーレムの比ではない。攻撃を受けて破損したと同時にもう修復が開始されるのだ。
突如としてゴーレムの咆哮が止んだと思った時、彼の開かれたままの口内に魔法陣が浮かび上がる。
「全員横に跳べぇぇぇ!!」
ムゲンが叫ぶと同時に他の3人が指示通りに動く。その直後にゴーレムの口から魔力の塊による攻撃が放たれる。
紙一重で回避に成功したムゲン達だがやはり疲労から動きが鈍りギリギリの紙一重だった。
「もう限界だムゲン! これ以上の魔力と体力の浪費は〝帰り〟に影響が出てしまう!」
「ぐっ、退散だ!!」
この階層に至るまで連戦続きで疲労も蓄積しており今のムゲン達では眼前に立ちはだかる最後の壁の突破は不可能だと悟る、もしこれ以上粘れば50階のセーフティゾーンに戻れないと判断しムゲン達は通算〝4度目〟の撤退を余儀なくされた。
この『修練の塔』に訪れてもうかれこれ2週間と言う時間が経過していた。折り返し地点である50階に到達して突如課せられた新ルールに戸惑いながらもムゲン達は頂点を目指す。今まで後戻りのできない一方通行だったが折り返し地点からは50階までならば階層に戻る事が出来た。
しっかりと休息を取ったムゲン達【黒の救世主】は頂上を目指しさらに上の階を目指した。ハッキリ言って99階までは余裕とまではいかないが絶体絶命の窮地に陥る事もなく辿り着けた。だが問題は99階に出現するあの竜を模したゴーレムだ。どれだけ攻撃を浴びせても即時修復する能力は厄介過ぎた。もしも初めから万全な状態であのゴーレムと対峙したのならば攻略は可能だろう。だが51階から98階まで連戦した状態ではどうしても魔力も体力も消耗した状態で挑まなければならないのだ。
「くそぉ……どうしたらいい……」
休息エリアである50階に戻ってから拠点としている居住で恋人達が休んでいる時、ムゲンは外に出てあのゴーレムの突破方法を考え続けていた。
あのゴーレムの再生力、もしあの再生速度を上回る攻撃を連続で叩き込めれば突破は出来るはずなんだ。だが問題はあの階に辿り着くまで魔力を消費してしまうことだ。そのせいでどうしても消耗状態で戦闘を行わなければならない。
こちらには回復魔法を扱えるハルはいるが彼女は攻撃を得意とする生粋の《魔法使い》だ。
「もしも《聖職者》がウチのパーティーに居れば……」
治療や状態異常など回復に特化した役職の仲間が居れば恐らくは初めから万全な状態であのゴーレムと対峙できるだろう。だが無い物ねだりなどして現実逃避したところで無意味だろう。
自分達のパーティーで突破できる道を模索し続け、そうやって考えに没頭していたからだろう。背後から自分に近づく人影に彼は気付けなかった。
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