もういい加減に幸せになってもいいだろう……
今回はかなりの重大発表があります。是非とも活動報告も見てください。
S難易度の依頼を無事に完遂したムゲン達は自分達の拠点であるファラストの街へと戻っていた。一度【ファーミリ】のギルドに戻り今回の仕事完了の報告をしなければならないのだがムゲンはその役目を仲間達、いや恋人達に頼んでとある場所へと向かっていた。
彼が向かった先はとある診療所だった。時間があれば彼は時折様子を見に来ているのだ。かつての自分の仲間が目覚めているかをこの目で確かめる為に……。
「やはりまだ目覚めていないんだな……」
案内された病室には二人の人物が全身にチューブを付けられ昏睡していた。以前訪れた時と何も変わりの無い痛々しい姿にムゲンは眉を寄せる。
視線の先でベッドの上で眠りについているのはかつては同じ【真紅の剣】のメンバーであるホルンとその恋人であるカインだった。
もう互いに別のパーティーと共にそれぞれの道を進んでいたムゲンではあるがそれでもかつての仲間の悲報を耳にして定期的に様子を伺い続けていた。だが病室に来るたびに何も変化の無い意識不明の彼女を見ると胸がズキリと痛んでしまう。
「どうしてお前はこうも辛い目に遭わなきゃいけないんだろうな。もういい加減……幸せになってもいいだろうに……」
このセリフを自分が口にするのは本来ならおかしな話なのかもしれない。なにしろ彼女は一度は自分を裏切ってパーティーから追放した1人、その過去を決して忘れたわけではない。だがそれでも彼女はもう十分すぎるほどに反省と後悔をした事もちゃんと知っている。だからこそホルンには心から幸せを享受して欲しいと心から願った。
それが……どうしてこうなるんだろうな……。
心から自分の過ちに苦悩し、そして支えてくれるカインと幸せになる未来を掴む事ができたはずだった。だがその幸福をこんな形で奪われる、これではまるでホルンが幸せになる事が許されないみたいではないか。
この2年間でムゲンは【真紅の剣】時代とはもはや比べ物にならないほどに強くなれた。だがそんな力も今の昏睡している二人には何の意味も持たない。
こうして見舞う事しかできない無力感に苛まれていると病室の扉が開いた。
「やっぱりここに居たんだなムゲン」
「ソル……」
現れたのは恋人兼同じパーティーの仲間のソルであった。
「お前どうしてここに? 他の皆と先に家に戻ったんじゃ……」
「そう言えば話した事なかった。実は私もたまーにここへ顔を出してるんだよ」
実はムゲンと同じくソルもまたホルンの様子を伺いに暇があればこの場所に足を運んでいた。
ちなみに補足だが今のムゲン達は既に宿を出て冒険者稼業で蓄えていた金でそこそこ大きな一軒家を購入し、自分と恋人達の5人で共同生活を送っている。
「ハル達はギルドに依頼完了の報告の後は一度家に帰ったよ。私だけは帰宅せずここまで来たってわけだ」
そう言いながらソルは眠り続けるホルンの頬を優しく撫でる。
「まったく、いつまで寝てるつもりだホルン。いい加減に夢から覚めろよ……」
そう言うソルの表情には悲しそうな笑みが浮かぶ。
かつては恩人であるムゲンを理不尽に追放した【真紅の剣】の面々にソルは怒りを覚えていた。だがそれは過去の話、今のソルにとってホルンは〝友人〟なのだ。だからこうして友達の見舞いに来る事を彼女はおかしいとは思わない。当然ムゲンだってソルの行動に疑問は持たず、むしろありがたいとすら思っていた。
「ありがとなソル。こうしてこいつを心配してくれる人が自分以外に居ると思うと救われるよ」
「何でお前が礼を言うんだムゲン? 私がやりたいからやっているだけだ。それに…こんなことぐらいしかできないからな……」
今でもホルンとカインを苦しめている存在、【ユーズフル】のギルドマスターだと正体こそ判明している。だがそれ以外の情報は現状何も得られていない。
二人は常に闇ギルド【ユーズフル】のギルドマスターから魔力を搾取され続けている。いくら救命魔道具で吸収された分の魔力を補給しているとは言えこのままではいづれ二人は……。
ふとソルがある人物について気になりムゲンに質問をする。
「そう言えばセシルはまだ一人で仕事を続けているのか? いくらこの二人以外と仕事がしたくないからと言ってチームで活動をしていたやつがずっとソロじゃ……」
「ああそれなら心配ない。俺もセシルの方も少し気になっていて彼女の移籍したギルドに話を聞きに行ったんだよ。そしたらつい最近になって彼女もチームを組んだらしい」
その報告を聞いて少しだけソルも気の抜けた顔を見せる。
この二人がこんな悲惨な状態となって一番苦しんでいるのは間違いなく同じ【不退の歩み】のメンバーである彼女に違いない。だがそんな彼女にも信頼できる仲間ができたと思えると胸の不安が少し晴れた気もした。
「なあホルン、いつか……その新しくできた仲間とお前達が仲良く話をしているところを見せてくれよ。じゃあ…また来るからな……」
そう言いながらムゲンとソルはその場を後にする。
二人が背を向けた際、ホルンの閉じた瞳から一筋の涙が流れた事に二人は気付かなかった。
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