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《聖職者》アルメダ


 先陣を切ったソルに続きムゲン達もアジトに突入すると次々と湧き出る敵を殲滅していく。その光景はもはや一方的な蹂躙とも言え、褒美欲しさに最初は息巻いていた敵も今では完全に腰が引けていた。


 「こ、こんな奴等に勝てる訳ないだろ!」


 「クソっ、甘い汁だけ啜るつもりでこのギルドに入ったんだんぞ! こんな目に遭うなら割に合わねぇ!!」


 敵兵の中にはこのアジトから退散しようとする輩まで出て来る始末。所詮は自分の利だけで動く烏合の衆に過ぎない連中なのだ。心からこのギルドの為に命を懸けようなどと思っている輩は居ないのだ。

 だがアジト内の人間全てが弱腰とは限らない。やはり中にはこの状況でもまだ戦意をみなぎらせている者もいた。


 アジトを放棄して逃げ出そうとする兵隊達の行く手を1人の大柄の男が通せんぼした。


 「おいおい一体どこに逃げるつもりだ? 敵前逃亡なんてデチオさんが許す訳ねぇだろうが」


 「ぐっ、俺達は楽に金を稼げりゃよかったんだ! こんな勝ち目のない戦なんざできるかぁ!!」


 突如現れた大柄の男は小さな溜息を吐くとまるで諭すかのような口調でこう告げる。


 「このギルドがなくなれば結局は新しい稼ぎ場所を探さなきゃいけないだろうが。このギルドほど割のいい仕事が見つからなかったらどうすんだ」


 「なっ、お、お前何する気……ぎゃああぁぁッ!?」


 男は凄まじい速度で背中に背負っていた斧を手に取ると自分に意見して来た男の脳天目掛けて振り下ろす。

 味方からのまさかの行動に悲鳴を上げながら防御を取ろうとするが間に合わず男は哀れにも頭部を刃で割られてしまう。


 「とゆーかさっきからお前等誰に向かって口きいてんだ? このギルドのNO2であるこの《黒魔術師》様にむかってよぉ」


 目の前で仲間を平然と殺すその狂気に逃げ出そうとしていた兵達は完全に委縮してしまう。

 それよりもムゲン達が気になったのはあの男の言っていた言葉だ。奴は自分を《黒魔術師》と言っていたが……。


 「さて侵入者諸君、調子づくのは今の内だぜ。相手が悪かったなぁ……生憎だが俺様は死者を蘇らせれるんだよ!!」


 陰湿な笑みと共に語気を荒げながら男はこの部屋の床に巨大な魔法陣を展開した。その魔法陣から溢れ出る怪しげな光が部屋全体を包むと同時、ムゲン達によって完全に撃破されたはずの〝死体〟が呻き声と共に立ち上がったのだ。


 もう命の灯が消えた死体が動き出し周り敵側の人間達は驚いている。だがムゲン達はその悍ましい光景を前にしても動じない。

 冷静に目の前で起きている現象を確認しながらムゲンがそっと呟いた。


 「この力は……ネクロマンシーによるものか……」


 「へえあまり驚かねぇんだな。その通り、俺の手にしたこの職の前じゃ戦う兵隊なんざいくらでも再利用できんだよ」


 既に命の無くなった肉の塊を無理やり操って使役するネクロマンサー。利用されている屍は全員このアジトに居た外道だけとは言え、もう死んだ者を戦闘で利用する行為は見ていて気分の良いものではない。

 特に一番嫌悪感をむき出しにしているのはハルとソルの二人だった。


 「随分と嫌な記憶を掘り起こしてくれますね」


 下品な笑い声と共に死者を冒涜する行為を前にハルの記憶にかつての【ディアブロ】のアラデッドの所業を思い出してしまう。特にソルに至っては自分の恩師を同じ方法で弄ばれていた忌まわしい記憶まで蘇り下唇を噛む。


 「流石は闇ギルドに自分から身を置くクズだな。まあお陰で容赦なく切り刻めるんだけどな」

 

 そう言いながらソルはドラゴンキラーの剣を握りしめて《黒魔術師》へと殺気を叩きつける。

 

 「はっ、切り刻めれば良いけどな」


 ソルの放つ殺気に一瞬怯えを見せる男だが自分を護るべく死人を前面に展開して盾を作る。

 

 「決して死ぬことのねぇこの軍勢を突破できるもんならしてみろよ。おら、お前達もゾンビになりたくなきゃ命削って戦えよ」


 男の言葉に逃げ腰だった兵隊達は再びムゲン達へと向き合う。もしここで拒否しようものなら自分達も殺されてゾンビとなり利用されると思ったからだ。それを証明するかのように先程反論して頭を割られた男も口から涎と血を垂らしながら盾の1人として動かされていた。


 「さあゾンビ共! ソイツ等に襲い掛かれ!」


 《黒魔術師》の命令を受けた直後に死人達は一斉にムゲン達へと向かって行く。

 数にものを言わせた物量で圧し潰そうとする敵に対してソルとハルが身構える。しかしそんな二人の前に《聖職者》であるアルメダが先頭に立つ。そして自身の武器である〝メイス〟を迫りくるゾンビの大軍に突きつけた。


 「死者を道具として使役する行為、万死に値するわ。特に元怨霊である私からすれば猶更ね……」


 アルメダの武器であるメイスは純粋な打撃系の武具としてだけでなくハルの持つ魔杖のように魔法を補助する魔道具でもある。

 

 「迷える魂を黄泉に誘え……<聖なる光>発動……」


 突きつけているメイスの先端から眩い光が死人達を包み込む。その直後にゾンビ達はまるで塵の様に一気に体が崩れて行く。


 「なっ、これは浄化系統の魔法か! だ、だが俺はゾンビに浄化耐性を付与しているのになぜ!?」


 「決まっているじゃない。根本的に私とアンタに実力差があるからよ」


 「なっ、いつの間に……」


 自分の作り出したアンデッド兵が文字通り一瞬で消されてしまい狼狽えている間にアルメダはもう懐まで迫っていた。

 

 「その腐った脳みそにショックを与えてあげる」


 その言葉と共に彼女は振り上げていたメイスを強化した腕力で《黒魔術師》の頭部に叩き下ろす。

 その一撃を斧で防ごうとするがすでに遅し、もう彼女のメイスは脳天一歩手前まで迫っており、そして抗う事もできずに頭部の肉が爆ぜ骨が砕ける音が響く。


 「あぎっ……」


 「そのまま大人しく死んで行きなさい。もし化けて出るなら私がもう一度殺してあげる」


 まるで氷のような眼とその言葉に《黒魔術師》は死を自覚する事もなく恐怖したままこの世から退場していった。



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