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過去編 その塔の頂点にあるものは……


 恋人達と共に帰郷を果たしたムゲン達はスーザン宅で腰を落ち着けていた。

 そしてムゲンは母親へと報告すべき悲しき事実を包み隠さず話していた。それは……幼馴染であるミリアナについての話だった……。


 「そう……ミリアナちゃんが……」


 彼女の死についての報告をするとスーザンの表情は悲しみに彩られた。まるで自分の娘の様に彼女を可愛がっていたスーザンからすればこの報告が重すぎる事はムゲンも理解していた。だからと言って隠し続ける事が正しいだとも思えなかった。

 

 「せめて……あの娘にはちゃんとお礼を言いたかったわ。ずっとムゲンを護ってくれていた事のお礼を……」


 この村での味方はムゲンにとって自分の母親だけだと思い込んでいた。だが真実は異なりムゲンの窮地を陰で救っていたのはスーザン以上に幼馴染のミリアナだった。もしミリアナが機転を利かさなければムゲンは最悪この村で村人達に殺害されていた可能性すらあった。

 こうして彼女の訃報を知らせると嫌でも彼女の死の間際を思い返してしまう。


 いくら乗り越えた悲しき過去と言えども脳裏によぎれば表情も悲しく歪んでしまう。するとスーザンがムゲンの事を自分の胸へと抱き寄せて包み込む。


 「辛かったわねムゲン……」


 「うん……でもさ、いつまでも腐っている訳にはいかないからさ。だから……こうして母さんにも事実を話したんだ」


 「そう……」


 抱きしめている息子の体が微かに震えている事に気付きスーザンの胸は更に締め付けられる。

 

 もしかしたらこの子独りだけではこの悲しい現実を許容しきれなかったかもしれない。この苦しみを耐え抜くことが出来た理由はきっと……。


 そこまで考えながらスーザンは横目でハル達を一瞬だけ見つめる。


 本当……良い娘達と出会えたのねムゲン……。


 きっと自分の息子がこの辛い現実に圧し潰されず前を歩き続けられたのは彼女達の存在のお陰なんだとスーザンは察し、心の中で3人の少女に感謝を送るのだった。

 そしてミリアナに関する話を全て終えるとムゲンは次の話題に入る事にした。


 「ところでずっと気になっていたけどアルメダはどうしたの?」


 この村に着いてから未だに姿の見えないアルメダの所在について尋ねると意外な答えが返って来た。


 「アルメダちゃんは今はこの村を出ているわ。少し所用でトレド都市の方へとね」


 「(商業都市のトレドへ行っている? もしかして……)」


 アルメダがあの都市へと赴く理由としてはやはり彼女の〝体〟を用意した〝あの人物〟に会いに行ったのだろうか? 

 

 何はともあれ現在はこの村の外に居ると言う事が分かりムゲンは最後の話題へと移る事にする。


 「アルメダの方は分かったよ。それでさ、実は俺達も俺達で少し向かおうとしている場所があるんだ。またしばらく母さんと会えなくなるかもしれないから一度顔を出したんだ」


 「あら一体どこへ……?」


 「俺達パーティーは『修練の塔』と呼ばれる場所に向かうつもりなんだ」


 ムゲンの口から出て来たその場所の名にスーザンは一瞬だけ険しい表情を浮かべたのだ。


 「どうしてあの場所へ…と言う質問は愚問かしらね」


 あの場所に赴く理由など限られてくる。その塔の名を示す通りあの『修練の塔』は自らの力を高める修練上なのだ。特訓の為以外にあの場所へ足を運ぶ物好きなどそうはいないだろう。

 だがスーザンはあの場所について少し気掛かりな事が1つだけあった。


 「もしかして母さんも『修練の塔』に挑んだことがあるのか?」


 自分の母もかつては一流冒険者だった事を考えるともしかして母も『修練の塔』の攻略に挑み、そして途中断念したのか思っていたが返って来た言葉は意外なものだった。


 「私はその塔へ足を運んだ事はないわ。ただ……まだ私が現役の冒険者時代にその塔の頂点まで登ったパーティーなら知っているのよ」


 「そ、それ本当の事ですか!?」


 スーザンの言葉に勢いよく反応を見せたのはこれまで無言だったソルだった。

 このメンバーの中でソルとハルの二人は『修練の塔』に挑んだ経験者だ。だがその過酷さから断念してしまいあの塔の厳しさを身に染みている。その塔の攻略した者が居るとなるとやはり気になるのだろう。


 「私とソルの二人はその塔に挑みましたが頂点まではとても辿り着けませんでした。その塔の頂点には一体何が……」


 ソルに続きハルも質問を投げかける。やはり彼女としてもあの塔のゴールに何があるのか気になるのだろう。


 だがその問いに対してスーザンから出て来た言葉は理解しがたいものであった。


 「その塔を攻略したパーティーはすぐに冒険者を引退したわ。実力者であるパーティーの突然の引退宣言にギルドの皆は当然理由を尋ねたわ。するとその中のパーティーでリーダーを務めていた人物はこう告げたのよ」


 ――『俺達は所詮ただの玩具だったんだ。あの塔に頂点に辿り着いた事で〝真実〟を知らされた。俺から言えることはただ1つ……あの塔の頂点を目指してはいけない。頂点へと辿り着いて得られるのは力なんかじゃない。ただの……〝絶望〟だけだから……』



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