とある王国の闇が動き出す……
次回から新章突入です! ようやくムゲン達を物語に出すことが出来る……。
ファルとの取引によりアマダは彼の所有物となり、その日以降から彼女の生き方は大きく変化した。
これまで孤児院と言う戦闘とは無縁の世界で生きて来た彼女であるが彼の隣に居るようになってからは仕事場の環境も大きく変わった。
まず彼女は彼が所属している冒険者ギルド【ファーミリ】に登録し正式に冒険者となったのだ。とは言えこれまで戦闘とは無縁の人生を送って来た彼女がSランクのファルの仕事に同行など基本はできない。当たり前だが彼女がこなす依頼は薬草採取など新人冒険者が行うものばかりだ。
だがアマダはこのギルドに加入した初日からある意味で有名人となっていた。
その理由はこのギルドで孤高の戦士として有名だったファル・ブレーンの相棒だからだ。あの他者に関心を抱かない男とチームを組むだけで目立つのも無理は無かった。それを抜きにしても中々に男を魅了する魅惑的な見た目から一部の男性冒険者に邪な眼で見られる事もあった。
さて、少し話はそれてしまったが現在の彼女は冒険者と言う職業に身を置いているが彼女がファルから与えられた使命は戦闘ではない。主に彼女の行う仕事は薬草採取など本当に簡単な仕事ばかり、では彼女はこのファラストの街で何をしているのかと言うと……。
「あっ、お帰りなさい。今ご飯用意できていますからね」
「ん、お腹、すいた」
今日も高難易度の依頼を無事に達成したファルは自分の生活している宿に戻ると1人の女性が彼を出迎えてくれた。
温かな食事と共に柔和な笑みで声を掛けて来たのは一緒にチームを組んでいるアマダだ。
ファルとチームを組んでから彼女の主な仕事は彼の身の周りのお世話となりつつあった。
別段ファルの方からこのような雑務を命令した訳ではなく彼女が自ら望んでこのように尽くし始めたのだ。彼はあくまでアマダと言う人間を知りたいだけであり彼女に何かをしてほしい訳でもなかった。事実ファルは彼女と言う人間に興味が無くなれば解放するつもりだった。
だが気が付けば彼女によって身の回りの世話を焼かれていた。
「毎日こんな食事ばかりじゃ駄目ですよ。もっと栄養面も考えないと」
「お部屋が随分と汚れていますね。ええっ、もう三ヶ月も掃除してない!? 今すぐ綺麗にします!!」
「今日もお仕事ご苦労様で……ああ怪我してるじゃないですか! 今手当てするので座っていてください!!」
自分にとっては気にも留めない部分を常に指摘する彼女の行動は煩わしかった。だがそれ以上に彼女を傍に置いてからの生活は新鮮な出来事が多かった。
いつも料理なんてしなかった。栄養補給が目的の行為で『美味しい』と思う事が新鮮だった。
部屋の掃除など必要ないと思い放置し続けていた。だから綺麗に掃除された部屋が何故だか居心地が良かった。
怪我なんて冒険者生活の中では当たり前のこと。だから大した傷でもない限りは唾でもつけておけば治ると放置していた。そんな自分の怪我を親身になって心配されるとむず痒くなる。
今までひとりぼっちで生き続けて来た彼にとってアマダとの共同生活は新しいことの連続だった。
そして……自覚はないだろうがアマダのお陰で彼はふとした時に口元に笑みが浮かぶ頻度が増えて行った。その時に垣間見せる彼は最凶の冒険者でなく、ただ普通の年相応の青年のものだった。
◇◇◇
ライト王国から離れ、その間にある商業都市であるトレド都市から更に北東方角の『エビル王国』、その国の中にはこのライト王国同様に多くの冒険者ギルドが点在する。だがその国には表舞台には決して顔を出さない〝闇ギルド〟が密かに活動していた。
「……以上が今回の1件についてのご報告となります」
執事服を連想させるような服装と共に眼鏡を掛けた女性が目の前の女性に報告をしていた。
一瞬男性と見紛う容姿の彼女が行っていた報告、それは長年契約を結んでいた闇ギルド【チェーン】の壊滅についての内容だった。
「ギルドの者達は皆殺しにされていたので断定はできませんが恐らくは正規ギルドの仕業とは思えません。高確率であの【ダークネス】達の仕業でしょう」
「はぁ~……契約を結んでいるギルドが潰されたのこれで3件目よ? 闇ギルドが闇ギルドを襲うなんて不利益しか生まないと気付いて欲しいものね」
自身の髪の毛の毛先をくるくると指に巻きつけながらその女性は大きく溜息を吐いた。
その女性には大きな特徴があった。彼女の頭部から生えている猫耳、それは彼女が亜人である事を証明していた。
ピコピコと両耳を動かしながら彼女は忌々しいギルド名を口に出す。
「ほんっと、目障りだねぇ【ダークネス】の連中は」
「調べによれば奴らは元【ディアブロ】の構成員が大半です。かつては裏世界最大の闇ギルドに所属しておいてどんな心境の変化なのでしょうね? まさか今更善行を積めばやり直せるとでも思っているのでしょうか?」
「別に【ダークネス】の連中の信念なんてどうでもいいよ」
そう言うと女性は猫耳をピコピコと揺らしながら小さく笑うと足元で転がっている〝亡骸〟を踏みつけながら次の言葉を述べる。
「こっちも面子ってもんがある訳だしね。いい加減に私達から仕掛けるのもありかもしれないわね。そうは思わないロイヤー?」
そう言いながら彼女は自分の右腕たる女性の名前を口にする。それだけでロイヤーは瞬時に主の意図を察しその場で頭を下げながら返答を返した。
「畏まりました。それでは【ダークネス】壊滅の為の兵を招集します」
「察しの良い部下を持って私は幸せよ。ああそれから新しいストレス解消の玩具も持ってきてくれる?」
「畏まりました。それでは次は簡単に壊れぬ玩具をお持ちします」
「よろしくねぇ……ふふっ、私達闇ギルド【パラダイス】にちょっかいをかけたらどんな悲惨な目に遭うか【ダークネス】の偽善者達にはその身をもって知ってもらおうじゃない」
もう動かなくなった亡骸をつま先で無造作に転がしながらこの闇ギルド【パラダイス】のボスであるミューマは怪しげに笑うのだった。
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