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アルメダの第二人生 4

今回の話ですがラストの方が少し重いかもしれません……。


 自分の手にした肉体の不調具合の解決の為にアルメダは商業都市トレドへとやって来ていた。

 以前訪れた時にも圧倒されたがやはり商業都市と言われるだけあり町の至る所が活気に溢れている。多くの商店に人がごった返しており喧噪に包まれている。


 「(え~と…確かドールの家はこの都市の端の方だったわよね)」


 これだけ人が潤っている都市で人間嫌いが生活していると言うのも改めて考えると中々矛盾している。とは言えこの商都だからこそ彼女の求める魔道具作成の材料も入手しやすいのだろう。

 それにしても以前はムゲンと二人で訪れていたからそこまで緊張など感じなかったがこうして一人だけで大勢人間の居る場所に訪れている事に今更ながら少し緊張してしまう。


 そんな事に気を取られてしまっていたからだろうか。前から走って来ている子供とぶつかってしまった。


 「あっ、ごめんなさい。怪我は無かった?」


 ぶつかった相手はまだ10歳にも満たない子供と言う事もあり慌てて体を起こしてあげようとする。だが少年は差し出した手を取る事もなくそのまま走り去ろうとしてしまう。だがぶつかって地面に倒れた際に腕を擦りむいたのか少し血が滲んでいる事にアルメダは気付く。


 「ああ動かないで。ほら、血が出ている」


 この程度ならスーザンから教わった回復魔法で治療できる。そう思いしゃがみ込んで男の子の傷を治そうとしたその時だった。


 「ついに捕まえたよコイツめぇッ!!」


 「うわあああああっ!?」


 いきなり怒声と共に割り込んで来た女性の存在に思わず治療の手が止まってしまう。

 視線を声の方に向けるとそこには大柄の中年女性が立っていた。その女性は男の子の襟首を捕まえるとそのまま強引に地面に放り投げる。

 流石にこの光景を前に黙っている事も出来ずアルメダが止めに入る。


 「ちょっと子供相手に何をしてるの!?」


 「あん、なんだいアンタは? この坊主は盗人なんだよ。ウチの店からパンを盗んだんだ」


 そう言いながら女性は男の子の方を指差しながらアルメダを睨む。

 言われてみれば確かに少年の手にはパンが握られている。それに身に着けている服もよく見ればボロボロで薄汚れていた。つまりこの子供は……。


 「さあその坊主をこっちに渡しな。それともアンタがコイツに盗むように指示したのかい?」


 そう質問しながらも女性は尻もちを付いている男の子に再度手を伸ばす。だが男の子を掴むよりも先にアルメダは彼女の手に1枚の銀貨を差し出した。


 「ああごめんなさい。実はこの子にパンを買ってくるように頼んでいたのよ。でもお金を渡し忘れていたみたいだったわ」


 それはどう考えても咄嗟に着いた嘘だとこの女性も理解していた。だが安いパン1枚で銀貨をわざわざ差し出して来たのだ。この場はこれで納めて欲しいと言う意味合いなのを理解する。

 

 「ふんっ、お人好しなお嬢さんだねぇ」


 鼻を鳴らしながら女性は乱暴に銀貨を奪い取るとそのままその場を立ち去っていく。

 残された男の子はしばし呆けていたがすぐに慌ててアルメダに礼を述べる。


 「あ、ありがとうおねえさん」


 「……いいのよ」


 本当ならこの男の子に対して説教をするべきなのだろう。だがアルメダは強く叱りつける気にはなれなかった。こうして素直にお礼を口にできると言う事は根は真面目な子だと理解できる。それに彼だって好きで盗みをしたわけではないだろう。生きるために彼も必死で手段が無かったのだ。


 少年の犯した罪よりもその境遇に同情しているその時だった。彼の腹部から凄まじい音が鳴り出したのだ。


 「(よく見れば頬も少しコケてる。もう長い事何も食べていなかったのね)」


 だがここで彼は予想外の行動に出たのだ。

 手に入れたパンを涎が出るほどに見つめていた彼だがそのパンに手を付けず彼はそのまま頭を下げて自分の前から走り去っていった。


 おかしい……あれだけ空腹な子が折角手に入れたパンを食べないだなんて……。


 最初は自分の前だから人目の付かない場所で口にするのかとも思った。だがあれだけ空腹な子供がそんな事を気にするだろうか? そもそもその気になれば先程逃げながらパンを食べる事もできたはずだ。


 「………」


 このままこれ以上関わる理由は本来であればアルメダにはない。だがどうにも気になり気が付けば彼女は少年の後をコッソリと付けていた。

 尾行を始めてから少年はどんどん人の密集しているエリアから離れやって来た場所は閑散としていた。


 随分と人気の少ない場所までやって来たわね。やっぱり商業都市と言えどもこう言う場所はあるのね……。


 そして少年が辿り着いた場所はボロボロの板を張り合わせて作ったあばら家だった。

 極力気配を殺してその家の入口から様子を伺うとそこには少年の他にもう1人の女の子が居た。


 「ほらミル、今日は食べ物を持ってきたぞ」


 「………」


 見たところその女の子は彼の妹なのだろう。だがアルメダはその少女を見て思わず絶句してしまう。


 何故ならその少女の顔には一切の生気が無かった。それに床に寝転がっている体には小さな羽虫が飛び交っており、その肌も少し変色していたのだから。


 「ほらお腹すいているだろ。全部食べていいぞ」


 そんなもう魂の宿っていない妹に彼は苦労して得たパンを食べてもらおうと必死だった。


 虚ろな眼でもう動かぬ遺体に必死に食事を食べてもらおうとしていたのだ。自分の空腹などお構いもせずに。


 気が付けばアルメダは家の中に飛び込んでそのまま少年の小さな体を後ろから思いっきり抱きしめていた。



 

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