家族の条件
そろそろこの章も終わります。そして次の章ではいよいよ主人公達の物語を再始動させるつもりです。
半ば攫われるような形で壊滅した【チェーン】のギルドから離脱したファルはしばらくはアマダを担いだ状態で移動を行っていた。
「あ、あのそろそろ降ろしてください」
最初は色々と驚きの連続で呆けていたアマダであったがここに来て今の自分の体勢に羞恥心を持ち始める。いくら人目が無いとは言え男性にこんな担がれ方をされ続けられたら恥ずかしさも芽生えてしまう。
特に異論もないので適当な場所で停止するとそのままアマダを解放してやる。
ようやく地に足を付けた彼女はゆっくりと背後を振り返る。
もう視界に映り込まない【チェーン】のアジトに取り残された子供達に対して彼女は心の中でそっと謝った。
「(ごめんなさい。結局お別れも言えないままで……)」
もしかしたら今頃は自分が連れ去られ泣いている子もいるかもしれない。そう考えると胸がズキリと痛んでしまう。
ただあの【ダークネス】と呼ばれる人達は必死になって子供達を救出してくれたのだ。彼女達ならばあの子達を安全な場所まで送り届けてくれるだろう。
自分の意識が脱出したアジトの方角に向いている事に気が付いたファルはずっと気になっていた質問をぶつけてみた。
「ところで、あの子供達、お前の何?」
「……私の〝家族〟ですよ。そして私にとっての弟や妹でもあります……」
あのアジトに連れ攫われた子供達は〝とある国〟の中で経営されていた小さな孤児院の子達だったのだ。そしてアマダはそんな身寄りのない子供達にとって〝親や姉〟のような存在だったのだ。
「私は幼い頃に両親に捨てられました。そんな私を引き取ってくれた所が【家族の園】と言う孤児院だったのです。家族に捨てられた私はあの施設のお陰で第二の人生を踏み出すことが出来ました」
自分がこの世でもっとも信頼していた家族に捨てられたアマダは施設に入所した当時はかなり荒れていた。他の子供達にはよく八つ当たりをし、時には盗みなどを働き施設の人間達に迷惑を掛け施設内でも他の子供達からは煙たがれらていた。
だがそんな彼女を施設長のコナーと言う女性だけは決して見放さなかったのだ。
「親に捨てられたショックから私は自分を拾ってくれた施設に何度も迷惑を掛けました。ですがそれでも施設長のコナーさんだけは私を愛し続けてくれました」
幾度注意を繰り返しても問題行動を止めようとしないアマダに対して他の職員達は遂に匙を投げてしまった。孤児院に努めている職員達ですらも面倒だと放置する中、【家族の園】の施設長のコナーだけは根気強くアマダを理解しようとしてくれた。
血の繋がりを持つ本当の家族に捨てられた彼女からすればコナーが自分に、もっと言えば孤児院の子供達を我が子の様に接する理由が理解できずにいた。そしていつものようにまた院の外で迷惑を掛けコナーから注意をされている時、アマダはどうしてここまで自分を気にかけてくれるのか質問した。
『そんなの決まっているわ。あなたが私の娘だからよ』
『私は……あなたの娘じゃない。血の繋がりだってないくせに……』
『そうね、確かに私とあなたは血の繋がりはない。でもね、〝家族〟になる事にそんな些細な事なんて気にする必要はないと私は思っているわ』
その言葉に対してアマダは内心でその考えを否定する。そんな訳が無い、血の繋がりがあるからこそ〝家族〟と呼ぶのだ。
気が付けばアマダは自分の家族である為の理論を口に出してコナーにぶつけていた。
それに対してコナーはハッキリと言い返して来たのだ。
『重要なのは〝血の繋がり〟ではなく〝心の繋がり〟だと私は思っているわ。だって私もこの施設に引き取られた孤児だったんだから……』
今までこの施設の人間に関心を持たなかったアマダはこの話の中で初めてコナーもこの【家族の園】で育った孤児の1人だった事実を知った。
自分と同じ境遇、だが自分とまるで違う〝家族〟に対しての見方から興味が湧いたのか気が付けばアマダは少しずつコナーと触れ合うようになった。そして気が付けば彼女は【家族の園】の一員として同じ境遇の子供達と家族に成れたのだ。
「その施設で愛を教わった私は卒園年齢となってそのままその施設で働くようになったんです。私をここまで育ててくれたコナーさんもお亡くなりになってしまって……だから今度は私があの施設にやって来た子供達の親になろうと思ったんです」
自分を家族として導いてくれた恩人との別れを思い出したのかアマダの目の端には涙が滲んでいた。
この話を聞いてファルは表現のできない感覚に陥っていた。
実の親から〝愛情〟を貰わなかったファルにとってこの話はかなり興味を惹く内容と言えた。つまりはこのアマダも自分とある意味では同種とも言える存在なのだ。にもかかわらずここまで自分と大きく異なる考えを持てるようになった。
気が付けばファルは色々とアマダに対して質問を繰り返し続けていた。その顔はまるで新しい事を知って胸を弾ませる小さな子供のようだった。そしてそんな彼と話す彼女はまるで〝母親〟の様にも見えた。
もしこの作品が面白いと少しでも感じてくれたのならばブックマーク、評価の方をよろしくお願いします。自分の作品を評価されるととても嬉しくモチベーションアップです。