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過去編 折り返し地点到着


 「ぜああああああ!!」


 気合の籠った掛け声と共にムゲンの放つ拳が眼前のモンスターを粉砕する。その背後では他の3人もそれぞれの武器を用いて目の前の敵を撃破していく。


 「これで、ラストォッ!!」


 その言葉と共に繰り出したムゲンの拳が最後の1体の大柄なモンスターをアッパーで吹き飛ばす。

 天井に激突すると同時に鼓動を止めたモンスターはそのまま天井に吸収され、周りで転がっていたモンスターの亡骸も溶けて消えて行った。


 「はあっ……はあっ……」


 視界に入る敵を全て撃退した事を確認すると4人は同時に緊張を解きその場に座り込んだ。

 

 「大分出現するモンスターのレベルも上がって来ているな」


 ムゲンの言葉に対して皆は無言で頷いて反応を見せる。ここまで戦闘により疲労も蓄積しているのだろう。必要以上に口を開くの全員が億劫に感じ始めていた。


 ムゲン達がこの塔を上り始めてから既に49階まで到達していた。確かソルとハルが以前リタイアした記録を更新はしているがここにきてムゲンには不安があった。


 このままのペースで最上階まで上りきる……正直今の俺達のコンディションで可能なのか?


 未だに自分達が中間地点にまで辿り着けているか定かではないにも関わらずムゲン達はもう既に疲労も限界に近づいていた。ただ塔を上り続けるだけならばまだまだ余裕だったのだろう。だがこの塔は1つの階につき必ずモンスターが出現する仕様なのだ。この49階を攻略するまで全ての階でムゲン達は戦い続け疲労は蓄積する一方だ。これまで仕事でいくつかのダンジョンを潜って来たが今回皆の肉体的疲労はその比ではない。


 連戦に次ぐ連戦で全員魔力、体力と共にもうかなり消耗している。どこかできっちり休息を取らないと不味いぞ。


 本来であればどこかで一度は休息を挟むべきなのかもしれない。だがこの塔の中に居る限りは満足に休憩をする余裕すら与えてもらえないのだ。


 「みんな、少し息を整えたら早く次の階に行こう。もたもたしているとまたモンスターが〝湧き出て〟くるからな」


 到着した階のモンスターは例え全て撃破しても一定の時間経過で再び蘇ってしまうのだ。つまりこの塔の内部では常に臨戦態勢を崩す事も不可能。神経を終始張り巡らせ続ける常在戦場の精神により心まで摩耗していく。かと言って出入口には特殊な結界を張られており下の階に戻る事もできない完全な一方通行状態。

 つまりこの塔をクリアする為には前に進み続ける以外に道は存在しないのだ。


 「(皆の疲労……くそっ、事前に準備していた回復薬の類もそろそろ切れそうだ。この調子で最上階まで本当に到達できるのか?)」


 仮にこの塔の内部で死んでも生き返って塔の外に出れるとはいえ恋人達の死に様など目にしたくない。最悪は自分が体を張る事も内心で覚悟を決め遂にこの塔の折り返し地点である50階へと辿り着くムゲン達。


 だが折り返し地点である50階に辿り着いたムゲン達は眼前に広がる光景に思わず呆然としてしまう。


 「な…なんだよこれ? どうして塔の内部に〝民家〟が立ち並んでいるんだ?」


 50階の入り口を通り抜けてムゲン達の視界に入り込んだのは『塔の内部にいくつも立ち並んでいる民家』だったのだ。


 「これはどういう事だぁ? 何で塔の内部に家があるんだよ?」


 一瞬幻覚でも見ているのかと思い一番近くの家の壁にソルが触れる。だが手に伝わる外壁のザラザラとした手触りから幻でなく実在している事が分かる。

 

 「いや、それよりもこの階の面積も絶対におかしい。今までの階と違って上下左右があまりにも広すぎる気が……」


 ウルフの口から出て来た疑念に今更ながらムゲンも気付く。この塔の挑戦前に外部から塔の周囲をぐるっ確認したがこんな数十件も民家が内部に立ち並ぶ程の広大だったとは思えない。勿論外から観察して一部分だけが極端に広がっているような独特な形状もしていなかった。

 いやそもそも修練上の中に民家がある事自体が異常に決まっている。


 訳も分からない予想外の光景に戸惑っていると背後から女性の声が聴こえてきた。


 「【黒の救世主】の皆さん、『修練の塔』50階までの到達おめでとうございます」


 一切の気配も音もなく突如として背後から聴こえてきた声に全員が前に跳びながら即座に身構える。


 そこに居たには九つの尾を持つ鮮やかな1人の亜人の女性だった。


 「私はこの階まで到達した方々の案内役を任せられている妖狐のツガイと申します」


 その女性は一言で表すなら〝芸術〟と呼ぶにふさわしい出で立ちだった。

 銀色の綺麗に切り揃えられた髪、その髪と同じく汚れの1つも無い鮮やかな銀の体毛に覆われた柔らかそうな9本の尻尾。そして身に纏う着物が更にこの女性の神秘性を引き立てている。

 

 まるで目の前の人物が自分達とは別世界からやって来たかのような不可思議な美しさに皆が思わず言葉を失っていると女性が再度口を開く。


 「戸惑っているところ申し訳ないのですがこの50階以降の〝ルール〟についての説明を始めてもよろしいでしょうか?」


 「えっ、ルール? 何だルールって?」


 「はい……この50階は最上階までの折り返し地点であり……挑戦者達にはこれ以降から新規ルールが追加されるのです」


 そう言う彼女はまるで凍てつく吹雪のような冷ややかな笑みを浮かべた。


 そしてムゲン達は思い知る事となる。この『修練の塔』はここからが挑戦者にとって真の地獄である事実に……。



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