狙われるのは誰だ?
ホルンの見舞いを終えて帰路についている道中、思い出したかのようにソルが先程ギルドで見たある光景についてムゲンに話を振っていた。
「そう言えばギルドで仕事の報告していた時に久しぶりにアイツを見たよ」
「アイツ? 一体誰のことだ?」
「ウチのギルドの問題児Sランク《剣士》だよ」
その表現でもう誰の事を言っているかは理解できてしまう。【ファーミリ】のギルドの問題児、ましてや自分達と同じSランクとなれば必然とも言える。
「ファル・ブレーンか。またアイツが何か下らない事で絡んで来たか?」
初めてムゲンがあの男と顔を合わせた時にはSランクに相応しいか否かを確かめる為と言って襲い掛かって来た過去がある。また何か下らない因縁でも付けられたのかと思ったがどうやら彼女が気になっているのはファルの現状についてらしい。
「もうギルド内でも噂にはなっていただろ。アイツがチームを組んだこと」
「ああその話か。俺もその話を耳にした時にはにわかに信じがたかったが事実らしいな」
あの孤高の凶戦士と呼ばれる男が誰かとパーティーを組んだと言う話はギルド内を密かに湧かせた。とは言え同じSランクと言うだけで基本は接点の無いムゲン達も特に話題に出さなかったのだが、どうやら偶然にもギルド内でソルがその件のパートナーと一緒に居る現場を目撃したらしい。
「驚いたことにパーティーを組んだ相手が大人しそうな女性だったんだよ。でもそれ以上に驚いたのはアイツの見せた顔だったかな」
「ん、それはどういう意味だ?」
「ほんの一瞬だったんだけどさ、アイツ笑ってたんだよ。今まで感情の感じさせない無表情を貼り付けていたアイツがあんな顔を作れたなんてな……」
その話はムゲンにも少なからず驚きを与えた。いつも同じ無表情しか見てこなかった立場からすれば笑顔を見せたファルの顔とやらは思い浮かべる事が難しい。
そんなギルド内での一幕を機に雑談を繰り広げていると我が家に到着していた。すると玄関手前の庭先でバッタリとハルと鉢合わせする。
「お帰りなさい二人とも。ホルンさんの様子はどうでしたか?」
出迎えの挨拶と共に二人にホルンの容態に変化があったかどうか尋ねる。だが二人揃って首を横に振る姿を前にして小さな声で『そうでしたか』と呟いた。その顔はムゲンやソルほどでないにしろ少し悲し気に見えた。
場の重い空気を払拭しようとハルがわざと声のボリュームを上げながら二人に話しかける。
「二人がそろそろ帰って来ると思ってウルフが食事の用意を済ませてくれていますよ」
「おおそうか、ほらムゲン早くご飯にしようじゃないか。私も仕事終わりで腹が減ってるからな」
ハルの気遣いを察してソルも同じく表情を明るくするとムゲンの背中を軽く叩く。
実際に自分達がいつまでも引きずり続けても意味など無い。それを理解しているからこそムゲンも二人にならって笑顔を見せる。
「そうだな、それじゃあ食事にするか」
そう言いながら3人は周囲の暗い雰囲気をすっかり払拭する。そのまま自分達のホームへと戻るのだった。
◇◇◇
ムゲン達によって攻め込まれたアジトはすっかりと崩壊し瓦礫の山と化していた。最強パーティーが暴れたその現場には生き残りはおらず、このアジトで非道を働き続けたクズ共の亡骸も既に回収されいる。
この闇ギルドが壊滅し、王国の騎士の調査から四日後のことだ。荒れ果てたアジトの跡地現場に1人の人物が足を運んでいた。
「また取引先が撲滅されている。これじゃボスの機嫌がまた悪くなるよ」
静寂の中でそう独り呟くのはこの場には似つかわしくない1人の小柄な少女だった。
その少女の目先には戦闘の名残である血痕が点々と見られるが特に怯みも見せない。それどころかフードで隠されているが隙間から見える瞳には感情そのものが宿っていなかった。
しばし壊滅状態のアジトを散策し終えると彼女はその場を立ち去ろうとする。だがその時に背後から複数人の気配を察知して振り返る。
「おいおいどうなってんだよ? 何でアジトが壊滅してんだ……」
この場に現れたのはデチオのギルドに所属していた残党だった。彼等は他の闇ギルドとの取引の為にここ一週間ギルドの外で活動を行っていたので戻って来てギルドが崩壊している惨状に驚いていた。そんな中でポツンと1人居る少女が目につかない訳もなく残党の1人が低い声と共に歩み寄って来た。
「おいガキぃ…テメェは一体何だ? この場所で何を……」
多少の薄気味悪さがあるとはいえ所詮は子供と侮り残党の1人が無防備に近寄って行く。
だがその男は最後まで言葉を言い切る事も出来ずにこの世を去った。
「あえ?」
それは本当に一瞬の出来事だった。自分の目の前の少女が消えたと思った直後に腹部に凄まじい熱が灯った気がした。腹部から生じた熱に疑問を持ち視線を下に向ければ消えた少女が懐に居た。そして……その短い腕から伸ばされた手刀が自分の腹を貫いていた。その光景を目の当たりにすると男はグルンと白目をむいて口から吐血と共に息を引き取った。
「な、何だぁ!?」
「ぶっ、ぶっ殺せ! きっとコイツがこのギルドをやったんだ!!」
仲間が殺された事で目の前の少女がただの子供でないと悟り残党共が一斉に武器を構える。
だがこの男達の抵抗は結局無駄に終わった。数分後に崩れた瓦礫の上には残党共の亡骸が乱雑しており、その惨状を作り上げた少女は指に付着した返り血を舐める。
「これがこのギルドのレベルかぁ……弱いなぁ……」
この少女はエビル王国内で暗躍している闇ギルド【パラダイス】の子供兵であり、今回はボスであるミューマの指示でここまでやって来ていた。だが彼女にはもう一つの『ある任務』が課せられていた。
「さて……行こうかな……」
彼女はライト王国内に存在する冒険者ギルドの1つ【ファーミリ】の〝とある人物〟の抹殺命令を受けているのだ。
こうしてライト王国内に巨大闇ギルド【パラダイス】のNO3が侵入する事となるのだった。
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