アルメダの第二人生 3
久方ぶりのアルメダの番外編です。ここからはムゲン達の過去編と連動して投稿していきます。
元冒険者であるスーザンの指導の下でアルメダは魔法の特訓を続けていた。
流石はかつては一流の《魔法使い》だけはあり彼女の教えはとても的確で分かりやすく、陰でコソコソと1人で特訓を行っていた頃とは比較にならないスピードで魔法の扱いに慣れて来た。
だがここ最近のアルメダは少しスランプ気味になりつつあった。
「穿て<アクアブレッド>!!」
目標の巨大な岩目掛けて水の弾丸を射出するアルメダ。その威力は容易に自然石を貫通するほどの威力で傍から見れば称賛の言葉が投げ掛けられるだろう。だが魔法を放った本人はどこか不服そうな表情が顔に出ていた。
「やっぱりダメ。どこか反応が〝鈍い〟わ」
彼女が悩んでいる理由、それは魔法の威力や速度などではなく感覚の不一致であった。
まだスーザンから教えを受けず独力で魔法の特訓をしていた頃は気にならなかった。だがスーザンから魔法の基礎をみっちり学んで実力が着実に上がり始めた頃に自分の中で奇妙な違和感を感じ始めるようになったのだ。
それは自分が魔法を放とうとする瞬間、一瞬だが魔法の発動が〝遅れる〟のだ。時間にしてはコンマ数秒レベル、それ故にまだ特訓を始めたばかりの頃は気付きすらしなかった。だがスーザンからのスパルタ指導でメキメキと魔法の基礎を身に着けてからようやくこの違和感に気が付けたのだ。
「(どうしてよ……どうして反応が遅れるの?)」
魔法発動の際の一瞬の遅延についてはスーザンにも相談した。だが残念ながらその原因は彼女にも分からなかった。最初は単純に自分の力量不足から起こる問題だと思っていたがどれだけ魔法の威力や速度を上げても発動する瞬間だけ自分の感覚より一瞬〝遅れて〟しまう。
例えば頭の中でこの魔法を発動しようと思い魔力を集中、そして魔法陣を展開しようとする。だがその魔法陣展開がほんの一瞬だけ遅れるのだ。それは隙と言うには本当に一瞬の誤差なのかもしれない。だが万が一に自分と同格、もしくは格上相手には致命的過ぎる隙だろう。
どうしてこうまで自分の感覚とズレが生じるのかしら? これじゃまるで〝肉体〟と〝精神〟が噛み合っていないみたいな……。
その考えが脳裏を掠めたと同時にアルメダは思わず息をのんだ。
そうよ……よくよく考えれば私のこの体は私本来のものじゃない。私はあくまでこの作り物の肉体に魂を憑依させているようなもの。
この部分に思考が行き着いてからアルメダは自分のスランプ理由の原因を解決すべきには〝あの人物〟に相談すべきだと思いスーザンに話した。
「もう一度トレド都市に行ってドールに会ってみようと思う?」
「はい、この体を与えてくれた彼女ならば私のこの不調の原因について理由が分かる可能性があると思うんです」
特訓を終えて汗を流した後、スーザンの用意してくれた料理を口に運びながらアルメダはもう一度トレド都市に足を運んでみようかとスーザンに話していた。
商業都市トレド、その都市にある冒険者ギルド【コマース】に所属するSランク《魔法使い》のドール・ピリアナならば確かに彼女の感覚の不一致についての原因が解るのかもしれない。
「自分のこの感覚の不一致をそのまま放置にしておく訳にはいきません。だからこの体を作った製作者のドールに原因究明を頼もうと思っています」
「そうねぇ……確かに彼女ならアルメダちゃんの不調について何か理由が分かるのかもしれない。でも……果たして彼女がアルメダちゃんの相談に乗ってくれるかしら?」
魔道具の発明に関してはドールと言う女性は天才と言う枠組みにすら収まらない。何しろここに居る二人はそれぞれ義眼と肉体を彼女に用意してもらっているのだ。だがそんな彼女には1つ厄介な欠点とも言える点がある。
それは彼女が大の人間嫌いであると言う事だ。何しろムゲンの話では自宅周辺に結界を張っているぐらいなのだ。
「仮に彼女に会いに行っても話すら聞いてくれない可能性もあるんじゃ……」
確かにもしアルメダが純粋な人間ならば門前払いされる可能性もあるだろう。だがその点に関しては彼女は何とかなると思っていた。
「知っての通り私のこの体はドールの手によって作り出された〝魔道具〟です。人間嫌いな彼女ですが道具に関しては愛着があると思います」
これは何もアルメダの根拠のない推測と言う事ではなかった。
アルメダの肉体を用意する条件として素材収集の為にムゲンがダンジョンに潜っている間、彼女はドールと共に居た。そして自分の依り代となる肉体を作成している時の彼女はムゲンと居る時の嫌悪感が顔から消え、まるで子供の様に純粋に笑っていた。
「あの時の彼女の表情、まるで魔道具と接する事が楽しくて仕方が無いと言わんばかりでした。そして私は〝人間〟ではなく〝魔道具〟に近い存在。話ぐらいならなんとか可能かと思うんです」
この先の未来でムゲンに恩返しをする為には今の欠点を放置は出来ない。より強くなるためにはこの問題を解決しなければならないとアルメダは思っていた。その為にはどうしてもドールに会いに行く必要がある。そう強く訴えるとスーザンは数秒間眼を閉じると優しい声でこう返してくれた。
「それが今のアルメダちゃんに必要な道だと言うなら私は止めないわ。ただトレド都市まではそこそこ距離もあるから気を付けなさいね」
目の前の少女は決して自分で物事を考えれない小さな子供ではないのだ。ならば自分の役割は意味なく引き留める事ではない、少しでも安心できるように笑って応援する事だとスーザンは思い彼女を送り出す事に決めた。
こうしてムゲン達がこの村に帰郷する前日に入れ違いのような形でアルメダはトレド都市へと出発するのだった。
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