過去編 恋人達はムゲンの故郷へ足を運ぶ
今回より過去編に突入です。番外編の『アルメダの第二人生』も並行して進めていきます。
最強の冒険者としてこのファラストの街で名を馳せているムゲン達一行ではあるが何も常に依頼をこなしている訳ではない。どんな優秀な冒険者と言えども休養は必要に決まっている。
この日は5人全員が自宅でまったりと過ごしているとふとした切っ掛けから過去話にへと発展した。
「そう言えば『修練の塔』でアイツは今頃何をしてんだろうな?」
ふと気になったソルの口から出て来たその言葉は特に深い意味もないものではあった。現に他の皆も適当に受け答えするつもりではあったがこの場でただ1人だけその話題に食いつく者が居た。
「ねえソル、そのアイツって誰のこと?」
ソルの発言に訝しむかのような表情を見せたのはアルメダであった。
「あっ、そうか…そう言えばお前はこの中で『修練の塔』に挑んでいなかったか。それなら誰の事を言っているのか分からないよな」
かつて【ディアブロ】第5支部での激闘後に己の無力を思い知ったムゲン達はとある場所へと足を運んでいた。その場所は『修練の塔』と呼ばれる場所であり、もしも頂点まで到達出来れば確実にレベルアップをなせる場所と言える。
ムゲン達【黒の救世主】は全員がその塔へと挑んだのだ。だがこのメンバーの中でアルメダだけはその塔に挑戦しておらず話題についていけない。
振り返ってみればアルメダにこの辺りの話を今まで詳しくしたことは無かったのでムゲンが語り出す。
「折角時間もある事だしいい機会だ。少し過去話でもするとするか。アルメダだけ知らないと言うのもあまり気分の良いものじゃないだろうしな」
そう言うとムゲンは今より2年前の自分達の激闘について話し出した。
◇◇◇
時間は2年前へと遡り、ムゲン達は『修練の塔』へと挑む前にとある村へと足を運んでいた。
長時間の移動を終えて間も無く目的地に着きそうなところでソルが口を開く。
「もうすぐ目的地に着くな。何だか少し緊張するなぁ……」
「別に珍しくもない静かで普通の村だよ。それに今は母さんともう1人以外に誰も暮らしていないしな」
「そのお前の母親と顔を合わせる事に緊張するって言ってるんだよ」
ムゲンの言葉に対してソルがそう返すと他の二人の恋人も無言で首を縦に振る。それに対して少し鈍いムゲンはズレた言葉を返していく。
「そんなに心配しなくてもウチの母親は穏やかな人だよ。息子の贔屓目なしでも優しい人だ」
「ほんっと、お前ってそう言う部分は鈍いんだなぁ……」
ソル達が緊張しているのは恋人の親と対面する事であってムゲンの母の人間性を心配している訳ではないのだ。まあ実際にどんな性格なのか気にはなるが……。
そんな察しの悪いムゲンの発言は置いておきついに村に到着した。
自分の想い人の育った故郷をその目にして彼女達が感じたイメージは〝閑散〟だった。
「(事前に話には聞いていましたが寂しい村みたいですね……)」
まるで人の気配が感じられないがらんどうの村を見てハルは内心でそう思う。事前にムゲンから話を聞いてはいたがいざ現地に赴くとこの静寂さが不思議と寂しく感じた。
「(でも……この村の人間達は大半がムゲンを迫害し続けていた人達だった……)」
何とも皮肉な話だろうか。自分の愛する人を集団で追い詰めていた人間達が誰も居ない事に安堵している、そんな自分が居る反面でこの活気のない村の雰囲気を物悲しく思う。
そんな事を考えているとウルフが口を開く。
「誰かが近付いてきている……」
この中の唯一の亜人である狼女の発達した嗅覚が近づく人影にいち早く気付く。とは言えこの村に今いる人間は限られている。
ウルフの言葉でソルとハルの二人の顔にも緊張が浮き出る。ついにいつかは訪れるであろう顔合わせの場面を前に思わず鼓動が速まる。
そしてウルフの予告通り1人の女性が近づいてくる姿を全員が視認した。相手の方もムゲン達に気付いているようで優しい微笑みと共に話しかけて来た。
「お帰りなさいムゲン」
息子の帰郷にスーザンは笑顔で迎えてくれた。そのとても暖かい笑顔と共に自分を出迎えてくれた母を見てムゲンの顔にも思わず笑顔が浮かぶ。
「ただいま母さん」
そう言うと二人は互いに優しく抱きしめあう。そのしばしの抱擁を終えるとスーザンが次に注目したのは後ろで控えて居たハル達3人だった。
「ところでムゲン…もしかしてその娘達があなたの言っていた……」
「うんそうだよ。この娘達が同じパーティーの仲間で…その……俺の大切な人達だよ」
以前帰郷した際に既に話していたが改めて彼女達をムゲンが紹介した。
「初めましてお嬢さんたち。ムゲンの母のスーザンです。息子がお世話になっているみたいで……」
「あ、いえその、こちらこそムゲンさんには本当に色々と救われておりますですハイ。自分はソル・ウォーレンと言う者ですハイ」
先に丁寧に頭を下げられて思わずソルが変な口調で応対する。そのしどろもどろな反応に思わず後ろで緊張していたハルとウルフも吹き出してしまう。だがソルの醜態のお陰で緊張もほぐれ残る二人は比較的落ち着いて自己紹介を述べる事が出来た。
「初めましてハル・リドナリーと言います。その、ムゲンと同じパーティーの仲間であり…恋人です」
「わ、私はウルフと言います。ムゲンに助けられてパーティーに入れてもらいました。それで、同じく恋人の1人です」
「あらあらこんな可愛いお嫁さんを3人も連れて来るなんてうちの子も罪な子ね」
おどけた口調でそう言いながらムゲンを見るスーザンの言葉に一同はそれぞれ顔を見合わせながら羞恥心で頬を染めるのだった。
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