街中デートと逆恨み
S難易度の依頼を終えてからもムゲン達はいくつもの依頼をこなし続けた。
ここ最近ではムゲンも周りの冒険者からは認められつつあるようで最近では陰口も耳にしなくなった。
だがその代わりに【真紅の剣】に関する悪い噂がギルド内では溢れていた。聞けばどうやらホルンも【真紅の剣】を脱退したようで残ったマルクとメグの二人はかなり切羽詰まっているらしい。風の噂ではもう宿代を支払う事すら危ういとか……。
とは言えここで自分がどうこう言ってもどうしようもないことだ。結局はホルンの様に自分で気が付かなければ意味がない。
落ち目の【真紅の剣】とは違い【黒の救世主】の名はどんどん広まって行く。だがさすがにここ最近では仕事ばかりと言うことで懐事情も安心なのでしばらくは仕事休みを三人は取る事にした。
その休みの日を二人の乙女は最大限に利用しようとムゲンへあるお願いをした。
「で、でーと?」
「そうだ、もうそれなりに一緒にチーム組んで経つんだからそれぐらいいいだろ?」
宿の食堂で出された朝食を食べながらソルの予想を上回る頼み事にムゲンは思わず箸を止めてしまう。
隣で一緒に朝食を食べていたハルもソルと同じく期待するかのような瞳でキラキラとした瞳でムゲンを見つめる。
二人の美少女から期待される様な眼で見つめられ固まってしまう彼は何とかこう振り絞る。
「あ、あ~はいはい。つまり買い物に付き合ってほしい的なあれね」
「「そんな訳ないだろ(です)!!」」
この期に及んでそんな誤魔化しは認めないと言わんばかりに二人はバンッとテーブルを叩いて身を乗り出してくる。
ぐっ、やはり見え見えの誤魔化し方だよな。それに二人は俺を好きだと言ってくれてる訳だしこの流し方はかえって失礼か……。
別にムゲンとしては二人とデートする事自体が嫌と言う訳ではない。こんな自分にも優しくしてくれた二人ならむしろ大歓迎だ。だが彼は未だに二人の想いに答えを出せずにいた。もしも二人の告白を真剣に考えそして一人を選んだとしたらどちらか一人は泣いてもらうことになるのだ。
「(どちらかと交際してどちらかを諦める。そんな選択俺にはとても…)」
ましてや同じパーティー内の人間同士、それも男1人と女2人だ。下手をしたら亀裂が入りかねない。
とは言え二人はムゲンにとっては恩人にも等しい。彼女達が手を差し伸べてくれなければムゲンは今も独りで冒険者稼業を続けていたことだろう。だからできる事なら二人の願いは叶えてあげたい。
「分かった。まあ元々今日は仕事も休もうって決めていたしな。その…デートするか」
ムゲンからはっきりとした言質を取った二人は天真爛漫な笑みを浮かべて内心でガッツポーズを取っていたのだった。
ムゲンにとっては急遽決まってしまったデートではあるが誘った二人側は違う。実はムゲンに隠れて前々からこの計画を立てていたのだ。いつも腕を組んで一緒に歩いたり、彼の寝ているベッドに潜り込んだりとしてきたが中々関係が進展せず二人は日々モヤモヤしていた。
ずっと彼を慕っていた二人からすれば同じパーティーの『仲間』と言う関係だけでは満足できなかった。もっと先の関係に進展したいと、悪く言えば欲望を抱き続けていた。
朝食を食べ終えてデートの為に支度をすると言って食堂を後にするハルとソル
二人は食堂を出てムゲンの目から見切れると小声で作戦を伝え合った。
「分かってるなハル? このチャンスを無駄には出来ないぞ」
「分かっています。ここでぐっと距離を縮めなければなりません」
強引ながらも取り付けることのできたデートの約束、この最大のチャンスを二人は最大限に活かす為にその瞳はまるで肉食獣のように怪しく輝いていた。
◇◇◇
「「お待たせしました(待たせたな)」」
「お、おおう」
二人の姿を見てムゲンは少し息をのんだ。
デートと言うこともあって二人は相当気合を入れてきたのだろう。いつもの様なビキニアーマーや魔法使いを連想させる服ではなく如何にも若い少女しか着用できない服装なのだ。しかも狙っているのかハルはひらひらのスカートや袖の短い衣服。それにソルは少し大胆で胸元が開いており谷間が見えている。
Sランク冒険者であると同時にSランク美少女の二人の眩い姿に上手い誉め言葉が出てこずありきたりな誉め言葉がついつい出てしまう。
「その…二人とも綺麗だな」
我ながら何とも臭いセリフを吐いていると自覚はあるがそれでも彼に惚れてる二人からすればそんな陳腐な言葉も最高の誉め言葉だ。
思わず緩みそうになる頬を必死に取り繕って二人はムゲンの手を掴むと早速街に繰り出した。
両手に超が付く美少女を連れて歩いているとやはり嫉妬の視線を向けられる。だが向けられる視線の中には明らかにいつもとは違う毛色のものが含まれていた。何というか…こう、憧れみたいな視線がちらほら混じっている気がする。
「(ただの自惚れかもしれないが……)」
何となく気にはなりこっそりと魔力で肉体強化を施し聴力を高めてみる。するとすれ違う人間の中にはこのような類の発言がちらほらと混ざっていた。
「あれって【双神】と呼ばれていた二人だよな。そんなSランク冒険者をあんな虜にして何者だよあの男?」
「知らねぇのか。あの真ん中の男がパーティーに入って今は【双神】じゃなくて【黒の救世主】って呼ばれるパーティーに改名したんだよ。それで聞けばあいつって元居た【真紅の剣】ってパーティーで無能扱いされていたらしいけど実は有能だったらしい。それであのSランクの二人にパーティーに勧誘されたらしいぜ」
「この町のギルドの最強角の女二人を魅了するなんて並大抵の冒険者にはできない事だよな? あの男ってマジで何者だよ?」
おいおい…なんだか俺の評価が変な方向に向かい始めてないか?
確かにこの頃は他の冒険者からは『無能』扱いもされなくなったがだからと言って自分がハルとソルを魅了したと言うのはいただけない。むしろ逆、自分はこの二人に救われたのだ。
だが町の人間のこの評価はソルやハルにとってはむしろ喜ばしいことであった。
「何だか最近は町の連中もムゲンに対して的外れな評価をしなくなってきたな」
「そうですね。ようやくムゲンさんを正当に見てくれるようになって私達も安心です」
どうやら自分と同じように二人も聴力をちゃっかり強化していたようで町の人間の囁き声を拾っていたようだ。
それからも3人で街の中を色々と歩き回った。
ハルと一緒に洋服店で二人の似合いそうな衣服を選んだり、ソルと一緒に歩きながら屋台で食べ歩きなどしたりと気が付けばムゲンも最初は緊張していたがすっかりとデートを楽しんでいた。
そんな彼等を背後から恨めしそうに見ている人物が居た。
「くそ…何でテメェはそんな楽しそうに笑ってんだ? こっちはこんなにギリギリまで追い込まれているってのに……」
微笑ましく笑いあうムゲン達を物陰から見ていたのはマルクであった。
彼はギリギリと歯ぎしりをしながら幸せそうなムゲンの顔を見て憤怒に包まれていた。
「許せねぇ。俺だけこんな惨めな思いなんて許せねぇ。ふざけやがって……」
そう言う彼の目には危うい光が宿っていた。そしてその手には彼の炎剣が炎をメラメラと纏って握られていた。
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