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自分の道は自分で…


 マルクが激情に流されてホルンをクビにしたその頃、同じパーティーのメグは適当に街中をうろついて時間を潰していた。

 別に何か当てがあって歩いている訳ではない。ただあの飲んだくれリーダーに二人きりで付き合うのが苦痛だったのでしばし抜け出しただけだ。


 「ああもう最悪…何でこんな事になったのかしら?」


 自分達【真紅の剣】は周りの冒険者から憧れの対象であったパーティーだったはずだ。だが今はどうだ? ギルド内に足を踏み入れたらクスクスと嘲笑が聴こえる。それに陰では自分達が【真紅の剣】の真の無能だと蔑まれている。だがそれも無理ないだろう。ムゲンが抜けてから今の自分達はC難易度の依頼をこなす事すら困難だと言う現実を叩きつけられる日々だ。


 「くそ…全部マルクのせいじゃない。あの無能をクビにしなければ今頃Sランクに昇格していた可能性だってあり得たのに」


 マルクが煩く喚くので口にこそ出しはしないがメグだってもう理解しているのだ。自分達のパーティーはムゲンの力でAランクだったと言う事実に。

 とは言えメグはホルンと違いムゲンに対して申し訳なさは微塵も抱いていない。マルクほどではないにしろ彼女の心も残念ながら修復不能に近いレベルでもう汚れている。ムゲンが本当は有能な存在だと気付いても彼女はその事実に感謝などしない。それならば利用できるだけ利用してやれば良かったと後悔しているのだ。それは彼女はムゲンの存在を同じパーティーの仲間ではなく都合の良い傀儡としか見ていない証拠でもあった。


 「あの無能も無能よ。裏で自分が色々とフォローしていたのならその事実を私達に言えばいいものをだんまりし続けて最後はあっさりクビを受け入れる。今頃は落ちぶれた私達を嘲笑っているんでしょうね」


 そう思うとムゲンがとても憎たらしくて仕方がなかった。

 誰がどう考えても完全な逆恨みだろうが増長した本人は気付かない。自分のその傲慢さや愚かしさを当然の考えだと疑いすらしない。


 「くそ…ムゲンのせいよ。ムゲンのバカのせいで……」


 そう小声で恨み言をブツブツと言いながらそれなりの時間を外で潰したメグはもう一度ギルドの酒場へと戻る事にする。これでマルクがもう居なくなってくれれば宿に戻っているだろうから愚痴を聞かずに済む。もしもまだヤケ酒におぼれているなら今度こそ先に宿に戻ってしまおう。

 

 だがギルドへと戻る道中にメグはある人物と遭遇した。


 「あらメグ、てっきり宿に戻っていたと思ったらこんなところにいたのね」


 「ホルンじゃん。あんたこそ先に宿に戻ったはずじゃないの? それにその恰好は……」


 ホルンの髪や服は明らかに何かの液体をかけられて濡れた形跡がある。風に漂ってアルコールの匂いがするので酒がかかっている事に気付きそのザマはどういう事か質問した。


 「何でそんな酒まみれなのよ。その…宿で何かあった?」


 「違うわ。マルクにお酒をかけられたのよ。『お前はもうクビ』だって言われてね」


 「え……ええ!? クビってどういう事よ!?」


 あまりにもさらりと言われて一瞬受け流しそうになるメグだがすぐに動揺が走る。

 詳しく訳を問いただすとどうやらホルンは宿に戻らずムゲンと会っており、そして彼の言葉で目が覚めてマルクに一から出直そうと説得したらしい。しかしその結果マルクの怒りが爆発して勢いで彼女をクビにしてしまったそうだ。


 「な、何考えてるのよホルン!? 今すぐマルクに謝りに行きましょう!!」

 

 この話を聞きクビになったホルンよりもメグの方が遥かに慌てていた。

 

 知っての通り今の【真紅の剣】は落ちに落ちぶれている。当初はSランクに昇格してから仲間集めをはじめようと計画していた彼等だが今の不評状態の【真紅の剣】に入りたいと思う冒険者はおらずギルド内でも孤立に近い状態だ。つまりは何かしらの成果を周りに示さなければならない状況なのだ。そんな中でパーティーメンバーがさらに1人減るなどもうパーティー崩壊の一歩手前まで追い込まれる事になる。


 「私も一緒に謝ってあげるから今からマルクに頭下げに行くわよ! ほら早く!!」


 そう言いながらホルンの手を取るとそのままギルドへと向かおうとする。だが手を引いてもホルンはその場から動こうとはせずまるで石像の様に立っている。


 「ちょっと何してるのよ! 早く謝りに……」


 「謝りにはいかないわ。もう私は【真紅の剣】に戻る気はないわ」


 「はあ!?」


 「ねえメグ、あなたこそ今のままでいいの? いつまでも過去の栄光に縋っていても前に進めないわ。私はまた一から冒険者をやり直す。あなたはどうするの?」


 ホルンの一切の濁りの無い瞳が自分に向けられメグは何も言えなくなる。


 Aランクとしてのプライドが今更最初からやり直すなど認められない、その想いと同時にこのままマルクに付いて行っても未来は無いのではないかと言う危機感、その相反する二つの考えがグルグルと頭の中を駆け巡る。


 自分の中の葛藤で動けないでいるメグの手を解くとホルンは彼女に背を向ける。そして去り際にこう忠告をした。


 「あなたの人生、だから最終的な決断はあなたがしなさいメグ。私はAランクの地位を捨ててでも最初からやり直すわ」


 全てをやり直す覚悟を示しかつての仲間の元を自分から去るホルン。

 

 その背中を見つめながらもメグは答えを出せない。何が正解なのか分からないのだ。


 「どうしたら…どうしたらいいのよ?」


 その少女の疑問には誰も答えてくれない。結局自分の道は自分で見つけ出すしかないのだ。本来であれば難しくも何でもない当たり前の事だがこれまでリーダーのマルクの言葉に漠然と従い続けた彼女は頭を抱える事しかできないでいた。



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