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過去編 レベルアップ化スタート


 故郷での一晩を明かしムゲン達【黒の救世主】はついに目的の場所へと辿り着く。


 「ここが…『修練の塔』か……」


 眼前には天までそびえる巨大な塔が鎮座していた。

 多くの冒険者や腕の立つ実力者達がこの塔の頂点を目指し、そして半ばで断念していった。自分の隣で表情に緊張が走っているハルとソルの二人も過去にこの塔の攻略を諦めている。

 だがこの塔の頂点まで辿り着いた者達がかつて母の所属していたギルドに居た。しかしそれと同時にムゲンには1つ気掛かりな点があったのだ。


 あの時に母さんの言っていた言葉は一体どのような意味があると言うのだろうか……?


 かつての母の顔見知りだった1組の冒険者パーティーはこの塔の頂点まで至り、そして深い絶望を味わったと言っていた。何しろ『修練の塔』を攻略してすぐにパーティーは完全解散、更にメンバーは全員が冒険者を引退したのだから。


 ――『あの塔の頂点へと辿り着いて得られるものは〝絶望〟だけ』


 いったい彼らはこの塔の最上階まで行き何を目撃したと言うのだろうか……?


 とは言えここまで来て臆病風に吹かれるつもりはこの場の全員には無かった。あの第5支部の戦いでここに居る全員は誓ったのだ。今の自分を乗り越え更なる強さを得て見せると。もう……あんな悲しい思いをしない為にも……。


 「よし…行くか……」


 大きく深呼吸をしてムゲンが中へ歩み出していく。

 当然他の3人もこの場に来た時点で覚悟は出来ている。ムゲンの後に続き彼女達も『修練の塔』へと突入していった。



 ◇◇◇



 ついに『修練の塔』の内部へと踏み込んだムゲンだが奇妙な違和感を敏感に察知していた。


 「(何だこの視線……誰かに見られている…のか……?)」


 その違和感は塔の内部に踏み込むと同時に感じ取れた。

 まるで誰かにジロジロと見られる嫌な感覚が全身で察知したのだ。しかし不可解なのは視線は感じるにも関わらず〝気配〟が一切関知できないのだ。視線はあれど姿は無く、完全に矛盾する感覚に不快感が思わず顔に出てしまう。

 恋人達の方を横目で見てみると彼女達も同じ視線をしっかり感じ取っているのだろう。皆が不愉快な表情を隠す様子もない。そしてこの中でこの塔の経験者であるとソルとハルが不快感を含んだ言葉を漏らす。


 「この感じ懐かしいな。この誰かにジロジロ舐め回すかのように見られる視線……」


 「ええ…相変わらず気持ちが悪いですね……」


 どうやら以前訪れた際にもこの不快な視線を二人は常に肌で感じ続けていたらしい。

 確かに気色の悪い感覚だが原因が分からない以上はどうする事もできない。どこか居心地の悪い違和感はあるが二人曰くこの塔に居る間はこの視線を我慢するしかないらしい。

 原因も分からなければ特段実害もない以上はここで踏みとどまる訳には行かない。4人は突き刺すような視線を無視して塔の攻略を目指して進む。


 だが歩を進めてすぐにムゲン達の前に現れる影があった。何やら小さなモンスターの大軍がこちら目掛けて向かって来ていた。


 「早速歓迎してくれるみたいだ」


 「あれはキラーウサギ……確か群れで狩りを行う肉食魔獣の一種」


 まだ彼らが居るのはこの塔の入り口付近、この塔に出現するモンスターは上階に行けば行くほどそのレベルが比例して上昇する。だが逆に言えばこの低層階で出現するモンスターは今のムゲン達の敵ではない。

 ムゲン達に襲い掛かって来ているキラーウサギは群れで行動をするモンスター。一見すれば小動物チックで愛らしいがその凶暴性は人間にすら襲い掛かる。だが一番最下級ランクの冒険者ですら油断さえしなければ対処できる低級モンスターだ。


 「ここは私が!」


 そう言うとウルフが瞬時に弓を構え、その直後には矢を射り凄まじい速射を披露する。あまりの早打ちでキラーウサギ達はムゲン達の肉に喰らい付く事も出来ず全て撃ち抜かれてしまった。


 「(う~む、やっぱり射撃に関しては凄まじいなウルフは。昔こいつを無能だと蔑んでいた【異種族の集い】の連中はとんだ節穴だったとしか言いようがないな)」


 鮮やかな射撃の腕前にソルが内心で称賛を送りつつ、彼女を不当に扱い続けて来た【異種族の集い】の面々を非難する。


 無事に全てのモンスターを撃退したウルフだが一つ気になる点があった。それは射抜いて絶命させたキラーウサギ達の亡骸から煙が出て来たのだ。そのままキラーウサギ達の亡骸は溶ける様に塔の床に染み込んで綺麗さっぱり消えて行った。


 「モンスターが溶け、いや塔に吸収されただと?」


 目の前の現象に戸惑っているとソルが説明を入れる。


 「この塔に現出したモンスターは死ねばああして塔の中に消えて行くんだよ」


 つまりモンスターを生成しているのはこの塔自体と言う事なのだろうか? 当然だがソルとハルもそのあたりの事情は一切不明のままだ。


 改めてこの塔は不可解過ぎる。この塔の内部で戦死しても自動的に入り口へと戻され、更に内部に現れたモンスターの亡骸は血痕まで残さず塔に吸収される。まるでこの塔そのものに命が芽生えているかのようだ。


 「(まさかこの視線もこの塔が実は生き物で俺達を見つめているとか言うオチじゃないだろうな)」


 そう考えると少し鳥肌が立つ。だがここで引き返すと言う選択肢は頭の中に存在しない。


 こうしてムゲン達【黒の救世主】のレベルアップの険しい道のりが始まるのだった。



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